第7話 ミトバフ弐
ミトバフ過去編 第二弾です。
ミトバフがハベリームに来てから二年が経った。
漁場での仕事もこなし、アーヴの母サヴタから料理や針仕事を教わりながら、
たまにガドールやその友達のヨナの相手をする。
そして夕餉を六人で取る、その後はハーヴァと話しをしたり
お酒を飲んだり、サヴタも交えてアーヴの若い頃の話しを聞いたり
たまに酒宴で酩酊しながら帰ってきたアーヴを叱ったりと。
穏やかだが飽きない日々を送っていた。
しばらくしてハーヴァが三人目を懐妊する。
年齢的にも厳しいが女の子が欲しいと願ったハーヴァ。
「女の子が欲しいけど、男の子でも嬉しいわ…
こればかりは神様次第ですもの…」と。
自分の子供ではないが新しい命が生まれるのは
嬉しく思うミトバフ、そしてこれから忙しくなるなと感じていた。
ミトバフは子供を産んだ事も兄弟姉妹もいなかったが
昔住んでいた村の妊婦の面倒を見たり、出産にも立ち会った事があった。
そこで思う。ハーヴァがいくら三度目で慣れているとは言え
妊婦は妊婦だ、あまり働いては体に障る。
今まで家事の多くを回していたハーヴァの事を考える
ガドールは手伝えることもあるが、やはりまだ子供。
サヴタは年齢や体調を考慮すると働いてほしくはない。
ティクバに関してはまだ世話を焼かれる側である。
ミトバフは決意する――――――
「家のお仕事は私におまかせくださいっ!。」
ミトバフは皆と相談して漁場の仕事を辞めて
シャムラール家の家事の殆どを行うようになっていた。
幸いアーヴは高給取りだったのでミトバフ一人程度の
食い扶持を養う事はなんの問題もなかった。
それに家の者は感謝こそすれ非難する者などいなかった。
漁場のヒト達も状況をわかっていたので
落ち着いたらいつでも戻ってきて良いと言ってくれた。
ハーヴァが臨月を迎える頃には
ミトバフは”シャムラールのお嬢さま”や
”シャムラールの小奥さま”などと呼ばれたりもした。
当然、ミトバフは恐れ多いと否定するが、
認められている気もして少し誇らしくもあった。
そしてハーヴァは出産をむかえたが難産となった。
アーヴは仕事の都合で郷から少し離れていたので
ミトバフがずっと付き添う。どれだけ時間がかかったのか。
子供はなんとか生まれアーヴも最後は立ち会う事ができた。
そして念願の女の子だった。
しかしハーヴァ出産の後、体力が尽きたのか意識を失ってしまう。
意識を取り戻したハーヴァは生まれた女の子にアデナと名付けた。
アデナはとても元気だったがハーヴァの体力は回復しない。
一日、また一日と衰えていった。
医師にも薬師にも診せたが一向に快方に向かわないハーヴァ。
ミトバフ達は神々に祈った。それでもハーヴァ良くはならなかった。
やがてハーヴァは寝台から起き上がる事もできなくなっていた。
皆、長くはないと解っていた、アーヴは手握りながら語りかける。
ガドールは涙をこらえるような顔で母の手を握る。
力なく頷くハーヴァ、時には苦笑いのような笑みを浮かべて応える。
ティクバもアデナもまだ解らないのであろう場の空気にポカンとしてる
サヴタとミトバフは部屋の隅にいた。そして神々に思いが届くよう祈っている。
最後の時が近いのかハーヴァはミトバフと二人で話しがしたいと言い出した。
部屋には二人だけになった、ミトバフはハーヴァの手を握る。
するとハーヴァは語りだした。
「ミト…私ね…とても欲張りで我儘な女なの……
あんな良い夫を持って、息子も二人、最後には欲しかった女の子も授かって
これ以上何を望むんだって神さまに叱られそうだけど……
私……まだまだあの人と過ごしたいし、子供達の大きくなる姿を見て世話を焼きたいの……。
だから私の代りにミトがあの人を助け支えてほしいな、そして子供達を見守ってほしいの
私の代りを知らない女がやるのは嫌だけどミトだったら良いと思うからさ…
だから欲張りで我儘な私の最後の頼み…聞いてくれるかな…?」
そう言って銀で出来た簪を一つ渡してきた。
以前に聞いた事がある、結婚する前にアーヴがハーヴァに贈った物だ。
ハーヴァは簪に誓ったそうだ”この先ずっとこのヒトを支える”と。
ミトバフは簪を受け取った。そして小さく「わかりました…」と頷く。
ハーヴァは満足そうな笑顔を浮かべて最後に家族を呼んできてほしいと言った。
ミトバフはアーヴ達を部屋に呼ぶ。ハーヴァは夫や子供達、義母に最後の別れを告げると
そのまま眠る様にこの世を去った。
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