第6話 ミトバフ
ここから3本程ミトバフの過去編に入ります
ミトバフは十七まで平凡な人生を送っていた、近くの教会までは
歩いて五キロル以上ある山村、学院なんてものは無く、店もない。
生活用の理気術は母から教わったが、せいぜい竈に火を付けたり、
風を少し起こして洗濯物を乾かす程度のものだった。
日々の暮らしは父の狩りを手伝ったり、母の手伝いをしたりと
毎日を穏やかに、そして退屈に過ごしていた。いずれ村に少ない同年代の
男の子の誰かと一緒になって家族を作りそして穏やかに暮らしていくと思っていた。
十八になる頃、その暮らしは一変した。
村に熊の怪ノ物が出たのである、怪ノ物とは一般的な
動物とは明らかに違う大きさや習性を持つモノだ。時に異形の姿になる。
その時のミトバフは知らなかったが、それは”突然変異種”と言うモノらしい。
熊の怪ノ物はたった数頭で村の狩人を全員殺した
父も母も殺し、他のヒト達も殺した、
運が良かったのか悪かったのか、気がつけばミトバフだけが生き残った。
父の手伝いで狩りで山歩きをしていたおかげで
山で暮らすことは何とかできたが一人はとても寂しく悲しかった。
ミトバフは教会のある村に向かった。
助けを求めたのもあるが一人が寂しかったのだ
だがここでもミトバフに不幸が襲った、野盗だった。
いくら狩りができるミトバフでも武装した野盗に敵うはずもなく
あっと言う間に捕まりミトバフは野盗の馬車に押し込められた。
馬車に揺られながら先の事を考えるが
野盗に捕まった女の行く末など想像するのは簡単だった。
だがまだ彼女の運命は潰えていなかった
「嬢ちゃん…大丈夫かっ!?」
ミトバフがその声の方を向くと
顔の左側に大傷がある男が野盗をなぎ倒してこちらへ走ってきていた。
一人、また一人と野盗を斬り伏せ、最後の一人を斬った時。
男は返り血で真っ赤に染まっていた。
ミトバフは感謝を告げ名乗る、男はアーヴ・シャムラールと名乗った。
ミトバフは少し警戒していた、しかし男に害意はなさそうだった。
彼は家に帰る途中だと言う。彼の家はハベリームと言う場所にあり
妻と息子が待っているのだと。
ミトバフが今までのいきさつを話し行くあてもない事を知ると
男は一緒に来たら良いと言った。
ミトバフは考えた、山で一人で暮らす事もできるが
今回のような野盗や獣に出会ったら助からない。
ヒトの居る村や町で暮らさないと碌な事にならないと。
ミトバフは男と一緒に行く事に決めた。
その後の事は着いてから考えたらいいと思いながら。
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ハベリームにたどり着くまでの間、
ミトバフはアーヴと色々な事を聞いた、ハベリームの事、
彼の妻子や母の事、今が皇都での仕事からの帰還である事。
そしてミトバフも自分の父や母、村のヒト達の事を話した。
そのまま何の危険もなく五日間程経った頃に二人はハベリームに着いた。
ハベリームに着きそのまま別れるかと思っていたミトバフを
アーヴは自分の家へと案内した。アーヴの家は思いの外大きかった。
アーヴは地元の有力者なのかと尋ねると、違うと答えた。
どうやら武功を立てた事によって、皇より様々なモノを賜った結果だと言う。
ミトバフはアーヴの家人に紹介された。
母のサヴタ、妻のハーヴァ、息子のガドールと生まれたばかりのティクバ
ミトバフは挨拶をすると三人はアーヴが二人目の妻を連れてきたと騒ぎだした。
ミトバフは自分はあくまで助けられただけであり
行く当てが無かったので一緒にハベリームに来ただけだと伝えた。
母のサヴタはそれなら仕事や住むところがが見つかるまで居たら良いと勧めてきた。
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ミトバフは郷の漁場での仕事をはじめた、住むところはまだ見つからなかったが
お金が貯まればいつか見つけられると思っていた。
一年が経った頃、ミトバフに縁談の話しが出る。
愛想はそれほど良くないミトバフだったが、仕事熱心で真面目
そしてその整った容姿に白羽の矢が立った。
しかし同じ頃アーヴの母サヴタが流行り病に罹った
ハーヴァが看病をするが子供達の世話もあり日々やつれていった。
ミトバフは世話になったヒト達の助けにならないかと。
縁談を断りアーヴ達に願い出る。
「まだこの家に置いていただけるなら、大奥さまのお世話は私が致します」と。
ハーヴァやアーヴはミトバフの申し出に感謝した。
それからミトバフの看病の甲斐あってサヴタは快方に向かう。
ミトバフはまた漁場の手伝いをはじめ、合間にサヴタや子供達の相手もしていた。
ミトバフは満足していた、独り立ちの時は先延ばしになったが
世話なったヒト達と楽しく穏やかに暮らせる毎日に。
決してそれは退屈な暮らしではないのだから。
続けてご覧になってる方、毎度ありがとうございます!
初めての方、宜しくお願い致します! ぜひ序幕からご覧ください。
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