閑話④ 親子喧嘩の行く末
ティクバが牢から出た日の夜、
ヤーフェは自宅の近くの茂みで立ち往生していた。
そしてその隣には困り顔のガドールがが岩に腰掛けている
『ヤーフェちゃん…そろそろ帰んなよ〜』
『いえ…まだ心の準備が出来てないんですっ!』
ヤーフェはそう言って深呼吸をする。
しかしヤーフェはガドールとのこのやり取りを
かれこれ四半刻程この場所で繰り返してた。
ヤーフェがこんな場所で立ち往生している理由
それは単純に家に帰りづらいと思っていたからだ
最後に両親とまともに口を聞いたのは三日前
昨日、両親の若い時の話しを聞いたまでは良かった。
そこから郷の会議に割って入って口出しをして
さらに数刻前に親には聞いてほしくないような爆弾発言を
ヤーフェは父の前で口走ってしまったのだ。
いったいどんな顏で帰ればいいのか頭を悩ましていた。
説教 ? いいやその程度で済むだろうか? 最悪は勘当宣言?
そこでヤーフェは藁にもすがる思いで尋ねる。
『ガドールさんって親子喧嘩とかした事あります?』
『いやウチは放任主義だしね…
それに父上はあんなだし、下にも二人居るから
喧嘩らしい事は無かったかなぁ』
帰ってきた答えは何の役にも立たない言葉。
思わずヤーフェは悪態をたれてしまう
そもそもこれは自分の問題だ、
そう割り切ってヤーフェは再び大きく深呼吸をする
そして気合を入れるかのように両頬をパンッと叩く。
『ガドールさん! 私、帰ります!!』
『うん! 健闘を祈る!!』
まるで達成困難な任務に赴く兵士を
激励する上官の様なやり取りをする二人。
戦場は我が家。
攻略対象は両親
任務達成条件は両親との仲直り
『ヤーフェ! 行きますっ!!』
そう言って数歩先の我が家と言う名の
戦場へ向かうヤーフェだった。
『ただいまぁ〜〜 ? 』
まるで忍び込む用に自宅の扉を開けるヤーフェ。
先程茂みから父の帰宅は確認済みだ
それ故に帰宅直後に父から怒鳴られる恐れもある為
慎重に一歩一歩進む。
すると奥から母が出てくる。
『母さま、ただいま…この前はごめんなさい… 』
三日前の涙を湛えながら叱る母
今まであんな姿を見たことがなかったヤーフェは
自分がどれだけ母を悲しませたか悔いていた。
父の言葉には怒りを覚えたが
母を悲しませたのは別問題だと
思っていたので素直に謝る事ができた。
そんな娘の想いを察しているのか母は微笑みながら答える
『良いのよ…もう許すわ… 』
その優しい笑顔と言葉にホッと胸をなでおろす。
これで問題を一つ解決した。
次なる問題は最大の攻略対象の父親 シェクラである
『父様は? もう帰ってきてるよね?』
ヤーフェは意を決して尋ねる。
一応、謝るつもりはあるが
それでもまた口論になってしまう恐れもあった。
この前言い過ぎた自覚はある。
しかしティクバの事を悪く言われたり
知らない相手と結婚させようと言うのは
今のヤーフェとしては我慢ならない事なのだ。
そんな事を考えていると母は少し困った様子だった。
『父さん…帰ってはきてるんだけど…ね?』
そう言って奥の方、おそらく居間を視線で指した。
ヤーフェは恐る恐る居間への戸を開ける
そこには頬杖をついているであろう父の後ろ姿があった。
『父様…ただいま…』
父の後ろ姿に声をかけるヤーフェ
これが開戦の合図になるだろう、そう覚悟して声をかけた。
しかし返事は返ってこない。
返事もしたくない程に怒っているのか?
ヤーフェは攻略の難易度が跳ね上がったの感じつつ
父の正面に座ろうとする
そして見たものは酒が並々と入った
杯を握りつつ、意識を失いかけている父の姿だった。
しまいには何やらブツブツと呟いている。
父が酒を飲むことなどほとんど無いはずだった。
状況がいまいち飲み込めないヤーフェ
『父様…どうしたの?』
すると母も困り顔で答える
『それがねぇ…帰ってくるなり
お酒を出して呑みだしたのよぉ……
何かね…俺のヤーフェがぁ〜…とか
ヤーフェが遠いところに行くぅ〜…とか
よく判らないことを言っててねぇ
しまいには泣き出しちゃったのよ〜』
おそらく領主達の前でした爆弾発言の影響だろう
酒にそれほど強くないのはアーヴから聞いていたが
父が家に入ってから四半刻も経ってなかった。
にも関わらずこれほどの酔いつぶれ方は
よほど衝撃だったのかも知れない。
しかし何も知らない母としては
夫の唐突な行動に首をかしげていた。
『めったにお酒なんて飲まないのに…
酔いたくなるほど嫌な事でもあったのかしら?
ヤーフェ何か知ってる?』
『うぅん…よく判らないカナ…?
きっとお仕事が大変なんだヨ…』
母の問いに少し罪悪感を覚えながら知らないと答えるヤーフェ
そんな父はブツブツと呟きながら悲しそうな顏をしていた。
これは攻略できたのであろうか? ヤーフェは戦況を判断しかねた
ただ判った事は父が自分の事を大切に想っている事実だった。
ヤーフェは勘当覚悟で帰ってきた自分が馬鹿らしくなり
思わず笑みを溢すのだった。




