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籠中ノ守リビト  作者: カナル
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第30話 それは嵐の前の静けさ

 ヤーフェは今現在、未知の頭痛に襲われていた。

それは理術を使いすぎた時よりも、

毎月やってくる女性特有の頭痛よりも

真夏に氷菓を一気に食べた代償の痛みよりも

重く、頭の奥からやってくる痛み。


 だがその症状をミトバフ訴えても呆れられ

アーヴやガドールに伝えても苦笑いされる

しまいにアデナにはクズ扱いされる始末である


 そう未知の頭痛は俗に言うただの二日酔いであった。


 そんな頭痛を抱えながらヤーフェは朝餉(あさげ)を頂いていた。

今朝の献立はハベリーム沖でとれた魚の塩焼きと汁物、

それに根菜類と鹿肉の煮物に漬物などなど


 家柄なのか朝からしっかりとした味付けの物が多い

しかしどれも今のヤーフェには少し重く感じられた。


『ヤーフェちゃん食べないの?

 いつもはもっと食べているのに…』


 汁物や漬物ばかりに手をつけている

ヤーフェを見てガドールが尋ねる

するとヤーフェの代わりにアーヴが苦笑いしながら答える


『二日酔いだよ…

 お前とは違って普通の奴は二日酔いになると食欲が落ちるんだよ』


 どうやらガドールは二日酔いになっても

食欲が落ちない体質のようだった

今のヤーフェとしては羨ましい限りである。


『これが噂の二日酔いなんですねぇ……

 こんな思いするなら二度とお酒は呑まないですぅ……』


 汁物を啜りながら今の正直な気持ちを伝える

その言葉に大人三人は苦笑いしているがアデナは辛辣に答える


『安心するですヤーフェ……

 父さまも二日酔いになった時に

 今のヤーフェと同じ事を言いながら

 酔い覚ましを飲んでいるのです……

 そしてまた翌月には二日酔いになるのです…』


 安心する要素がどこにも無い言葉を言うアデナに

思わずヤーフェは突っ込んでしまう


『それの何処に安心する要素があるのかな!?』


 するとアデナは吐き捨てるように答える


『酔っぱらいは皆同じで、

 つける薬も無いってことなのですっ!』


 アデナの言葉にバツが悪そうにするアーヴ。


(あぁ…アデナちゃんの毒舌がついにおじさんにまで…)


