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解決編3

今回で『真夏の悪夢』は完結です!

読んで下さった皆様、ありがとうございました!!

「成程、小説があなたにとって大切な存在だという事は分かりました。……しかし、それは殺人をして良いという理由にはなりません。しっかりと罪を償って下さい」

 岡崎君が言うと、小鳥遊さんはふうと息を吐き、彼の目を見た。

「刑事さん、一つだけ聞いて良いですか?」

「何でしょう?」

「私が犯人だと最初に気付いたのは、どなたですか?」

「……ノーコメントです」

「もしかしたら、捜査協力者の木下花音さんなのではないですか?」

「どちらにしてもお答えできませんが、何故そう思うのですか?」

「先程木下さんと会った時、昨日会った時とは雰囲気がまるで違いました。先程会った木下さんは、何かを見透かすような目つきをしていました。だから……まあ、あの劇の真相を見破ったからという理由もありますが」

 小鳥遊さんは、目つきだけで花音さんと秀一郎さんの違いに気付いたのか。


「他に言いたい事が無ければ、またこちらから質問させて頂きますよ」

 岡崎君が言うと、小鳥遊さんは笑みを浮かべて言った。

「ああ、あともう一つだけ……木下さんにお伝え下さい。『あなたの将来を楽しみにしている』と」


 私は考え込んでしまった。将来を楽しみにしているとは、どういう事だろう。花音さんが優秀だから将来の活躍に期待しているという意味では無さそうだ。小鳥遊さんの笑みには悪意が込められている。

 花音さんも考え込んでいたが、不意に目を見開くと、体を震わせ、その場にしゃがみ込んでしまった。


「花音さん、どうしました!?」

 私が屈んで声を掛けたが、花音さんは「あ……ああ……」と声を漏らすだけで、私と目も合わそうとしない。

「落ち着いて、木下さん」

 堀江先生も心配そうに声を掛けて、花音さんの背中を擦った。


 しばらくすると花音さんは少し落ち着いたのか、か細い声で話し始めた。

「……小川さん、展望ラウンジで小鳥遊さんが、『私達、似た者同士なのかもしれませんね』と言っていたのを覚えてますか……?」

「はい、覚えてますけど……」

「……つまり、小鳥遊さんはこう言いたいんです。『将来あなたが私と同じ犯罪者になるのを楽しみにしている』と……」

「は……?」


 私は、茫然として声を漏らした。確かに、保護者に虐待されたという境遇も、読書で現実を忘れようとした所も、小鳥遊さんと共通するかもしれない。

 でも、花音さんは小鳥遊さんとは全く別の人間ではないか。花音さんは、秀一郎さんという心の逃げ道を作ってはいたが、自分ではない誰かの為に動く事の出来る子だ。花音さんの事を碌に知らない小鳥遊さんに、花音さんの将来を決めつけて欲しくない。


 ……しかし、なまじ共通点があるせいで、花音さんがどのように自分の言葉を受け取るか、小鳥遊さんは推測する事が出来たのだろう。花音さんにダメージを与えようとしたのなら、小鳥遊さんの目論見は成功したと言って良い。花音さんは未だ体を震わせている。


「私……分かってるんです。自分の精神状態が普通じゃないって……私も、将来あんな風に罪を……」

「そんな事させない!」

 花音さんの言葉を、堀江先生が強い言葉で遮った。

「木下さんは、優しい子だ。人を傷つける事はしないと思ってる。でも、もし木下さんの心が壊れそうになったら、僕が止める。木下さんを……花音を、犯罪者になんてさせない!」


 堀江先生は、花音さんをギュッと抱き締めた。花音さんは、一瞬目を見開くと、涙ぐみながら言った。

「……ありがとう……お父さん……」


 事件が解決して数日後の夕方、私は警視庁で捜査報告書を作成していた。もちろん、例の事件についてではなく、都内で私が関わった事件についての報告書だ。


「よう、お疲れ」

 御厨さんが、缶コーヒーを私の机の上に置いた。

「ありがとうございます」

 私が頭を下げると、御厨さんは遠くを見るような目で口を開いた。

「……聞いたよ。花音さん、犯人に意地の悪い事を言われたんだって?」

「はい……でも、そのおかげで花音さんと堀江先生との距離が縮まった気がします。もちろん、小鳥遊さんの事は許せませんけど」

「ああ、堀江先生、花音さんに『お父さん』って呼ばれたんだっけ。堀江先生、嬉しそうだったよ」

「そうですか……」


 私は、コーヒーを一口飲みながら思った。これからも、花音さんの人生には色々な壁が立ち塞がるだろう。でも、堀江先生も私達も花音さんの側にいる。きっと、大丈夫だ。


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