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籠中ノ守リビト  作者: カナル
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第4話 兄との稽古

バトル要素とほのぼの系です。 設定説明は今回は少なめです。

(カァァッン!)と乾いた音がシャムラール家の庭に木霊する

そして間髪いれずガドールの檄が入る。


『ほらっ! そんな打ち込みではウサギ一匹倒せないよっ!!』


 ガドールはティクバの渾身の一振りをを木剣の剣身で受けきって

そのまま力で押し返す、ティクバはそのまま体勢を

崩して尻もちをついてしまった。


 父より体格が劣るものの、兄ガドールもティクバの打ち込み程度ではビクともしなかった。

もう二十本ぐらいは打ち込んでいるがガドールは涼しい顔だ。

 ガドールは一歩、歩み寄って尻もちをついたティクバ手を差し出しては引き起こす。


『うん…悪くはないけど…まだまだだねぇ…』


 それはそうだ…剣闘際の優勝者にして近衛士からしたらそうだろう。

当たり前の事だがティクバはふくれっ面をする、

そして苦しい反論をしてみせる


『これでも学院の同年代では強い方なのですよっ!』


 「そうか、そうかぁ」と笑いながら頭を撫でてくるガドール。

完全にティクバは子供扱いだ、まぁ、実際子供なのだが……。

ガドールから頭を撫で回されていると少し離れたところから声が聞こえた。


『こんなところに居たあぁぁーっ!! 探したわよっ!』


声の方向を見るとそこには怒りのヨナ・バルゼル先生が仁王立ちをしている。

そしてこちらへ歩み寄りながらガドールの前まで来て指を指してさらに怒り狂う。


『ガドぉ! 何で帰ってきたらアタシの所に顔出さないのっ!?』


 ガドールは苦笑いをしながら「手紙はちゃんと出してただろ…?」と答えるが

バルゼル先生の怒りは収まらない、さらにガドールに詰め寄るバルゼル先生。


『そもそもっ!…あんなの未来の妻に対しての手紙じゃないわよ!

三行しかなかったじゃない! あんなの業務連絡よっ! むしろ業務連絡以下よっ!!』


『いや…先生…、兄上も何やら忙しかったようで…ね?

 それに勝手に人様の家の庭に入ってくるのは…どうかと…』


 ティクバが兄を擁護するとガドールは(ウンウン)と頷く。

しかしその程度ではまだ怒りは収まらない、そしてその矛先はティクバの方にも向かう。


『あのねぇ…玄関で大声だしたわよっ!

 それにこれだけ家族ぐるみの付き合いなのよっ! 今更でしょ?

