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籠中ノ守リビト  作者: カナル
20/64

第19話 収穫祭

 秋が深まり、今年の収穫を殆ど終えた頃、

ハベリームでは収穫祭の準備に取り掛かる。


 今年の収穫に感謝し、来年の豊作を祈る祭り、

神官に祈願を依頼して行う程にハベリームとしては

由緒ある行事であるが

その実情は郷内無礼講の大きな宴席のようなものだ。


 この時期になると近隣の村落や遠方からも

ヒトが訪れるので広場に市が起ち郷の全体が賑わう。


 しかしヒトが増えれば問題も増える。

例年この時期は忙しい警ら隊だが、先日の森の一件もあり

警ら隊だけでは足りず近衛兵も巡回や警備に駆り出される事になった。

そしてヤーフェの護衛のガドールもその例外ではない。


 そもそもこの郷内で大人しくしていればヤーフェの身に

何かある事などほとんどなく、あくまで護衛は

体裁を保つ為の様なものだったからだ。


 そんな事情でティクバは兄の代わりとして

ヤーフェの護衛をするように申し付けられたが、

じっと座っているという訳にもいかず

いつも通り一緒に訓練をしているだけと言う事になった。



 二人が庭先で木剣の素振りをしているとアデナが部屋から出てきた。


『あっ…ヤーフェ…今日も来てるですか』

『えぇ…今日も来てるわよぉ…』(また呼び捨て…)