 思わずアーヴに憐憫の眼差しを送ってしまうヤーフェ

自分もあまり言えないが娘から冷たい扱いを受ける父の姿は

傍から見てると応えるものがある。


 今思えば父との口論は少し言い過ぎたかも知れない

常に味方だった母ですらあれほど怒ったのだから

自分の言葉は相当に二人を傷つけたのだろう

ヤーフェは罪悪感を覚えつつ帰ったら両親と仲直りしようと思うのであった。










 朝餉(あさげ)を頂いた後、ヤーフェは

先に仕事に出たアーヴから少し遅れて自宅へ帰る事にした。

未だ外出規制中なので護衛にガドールもついてくる

実際には護衛とは名ばかりのただの話し相手だった。


『それで? 人生初の飲酒体験はどうだった?』


 戸口を出てしばらくしてからガドールが聞いてきた。


『さっきも言った通りですよ…

 こんな思いするならもう二度と呑みません…』


 ヤーフェは今の率直な気持ちを答える。

確かに昨日のリンゴ酒は美味しかった

しかしこんな頭痛や倦怠感に襲われるなら

もう呑まなくても良いと思える程に今の体調は悪い。


『まったくこんな事になるのに懲りずに呑む

 おじさん達の気が知れないです』


 未だ脈打つ周期でやってくる頭痛に頭を抱えるヤーフェ

そんな姿を見ながらガドールは返す。


『でも適量のお酒は体に良いし、楽しい気持ちにしてくれるよ?…』


『それで毎年、聖謝祭で何人も警邏隊のお世話になってますけどね?』


 間髪入れずに切り返すヤーフェ。

その皮肉の鋭さにガドールは驚きつつも苦笑いした。


『まぁ…いいさ、

 そのうちヤーフェちゃんにも解るよ酒の力の偉大さがねっ』


 ヤーフェも酒の力の凄さはなんとなく解っていた。

おそらく素面では父の若い時の話しなど聞いてみよう等とは

思わないだろう、ましてや両親の馴れ初めなんて

恥ずかしくて聞けたものではない。


 だが昨晩はその酒の力でサラリと聞けてしまった。

もちろんアーヴも酔っていたせいもあるが

割とすんなり聞けてしまったのである。

むしろ楽しみながら聞けたと言っても過言ではない。


 しかしその時は楽しみながら聞けたが

今思えば当時の両親は現在と印象がまったく違いすぎて困惑する程だった。


 これから両親と仲直りを考えていたヤーフェは

いったいどんな顏で会えばいいのかと頭を悩ます

それこそ酒の力を借りた方が良いのでは? などと考えてしまう。







 暫く歩きながら酒についての話しをする二人。

そして広場に出ると郷の入り口の方に

見慣れない馬車が停まっているのが見えた。


 それはヤーフェがこの郷にやって来る時に

乗っていた貴人用の馬車と遜色ない程だった。



『ガドールさん……あれって……』


『あぁ…たぶんそうだ…』



 ガドールの返事を言い終わる前にヤーフェは駆け出していた。


(やっと皇都から研究員のヒトが来てくれた…)


 彼らが来たからと言って

すぐさまティクバが牢から出られるワケではない、

ましてや調査結果によってはそれも叶わないかも知れない

それぐらいの事はヤーフェも解っていた


 それでも今のティクバを救えるのは彼らしかいない。

故にすがるような想いでヤーフェは馬車に向かっていた







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『どうだ? 昨晩の見回りは問題無かったか?』


 朝の警邏隊(けいらたい)隊長室、

アーヴは毎朝の日課である昨晩の見回りの報告を

夜勤の年若い隊員から受けていた



『ええ、近隣の村の方も問題ありませんでした』


『そうか…ご苦労さん、今日はもう上がってくれ』



 報告してきた隊員に労いの言葉をかける

すると思い出した様子で隊員は言葉を追加してきた。


『あっ…そう言えば問題ないかと思うのですが…

 隊長のお宅の方でヒトが揉み合う姿が見えたとか…』


 アーヴは昨晩の騒動を思い出す。



『あぁ…それはたぶんシャローム嬢と

 ウチの(せがれ)が組手でもしてたんだろ……』


『なるほど…そうでしたか…さすが剣聖ですね!』



 そう…あれは組手、もしくは少し本格的な捕縛術の指導だ。

決して嘘は言ってない、言ってないが罪悪感を覚えるアーヴ


 そんなアーヴを尻目に若い隊員は敬礼をして隊長室から出ていく。

すると入れ違いでもう一人、隊員が部屋に入ってくる。



『失礼します! 都から例のお客人が着いたようです!』


『そうか…それなら領主様の屋敷の方へ案内してやってくれ

 それと客人が来た旨を教会と学院長にも伝えるように

 俺は狩人長に声かけてから行く…』



 それを聞いた隊員は了解の意を表した敬礼をして部屋を出ていく。


(やはり気兼ねなく指示を出せるのは楽だな…)


 隊員達にはティクバの件や現在の状況を伝えてあった。

初めは黙っていようかと考えたが既にサウルを取り押さえた者や

ティクバの牢番を担当した者には見られているのだ。

仮に口止めをした所で憶測が変な噂を呼ぶ、

それが仕事の邪魔になっても面倒だとアーヴは考えたのだ。


(さてオレも行くか……)


 そんな事を思いアーヴは窓の外を見る。

家を出た時は晴れていが今の空模様は曇天。

「一雨来るな…」そう小さく呟くと

アーヴは雨天用の外套を手に取り部屋を出た。



続けてご覧になられている方、有難うございます。


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