………それとティクっ!! 学院の外では先生じゃないでしょ!?』


『…ハイ……姉上……』


 そう、この怒りのヨナ・バルゼル先生こと、ヨナ姉さんは兄ガドールの結婚相手である。


 ガドールとヨナは歳も近く、父親同士が仲が良かった。そして親同士で酒を飲んでいる時に

子供達の将来の話しになったらしく何故かガドールとヨナは許嫁と言う話しになった。

ガドール十歳、ヨナ十一歳の頃である。


 ガドールは酔った父の戯言だと思っていた、しかしヨナは違った。もともと好意はあったので

ことある事に「自分はガドールの妻だ」と言い。はじめは子供の冗談だと思っていた周りも

だんだん認めて今やこの郷では既成事実となっている。


 姉と呼んだことで少しだけ機嫌を良くしたヨナは尋ねる。


『さて妻の相手もしないでうちの旦那様は何をされてたのかしら?』


「未来」と言う言葉が抜けている事に気づいたがここはツッコまないでおく兄弟。

ここは聞かれた事に素直に答えようとするガドール。


『いや…たまにはティクに稽古をつけてやろうかとね…』


(フ〜ン…)と余り興味がなさそうなヨナだが、恐ろしい事を言いだした。


『だったら近衛流の稽古した方がいいんじゃない?……ティクってさ

学院ではもうかなり強い方だし、普通のだと退屈なんじゃないかな?』


さすが武官の娘、考えが脳筋だ。


『そっか………うん…ヨナが言う事も一理あるね、

悪かったねティク…もっと楽しいのをやろう…』


ガドールは一瞬考えたが、ヨナの意見に賛同した

どうやら脳筋女が惚れた男も脳筋だったようだ。


いや予感を感じるのでティクバは先に確認する。


『しかし兄上…近衛の訓練とはどんな事をされたので…?』


『そうだね〜組打ち百本?…でそこから乱取りとか模擬戦とか…

鎧着て盾持っての行軍訓練とかの地味にキツかったなぁ…』


キツかったと言いながら、何故か楽しそうに語る兄

目を輝かせて少し興奮気味に話しを聞く姉。

(どこの戦闘民族だ…)と心の中で呟く。


 ガドール楽しかった(?)思い出に一区切りをつけ

ポンっ手を叩き空気を切り替えた。


『それじゃぁ…組打ちも飽きたし…模擬戦でもしてみようか…?』


 少し楽しそうなガドールと盛り上がっているヨナとは逆にティクバは乗り気になれない。

学院の剣術模擬戦では強い方だがそれはあくまで同年代の話しで

大人相手、ましてや現役の武官相手では手も足も出ないと分かっている。


 負けがわかってるのに戦うのは好きにはなれない

そもそも家が武官だから剣術の稽古をしているのだけなのだ。

負けて悔しくないわけでもないが、〈強くなりたい〉というような

意識は他の武官の子供に比べるとティクバは低い。


 何とか兄との模擬戦を回避できないかと思案するが良い案が思いつかない。

一方、どうにかして模擬戦をしてみたい兄ガドールは一つ案を出した。


『…よしっ…確かに勝ちが薄いのはティクもつまらないだろうから…

先手はあげる さらに躱さずに受ける…、

それにどんな手を使っていい…それで体のどこかに当てたらティクの勝ちだっ』


 普通だったら、馬鹿にされたと怒るところなのかも知れないが

ガドールと自分の力量差を知ってるティクバとしてはそれでも薄い勝ち目だと思う。

しかしこれだけしてもらって相手をしないと言うのもガドールに悪い。。



ティクバは少し考えてガドールに尋ねた。



『兄上、どんな手を使っても怒りませんか?…』


 乗り気になったティクバを見て(うん、うんっ)と嬉しそうに頷くガドール


『じゃぁ…審判お願いね…ヨナ』


 やはり戦闘民族なのだろうか(おぉっ)と興奮するヨナは少し離れたところに移動する。


『ティク…準備が出来たら声かけてねっ!』ヨナを声をかける


 ティクバは少し離れた所にある木剣入れから

幼い頃に使った短い木剣を取り出す。剣より短く短剣よりは長いぐらいの長さ。

 鍔もなく剣身と柄の区切りもない。

もはやただの棒だ。そして腰の後ろにそれを挿しガドールの方へ進んで止まった。


「行きます…」と声掛けティクバは構える。

左肩少し下に握りと止め、剣先は少し後ろへ倒す構え。

ガドールは中段に構え、いつでも迎撃できるよう体勢を取る。


『はじめっ!!』凛としたヨナの声が合図となった。


 ティクバは一歩、歩み寄る。まだ間合いはどちらのものでもない距離。

少し間合いが詰まるところを見ながらガドールは考える。


 さっきティクバが後ろに挿した小剣の事、構えの型が

学院で教えているものと違う事。父が何か教えているのか?


 なにより左側に構えてる事。ティクバは右利きだったはず、

最近になって利き手を変えたのか?…


 あくまで稽古だから加減はするつもりだが

負けてやるつもりもないと思っているガドールは実戦さながらの読みを始める。


 するとティクバは距離を一気に詰め、大きく振りかぶった横薙ぎの一閃を放つ。

しかしガドールにはこの程度の速さは見えていた。


 ティクバの一閃を木剣の中心で受け止めるガドール。(カァァッン!)と乾いた音が響く

ガドールは次手を考える。受けた状態で力押しして体勢を崩したところに打ち込む…。

 ティクバも躱すかも知れないが、とりあえず体勢を崩す事には変わりはない…。


 しかし…


 ――――――ザァッ!!


