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籠中ノ守リビト  作者: カナル
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第5話 お母さんと一緒

衣装イメージはアーヴはモンゴルの”デール”

ミトバフはチベットの”チュバ”を想像して書いております。


 ハベリームの郷の中心地にある露店広場を歩く三つの影。


 アーヴとミトバフ、そしてアデナである。

その姿は親子のようにとても幸せそうだ。


アーヴは家の中で着ている作務衣ではなく濃紺の”デール”と呼ばれる服に

腰に剣を帯びたしっかりとした服装、そして襟や裾・袖についた

動物の毛がついた外套を前を閉じないで羽織る、

少し野性味の有るスタイルだ。


 アデナは髪飾りをつけて体をすっぽりと覆うよな紅色の外套。

ティクバが見たら、心の中で可愛いを連呼する程の愛らしさ。


 ミトバフは普段は結っている長い髪を降ろして、

余所行き用の裾に柄のついた黒い外套を帯紐で締めて、

珍しく耳や装飾品をつけている。

一見してわかる気合いの入り様だった。


 男女問わず通り過ぎる人々が、思わず振り返る程の容姿と佇まいだった。


 四十路になるアーヴだったが実は郷の女性から意外と人気がある。

少し強面で野性味が強い見た目であるが、気さくな性格や

仕事の合間に子供と遊ぶ姿が目撃されるなど、

年若い女性から奥様方まで受けがいいのである。


 だが妻を亡くしてかなり経つ、子供も居るとは言っても

再婚の話しが出ないのも不思議に思うヒトも居た。

しかしその理由は簡単だった。

シャムラール家にはもう居るのだ”奥様候補”が。


 それが本日、気合が入っているミトバフだ。

その長い黒髪や整った容姿、年齢はまもなく三十路となるが見惚れる男性も少なくない。

事実、シャムラール家に来て十年、何度も縁談が出たが全て断っていた。


 四度目の縁談を断った頃から周りは不思議がる。

よそ者のミトバフにとっては全て悪くない話しのはずだった。

妻を亡くした主への義理立てか、幼い主家の子供達が気がかりなのか…


 どちらにしても結婚してからでも頻度は減るが

”お手伝い”としてシャムラール家を助ける事はできる。

しかし縁談に対して頑として首を縦に振らないミトバフ

アーヴも含む郷の有力者達が集まる郷議の場所でも話しが出る程にもなった。

そしてアーヴ以外の者は縁談を断り続ける理由に薄々気が付き始めた。



 あまりに健気であり一向に報われない(?)彼女の姿に心を打たれた者は多く。

そして郷内には秘密裏に”ミトバフ応援し隊”が結成される程になった。

それ故に郷内にはアーヴを巡って彼女に戦いを挑む者は居ない。


 そして、この様に二人で歩いている時などは

彼ら”ミトバフ応援し隊”の動きが活発化するのだ。


==================================


 アーヴとミトバフはアデナと手を繋ぎながら。

本日の目的地の”ウィズダム仕立て工房”を目指しながらブラブラと広場を歩く。


 目的地の”ウィズダム仕立て工房”の店主はアーヴの旧友だった。

そしてミトバフの着物のいくつかは工房で仕立ててもらった物である

自分達でも着物の仕立てや修繕は出来るが、プロには到底及ばない。


 それ故によそ行きの物などは”ウィズダム仕立て工房”で依頼する。

そして郷の者達の多くもそうしていた。


 アーヴ達三人はそのまま商店の並ぶ路地に入った。


 青果店の前を通ると声をかけられる、アデナ。

品物を並べている青果店の店主がこちらを呼び止めてきた


『おやっ? お父さんとお買い物かい?』


 元気よく頷くアデナを見て中年女性の店主は微笑みながら

これでも食べなと、よく熟れた果物を渡す。


『すまねぇなぁ…この前も貰っただろ? 今回はちゃんと払うぜ?』


 アデナが受け取った果物を見て苦笑いするアーヴ。

店主へ金を払おうとするアーヴだったが青果店の店主はやんわりと断る。


『いやいや…隊長さんには世話になってるから、構わないさねっ!』

アーヴは苦笑いしながら「そうか?…すまねぇなぁ…」と答える、


 さらに店主は悪戯めいた笑いを浮かべこう続ける。


『おっと…若奥さまには、こちらをどうぞっ!』


 店主は野菜が入った小さな袋をドサッとミトバフへ手渡ししてくる

一瞬、ポカンとした顔した後に真っ赤な顔になり小さく答えるミトバフ。


『いやっ………私ぃ…奥様なんて…そんな…』


 そしてチラチラとアーヴの方へ視線を送る。尻尾が上を向き高速で動いている。

アーヴも照れながら小さく「おぉぅ…」と否定とも肯定ともとれる言葉を呟く。


『あら?…まだなのかい?…まぁ…いいさねぇ』


 怪訝そうな顔をした青果店の店主だったが笑いながらミトバフの肩を

軽く叩きながら挨拶をして店の奥へと消えていく。

恥ずかしくなったミトバフは足早に青果店を立ち去る。


 しかし雑貨屋の前でも声をかけられた。


『おぉ…ミトちゃん、買物かい? うちの見ていってくんなっ』


 初老の雑貨屋の店主はこちらを手招きした、後ろを歩いてくる

アーヴとアデナを見るとニヤニヤと笑いながら耳打ちをしてくる。


『ミトちゃん……こないだ皇都で人気の洗髪剤と化粧品入ったよ?

