第12話 祝福
今回もほのぼの&設定回みたいなものです。
ヤーフェ・シャロームがやって来てから
そろそろ一週間が経とうとしていた。
ここ二日程はティクバ達以外の学生とも
交流しているようで数人の女子と一緒に
食堂で食事をするのも見かける。
どうやらうまく馴染めているのだろう、
…むしろ人気者のような気さえする。
ティクバはこれを見て安心するのだった。
何故ならヨナから強く言われている事があるのだ。
「いいティク?…シャロームさんの事、見てあげてね?
ヤレアハ君とかと協力して年次に
早く馴染めるようにしてあげてっ! わかった?」
義姉様の指示もあって、ティクバはこの一週間
たびたびヤーフェに声をかけた。
それを見ていたヤレアハとガルは毎度ニヤニヤしている。
ルアハはよく分からない自愛の眼差しだ。
三人とも自分がヨナから釘を刺されている事を
伝えたはずなのに、それでも冷やかしてくるのは
正直いかがなものかと思うティクバだった。
そして学院外でも一つ嬉しい話題があった。
ついに父、アーヴが再婚すると言う。相手はもちろんミトバフだ。
一週間程前から言う機会を伺っていたようだ。
報告を聞いた時、ガドールとティクバは素直に祝福した。
アデナは事前に知っていたらしく何やら得意げだった。
しかし報告を受する際のアーヴの歯切れの悪い姿を思い出すと笑えた。
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それは、一昨日の夕餉の時間、
何の祝い事でも無いのには少し豪勢な食事を訝しんだが
全員と呟き箸をつけはじめる
しかしアーヴは箸をつけず、何やら機会を伺っていた。
「あのな…お前ら、ミトはこれから家族になるから…な…?」
呟くような今更の父の発言にティクバは意味を理解できない。
しかしガドールは違った。即座に理解して少し意地悪をする。
「父上、今さら何を仰るのか? ミトさんはずっと家族じゃないですか?」
ミトバフは苦笑いをしている。ガドールも少しニヤついている。
ティクバはそこで気がついた、ガドールに意地悪に。
するとまだ一杯も呑んでないはずのアーヴは顔を真っ赤にして言う。
「だから………ミトと結婚するって言ってるんだよっ!
親父を茶化すなよ…馬鹿野郎が…」
「そうですかぁ… 父上それにミトさん、おめでとうございます」
ガドールは白々しく祝福して、アーヴの盃に酌をする。
先程、苦笑いだったミトバフも今は満面の笑みで応える。
「これからは”母上”と呼ばないとですね」
ティクバはふと思った事を呟く。
「いえいえ…今まで通りで良いですよ。お二人の御母上は
やはり奥様ですし、今さら呼び方を変えるのも慣れないモノでしょ?」
やんわりと断るミトバフ。確かに今更呼び方を変えるのも
少し気恥ずかしいものはある。しかしアデナは聞いてきた。
「でもさ…これからはさ…お母さんの事聞かれたら
ミトちゃんの事を言えば良いんだよねっ?」
アデナの言葉には一同は満面の笑みでその通りだと頷いた。
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父の普段見れない顔。
思い出す度にティクバは笑いを堪えてしまう程だった
そして今日はそんな目出度い二人に付き添いで教会へ向かう途中だった。
この国、いや…おそらく大陸に住まうヒトは人生のうちに
何度か教会へ訪れる必要がある。
それは古来、神々が定めたいくつかの決まりだった。
●夫婦となる男女は教会に赴いて、
神々と神使の前で夫婦となる報告と儀式をする必要がある。
●子供を設ける為には父母そろって教会で”請願”と言う儀式を
しなくてはならない、しかし”請願”は子供を望む度に行う必要がある。
●すべての子供は十歳〜十二歳の間に
祝福を得るため教会に赴かなくてはならない。
教会関係者となると他にいくつかあるようだが
基本の三つは教会関係者・皇族、貴族、平民すべてに共通するものだ
父達は一つ目の儀式に。
そしてティクバが一緒に教会を訪れる理由は
この三つ目の”祝福”とやらを受ける為だった。
ガドールに聞いたら別に”神々の声が聞こえる”とかは
残念ながら無いそうだ。
教会に辿り着くと、多くの参拝や儀式に訪れた者が居た。
他にも幾人かの面紗を付けた神官も居る。
神官は上位の者以外は目元以外を隠す面紗を付ける。
それも教会の教えの一つだ。
神に仕える者として”個”を捨てて
神やヒト全体に奉仕する意思の表す為らしい。が
しばらく歩くと完全武装した兵士が数人居た。
兵士も面紗をつけていたが神官ではなさそうだった。
その中の一人が自分達に向かって会釈をした。
アーヴは無言で頷くように返す。
アーヴの知人のようだがティクバは分からなかったので
そのまま素通りして、そのままアーヴ達を追う。
教会の最奥の間、祈りの間とも呼ばれる場所。
その手前でアーヴ達は神官の一人に声をかけられた。
『シャムラール隊長!