 次の瞬間、下から砂利が飛びガドールを覆う、

まさかの目潰しだった。これには審判のヨナもポカンとする。

ガドールもさすがに至近距離だったのか一瞬動きを止める。


そしてティクバの右手、逆手に持たれた小木剣が

下段からガドールの左腕を捉えようとしていた。


 いつの間にっ!?


 ティクバは初撃の瞬間に木剣から右手を離していた。

初撃を陽動に、そして二撃目の小剣が本命。


 しかし普通に打ち込んでは兄ガドールに防がれしまうかも知れない。

そこで右手を隠す為に剣を嗜む者としては褒められたものではない目潰しを使った。


 しかしガドールの反射神経はすさまじかった、体を引き

小剣の間合いから出ようとする。「この程度の長さなら躱せるっ!」

ガドールの動体視力は回避可能と確信した。


 だが…


 ――――――シュルッッツ! 小木剣が伸び。


 ――――――バンッ!!  そしてガドールの左肩を捉えた。


 力が余り入ってないのか打ち込まれた肩はあまり痛まない。

いや、痛み以前に捉えられた事の驚きが上回った。


 これが三つ目のティクバの秘策だった。

小木剣の剣身を握って、長さを誤認させる。

そして当てる瞬間に振った力を利用して手の中を滑るように動かし

間合いを伸ばして当てる。


 試合では有効打にならないかも知れない

戦場では致命の一撃にはならないかも知れない。


 でも今回はいいのだ

”当てれば勝ち” それが勝利条件なのだ。

明確な一本を取る必要はない。


 あまりの予想外の戦いに審判のヨナも唖然としていたが

我に返りよく響く声で試合を止める。


『そ…そこまでっ!!』


 ヨナの声が響いた瞬間にティクバはその場に腰を抜かしてしまった。

そして思わず深く深呼吸する。

一本とられた事に驚いていたガドールだったがすぐティクバに歩み寄ってくる


『凄いじゃないかっ!!……ティクっ!!』

『ワタクシもガド相手に一本とれると思わなかったわ…』


 ヨナも驚きながら褒めてくれる。しかしティクバは

あまり誇らしい気持ちににはなれない。


『いえ…目潰しなど使ってしまい申し訳ないです……

とても普通に打ち合っては兄上の期待に応えられそうなかったので……』


 恐縮するティクバに対してガドールとヨナは苦笑いしながら肩をポンポンと叩く


『まぁ…確かに上品とは言えない戦い方だったかも知れないけど

剣に毒が塗ってあったらティクの知略勝ちだよっ!』


『そうねっ…生きるか死ぬかの時は目潰しだって、噛み付きだってきっとアリよっ!』


 物騒な事を言いながら戦闘民族、いや戦闘狂夫妻(未来の)は褒めてくれる


『しかしこれは将来大物になるねっ! 父上が帰ってきたらに伝えなきゃなぁ!!』


『うんっ ワタクシも父上にお伝えするわっ!

うぅん…むしろ郷中に伝えたいわっ!! うち子がこんなに強いなんて…』


 ヨナとガドールの芝居がかった動きと言動に少し呆れ気味にもなる。

そして心の中で「あんたの息子じゃないわっ!」と突っ込むが

ここは冷静になってもらうのが先だった。


『いえ…手加減してもらった上に卑怯な戦法だったので

 あまり広めてほしくないのですが…』


 武官の息子が目潰しに計略三昧など

あまり褒められたものではないと思うティクバはヨナに釘をさした。

しぶしぶ納得したように頷くヨナとガドールだった。


 褒めてもらったのは嬉しいが噂があんまり独り歩きしても良くない

さらに父や兄の武名に泥を塗ったりもしたくはない…とティクバは考えた。


しかしここでしっかり口止めをしなかった事が後々に

周りからの目が大きく変わることになる事をティクバは想像していなかった。



リピートして見てくださっている方

ありがとうございます!!

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