これを使えば旦那もイチコロだよ……』


顔を赤らめたミトバフだったが雑貨屋店主に耳打ちで返す。


『………明日買いにいく…ので…取り置きして置いて下さいぃ…』


 雑貨屋の店主とミトバフのやり取りを見て

怪訝そうにするアーヴにニヤニヤと笑みを浮かべる雑貨屋は


『毎度ありっ!!』と大きな声で答える。


 そうこれが彼ら”ミトバフ応援し隊”活動なのだ。

遅々として進まないアーヴとミトバフを一日でも早く

くっつようとあの手この手で世話を焼くのだ。そしてこの商店街はその総本山だった。


 そうして様々な店から声をかけられたミトバフとアーヴは

やっとウィズダム仕立て工房に着いた。

着いた頃には野菜やら何やらと手荷物が増えていた。

三人はそのまま仕立て屋戸を開けて中に入る。


 ミトバフとアデナはあたりを見回して

この柄が良いとか生地が可愛いとか女子ならではの会話を開始した。

少し後ろで見ていたアーヴだったが不意に後ろから声をかけられた。


『いらっしゃいませっ! 気に入ったものがありましたら

いつもでお声がけくださいねっ!』


 翼人カーナフの女性店員が声をかけてきた。

ふとアーヴは見慣れない顔だと思った。


『店員さん、ここらじゃ見ない顔だね』


 警ら隊の隊長であるアーヴはこの郷のヒトはだいたい顔見知りだ。

さらに定期的に来る行商人だって顔は覚えている

それでも彼女の顔は記憶になかった。職業柄思わず詮索してしまう。


『私、お婆ちゃんのお仕事や商売を勉強する為に

 先週に皇都からこっちに来たんですよっ』


タリーと名乗った女性店員はミトバフとアデナを見るとアーヴにグイグイと迫る。


『奥様?、お嬢様??、それともお二人両方ですか???

最近の皇都の流行りだと、こちらの柄などがお勧めですよっ!

お嬢様には…そうですね…柄はありませんが明るい色のこちらなど………』


 たじろぐアーヴを見たタリー。

こちらを押しても駄目だと思ったのか標的を女性陣へと切り替えた。


『奥様いかがです? この柄などは? お嬢様とおそろいの柄でお色も他にもありますよっ?』

『お嬢ちゃんどう? お母さんとお揃いのお着物なんてお姉さん良いと思うなぁ?』


 はじめはミトバフ、そして追撃にアデナ、女心をくすぐるような

様々な売り文句で落としにかかる、女心を完全に理解している

なかなかのやり手だ。すぐにアデナが勧められた反物に食いついた。


『そんな…お母さんなんて…』


 自分が予想と違う反応にタリーは「しまったっ!」と心の中で思った。

「確かに母親にしては少し若いか?、でも姉にしては離れているような」ここを間違えると

女性客完全に離れてしまうと経験上知っているタリーは。作戦を切り替えた。


『あ…お姉様でしたかっ!…あまりに色っぽいので…、そんな大人な女性にはこちら柄物などっ!』


 一瞬、劣勢になった状況を覆す一手を繰り出すタリー。

そう商売は”戦い”だ、劣勢になったとしても最後に買ってもらえれば

勝ちだと言う事を彼女は知っている。

 しかし思わぬところから出た声でその”戦い”は中断した。


『ミトちゃん……”お母さん”になってくれないの……?』


 その一言はアデナだった。ミトバフは一瞬「ヘっ?」と間の抜けた顔する。

さらにゆっくりとアデナは続けた。


『ミトちゃん……お父さんの……お嫁さんになるんでしょ?

だから……それって……私の”お母さん”になってくれるって事じゃないの……??』


 これにはアーヴもポカンとした顔した。

しかしアデナは「違うの…?」と少し涙目になりながら続けた。


 ミトバフは郷の皆からは茶化されながらも応援されている事はわかっていた。

こっそりとアーヴにアピールはするものの亡くなった奥方や子供達の事を考えると

どうにも二の足を踏んでしまい最後の一歩は踏み出せなかった。


 でも今、アデナの言葉に力を貰い”一歩”を踏み出す。



『……なる……なるよ私、アデナちゃんの”お母さん”になるよ…』



 ミトバフは屈んでアデナと同じ目線にして、そして抱きしめた。



 女性店員とアーヴはこの空気に置いていかれていたが。

そこで店の奥から初老に入ろうかという女性が出てきた。


『……さてアーヴ、女にここまで言わせたんだ?

あんたぁ…どうするか解ってんだろうねぇ…?』


アーヴは頬を掻きながら呟く「わかってるよ…」と。

店主であり、古い友人でもあるウィズダムに答える。


 頬を赤くしながら潤んだ目でミトバフがこちらを見ている

アデナも涙目でアーヴの言葉を待っていた。アーヴは思う。


(何となく解っていた。

 いくつもの縁談を用意しても興味を見せず

 十年間も住み込みで自分や子供達の世話を焼いてくれた。

 それなりの理由がないと普通はそんな事はできない。

 子供達や亡き妻の事を考えて…考えないようにしていた。)


アーヴはひとつ深い溜息を吐いた。


『今日は、ミトの着物を頼むつもりだったがアデナの分も見繕ってくれ』


そして間をあけて言う。


『――――――それとな、とびきりの花嫁衣装の注文も頼む。』



 ミトバフはその言葉に涙を浮かべて喜びアデナを抱きしめる。

アーヴはそんな二人をゆっくりと抱きしめて笑顔を照れるような浮かべた。


『それじゃぁ…採寸するので”花嫁様”はどうぞこちらで』


そう言ってタリーとウィズダムは少し芝居がかった動きで

店の奥へと案内する。


頬を染めながら嬉しそうにするミトバフ。

そしてその手を繋ぐのは”母”と一緒に嬉しそうな顔をする

アデナだった。


続けてご覧になってくれた方”毎度ありがとうございます!”

初めての方は”今後とも宜しくお願いします!”

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