シャムラール隊長!ではありませんか?』
面紗を付けておらずアーヴより少し上ぐらいの
年齢だと思われる神官がアーヴに声をかける。
『エムナ殿、お久しぶりです。
おっと…これは失礼、今は神官長殿でしたね』
『いえいえ…そんな畏まらなくて結構ですよ。
しかし隊長が来られるなど…
珍しい事もあるものですね、お子様の付き添いですか?』
エムナ神官長と呼ばれた男がこちらを見て尋ねる。
『ええ…下の息子の”祝福”に…あと…』
アーヴは自分の横に居るミトバフにチラりと
視線を飛ばすと、神官長は何やら納得したのか
ニヤリと笑みをこぼす。
『そうですか…分かりました。
では隊長達はあちらの者にお願いします。
ご子息の”祝福”の方は私が行いますので』
エムナ神官長は近くの神官の方へ手を向ける。
そして思い出したようにアーヴに尋ねた。
『ところで請願の方はどうなさいますか?
一緒に行っていきますか?』
『いえっ!! 今は…その…予定はありませんのでっ!』
エムナ神官長の言葉が終わり切る前にミトバフが
顔を真っ赤にして断る。アーヴも少し恥ずかしそうに頷いた。
神官長は二人を見て苦笑いをこぼした。
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教会の最奥、そこには三つの扉がある。
中心の大きな扉は”祈りの間”に通じ、
左には”儀式の間”右には”祝福の間”がある。
”婚姻”や”請願”の上奏は”儀式の間”で行うようで
アーヴ達は神官と一緒に”儀式の間”へと入っていった。
ティクバはエムナ神官長と一緒に”祝福の間”へ入る。
”祝福の間”はそれほど広くはなかった。
とは言え学院の講義室に近いほどの大きさはある。
部屋の中心に円柱の台座がある、高さは段差程度だ。
そこから二メテル程離れたところに祭壇のような物があった。
ティクバはエムナ神官長に促されて台座の中心まで足を運ぶ。
『では、そこで座ってください。』
エムナ神官長に言われるままその場で胡座をかくティクバ。
エムナ神官長は祭壇の後ろで小さく何か呟く。
すると台座は音もなく青白く光り出した。
『では、始めましょうか。
まずはお氏名と年齢を仰って下さい』
『ティクバ・シャムラール、十一歳です。』
『はい…ではお父様とお母様のお名前を仰って下さい。
あっ…お母様は生んでいただいた方をお願いしますね』
エムナ神官長はティクバに優しく微笑みかける。
台座の光は少し強くなり、まるで温度さえ感じた。
ティクバはエムナ神官長の問に答える。
『父はアーヴ・シャムラール、
母はハーヴァ・シャムラールです。』
ティクバの声を聞き祭壇を眺めるエムナ神官長。
彼は「ほぅ…」小さく呟いた。そして台座の光は止まる。
そして神官長は優しい声をかけた
『もう立っていただいて結構ですよ
これで”祝福の儀”は終了です。』
『もう終わりですか?』
あっけなく終わった祝福の儀”に少し困惑するティクバ。
確かにアドールから「すぐ終わるよ」とは聞いていたが
あまりにも早く、そして何もなかった。
それを見越したのか神官長は答える。
『えぇ…終わりです。
”祝福”とはあくまでその歳まで無事に育った事を
神々にご報告するようなものですので…』
確かにガドールも「何も特別な事はなかった」と
言っていたからこういうものなのだろう。
ティクバは納得して台座を降りる。
『ではお父上達はまだしばらく時間がかかると
思うので”祈りの間”でお待ち下さいね』
神官長は出口の方を指差した。
軽く返事をして扉に手をかけようとした時
神官長が声をかける。
『ティクバ君…君は大人になる為に
まだまだ多くの事を学ばねばなりません
…頑張ってくださいね。』
神官長の優しい言葉に答えて
ティクバは”祝福の間”を後にした。
続けてご覧いただいている方、毎度ありがとうございます。
初めての方も宜しくお願い致します。
あと3〜4話ぐらいしたら戦闘シーンが入るかも…