 開口一番、憎まれ口を叩くアデナ。

それに対して大人な対応をするヤーフェ。

森での一件以来、アデナはヤーフェに対しても口を聞くようになったが

やはり他の皆と同じ対応とはいかず、棘のある物言いが多い。

ティクバも初めは注意したが今はもう諦めてしまった。


『おぅ…アディどうした?』

『広場に市が起っているから、兄様(あにさま)もどうかと思ったのです!』

『あっ、私も行きたい!!』


 アデナの提案に乗ってくるヤーフェ。

お前は来るなとヤーフェに噛み付くアデナを見ながら考えるティクバ


『市か…一応、護衛しとけって言われてるしなぁ』


 どうしようかと考えていると声がかかる。


『良いんじゃないですか?…家に居ろと言われた訳でもないですし…

 それに私も一緒に行くから大丈夫ですよ』


 声の主ミトバフは既に出かける様相だった。

アデナが言わずとも声をかけるつもりだったのだろう。

確かにこのままでは収穫祭の期間だと言うのに

毎日訓練になってしまう、そう考えると出かけるのも悪くない気がしてきた。


『わかりました…ミトさんも来てくれるなら大丈夫そうですね』


 ティクバがそう返事をすると

後ろの方で「やった!」と喜び合うヤーフェとアデナ。

ティクバも出かける準備をしようとする。


『あ…でも…ディクさんは護衛ですからね…ちゃんとしないとね…

 ガドさんに護衛…頼まれてますものね…』


 何やら含みのあるの言葉に疑問を覚えるが。

ミトバフが言うのだからと彼女が手招きする方へ行く

そして彼女が用意したモノを言われるままに付けて市へ向かうのだった。




==================================




『おぅ…ティクバ…』『やぁ…ティクバ君…』


 出会い頭に微妙な顔をしながら挨拶するガルとヤレアハ

その後ろで間抜けな顔をして口を開けているルアハ。


『ぅう…皆…これには事情があってだな…』


 三人の反応が微妙な理由。

それはティクバの装いにあった。

革鎧に小盾、腰には剣を帯びている。

ほぼ完全装備である。


………場違い………。


 ガル達三人がまず思った事はこの単語だった。

しかしティクバの後ろのヤーフェはまったく気にしていない。

ミトバフとアデナに至っては「カッコイイ!」とか

「毎日着てほしい!」などと言っている。



 何故こうなってしまったか、

市には行きたい、しかし護衛を頼まれている。

そこで体裁を保つ為にいかにもそれらしい姿になる事を

提案してきたミトバフ、その言葉に納得すると。


 どこから持ってきたのか

かつてガドールが着ていた革鎧一式と

刃を引いた儀礼剣を出しティクバに着付けた。


 そして今に至る、


 経緯を話すと苦笑いする三人

ヤーフェは「カッコイイよっ」と言って慰めてくれるが

ティクバも場違い感があるのは分かっている。

単純にミトバフに着せ替え人形にされた感が否めないが

これも護衛と言う体裁を保つためと耐える。




 しばらくするとアデナが露天の食べ物に釣られ

それを追うようにミトバフもこの場を後にする。

結局ミトバフも子供達の為と言いつつも

自分が市に来たかっただけのようだった。

露天の方へ姿を消す二人を見てティクバ達は溜息を漏らす。


 すると雑踏の向こうから

決闘騒ぎで問題児となった

マザールとサウルがやって来て声を掛けてきた。


『おう、ティクバ! お前もか〜』


 言葉の意味は二人の姿を見たら理解した。

彼らも完全装備なのである。

さらにマザールに至っては警ら隊の鎧を着ている。


『マザール君…それ…警ら隊の鎧じゃ…』


 すぐ気付くヤレアハはマザールに尋ねる

するとマザールは嫌そうに答える。

要約するとこうだった。


 巡回の隊員の人数が足りない。

ならば大人と変わらない体格のマザールに

警ら隊の鎧を着せて歩かせておけば

外から来た客は警ら隊だと思い

犯罪抑止の効果もあるだろうと言う父親達の考えだった。


『お前も大変だな…』

『ティクバこそ…』


 決闘騒ぎの後に開かれるようになった

ガドール剣術道場で一緒に訓練するようになったマザール。

その大人顔負けの体格と体力活かした剣撃は

今すぐにでも近衛入っても良いとガドールが褒める程だった。


 対してサウルは体格こそ小さいものの

間合いの取り方が上手くその素早い動きは

ティクバでも捉えるのが難しい。

決闘騒ぎでは揉めたが、今は和解して

二人ともいい訓練相手になってくれていた。


『しかしガドールさんの代わりだなんて、大役じゃないか』

『いや、別に護衛とは言っても

 毎日遊んでるようなモノだぞ?…うちの兄上は』


 冗談か本気か分からないマザールの言葉を

ティクバは否定するが、何が楽しいのかマザールは笑う。


『しかし護衛とは言っても"お嬢”自体が強いからなぁ

 聞きましたよ? 森の中に分け入って狼を何頭も始末したって』

『そんな…一頭だけだよ、それにルアハちゃんもやっつけてるよ』


 マザールは決闘騒ぎ以来、ヤーフェの事を”お嬢”と呼んでいる

実際、上位神官の娘はお嬢様だから間違ってないのだが

ヤーフェは「何か違う!」と言って止めてほしそうだったが

今はもう諦めて普通に答えていた。


『おぅ…それそれ、俺が遠漁に出てる時にあったやつだろ?』

『そうだよ…ガル君いなくてルアハちゃん大変だったんだから…』

『お、おぅ…すまねぇ』


 不在だったガルを糾弾するような物言のヤレアハ、

実際それほど本気では思っていないのだが

それを聞いて本当に申し訳なさそうにするガル。


『でも、私達は何とか無事だったから良しとしよう』


 そう言って話しを締めるヤーフェ。

そう「私達は無事だった」のだ、

そこに二人の狩人の犠牲があったとしても。

あの時の光景は決して冒険譚として片付けられるものではなかった

自然の恐ろしさと自分達の命のあっけなさを感じさせるには十分だった。


 ヤーフェが語りたくない理由を

ルアハ達も察しこの”森での活躍”の話しはそこで流れた。




==================================





『さて…、そろそろ行くわ』


 そう言うと一緒に行動してきたマザールとサウル

ティクバ達五人に挨拶すると雑踏の中に戻っていく。

警ら隊の父に市の全体を回るように言われているのだろう。


 残ったティクバ達五人は再び露天を回りはじめる。

香ばしい匂いを漂わせる串焼き屋、様々な景品を置いている射的

遠方の飾り細工の土産物、どれも普段では見れないものだ。


『いや〜、初めての味ですけど美味しいですねぇ』


 先程買った串焼きを頬張るヤーフェ。

どうやらツァディクでは食べた事がない味つけなのだろう

飢えた獣のように齧りつき。一口食べる度に絶賛している。


『ヤーフェちゃん、タレが服にこぼれてますよぉ』


 食べ歩きに慣れてないのかタレをこぼして回る

ヤーフェを母親のように注意するルアハ。


 この光景ではヤーフェが”お嬢様”など誰も

思わないだろうと笑い合う五人。

先程五人でやった射的ではルアハに次いで高得点を

叩き出し、店主が涙目になるほど景品を攫った。

もはや箱入り娘どころか立派なお転婆である。


 そうしていると前方に人だかりが出来ているのに

ティクバが気付き、足を止める。


『何だぁ? 急に止まるなよティクバ』

『何かおかしい…』『何かって…』


 ガルとヤレアハの言葉も言い終わる前に

 人だかりを分け入っていく五人。


 そこには三人の柄の悪そう男達、

そして男達に因縁をつけられている翼人(カーナフ)の女が言い争っていた。


いつもご覧にいただいている方、毎度ありがとうございます

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