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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

みかんと猿と男の子

作者: 小宮治子
掲載日:2024/01/09

 

 ある冬の寒い夜の事でした。


 みかんちゃんは、お父さんとお母さんの間の布団で、スヤスヤと眠っていました。


 すると、どこからか小さな男の子が泣いている声が聞こえて来ました。


「助けて。助けて」


 そう言っている様でした。


 みかんちゃんはゆっくりと目を覚まし、起き上がりました。


「誰が泣いてるのかな? 何が悲しいのかな?」


 みかんちゃんは布団を剥がし、寝室の襖を開け、廊下に出ました。

 すると、縁側を向いている引き戸の向こうが、ボンヤリと光っていました。

 みかんちゃんは引き戸をゆっくりと開きました。

 すると――


「わぁ!」


 引き戸の向こうには、見た事もない原っぱが月明かりに照らされていました。

 みかんちゃんは寝巻きの上に上着も着ないで、裸足で外に出ました。


 男の子の声は、大きくなったり、小さくなったりします。

 どこか遠い所から聞こえて来る様な気がしました。


「どこで泣いてるのかな?」


 みかんちゃんは、早く男の子を見つけてあげないといけない、と思いました。


 声がする方へしばらく歩き続けると、一匹の竜がいました。


「ここから先は、通さんぞ!」


 竜はそう言いました。

 すると、みかんちゃんは目を丸くして言いました。


「わぁ、本物の竜だ! 私、初めて見た!」


 竜は少しびっくりした様子でした。


「ねぇ、さっきから男の子が泣いてる声が聞こえて来るの。それ、誰か知ってる?」


 竜は戸惑いながらも答えてくれました。


「そ、そいつは、悪王が捕らえた人間の子だ」

「その子は、どこにいるの?」

「ここを真っ直ぐ進んだ所に囚われている」

「そうだったんだ。龍さん、教えてくれて、ありがとう!」


 みかんちゃんは、目を白黒する竜を後に、前へ進みました。


 しばらく歩き続けると、一匹の蛇がいました。


「ここを通りたければ、先ずは俺を倒すんだな!」


 蛇はそう言いました。

 みかんちゃんは、両手で自分の頬を挟みました。


「わぁ、蛇さん! なんてきれいなの!」


 蛇は少々ずっこけた様でした。


「ねぇ、悪王に囚われた男の子はこっち?」


 蛇は、しどろもどろしながらも答えてくれました。


「そ、そうだ。今ならまだ生きてるだろうよ」

「え? 時間が経ったら、生きていられないの?」

「さぁな」

「だったら、早く行かなきゃ!」


 みかんちゃんは、少し足を早めました。


 しばらく歩き続けると、一頭の馬がいました。


「私とやり合おうなんて、千年早いよ!」


 馬はそう言いました。

 みかんちゃんは、馬を見上げました。


「わぁ、馬さんって、やっぱり大きいんだね!」


 馬はみかんちゃんを見下ろしながら、固まってしまいました。


「あ、でも、足を怪我してる」


 馬は足を隠す様に後ろに下がりました。


「さ、触るんじゃないよ!」

「駄目だよ、ちゃんと手当しなきゃ」

「ほっといおてくれ!」

「じゃあ、せめて座って休んでいてね」


 みかんちゃんは、また進み始めました。


 しばらく歩き続けると、一匹の羊がいました。


「お前には、ここで止まってもらおう」


 羊はそう言いました。

 みかんちゃんはびっくりしました。


「え? 羊さんも喧嘩するの?」


 羊は顔を赤らめました。


「ねぇ、もしかしたら、本当は喧嘩なんてしたくないんじゃないの?」


 羊は今度は怒った様に前に出ました。


「う、うるさい! どうだっていいだろ!」

「え、でも、喧嘩したくないのにするのは、変じゃないの?」

「そんな事、悪王には言えないんだよ!」

「だったら、私がその悪王と話してあげるよ」


 みかんちゃんは、そう言って羊と別れました。


 どんどん歩いた先には、大きな洞窟がありました。

 その中から、男の子の泣き声もします。

 みかんちゃんは洞窟に入ろうとしました。


 すると、奥からのっそり、のっそりと誰かが歩いて来ました。

 みかんちゃんは立ち止まって、耳を澄ませました。


 やがて月明かりの中に現れたのは、一匹の大きな、大きな猿でした。


「わぁ!」


 みかんちゃんはその大きな猿を見上げました。


「あなたが悪王さん?! 随分と大きいんだね!」


 猿はみかんちゃんを見下ろしました。


「そうだ。我が悪王。お前は誰だ」

「私は男の子を助けに来たの」

「何故だ」

「何故って……」


 みかんちゃんは考えました。


「助けて、って言われたら、助けようと思ってもいいんじゃないかな?」


 悪王の猿は、目を細めて言いました。


「お前は、あの子供が誰かも知らぬのか」

「うーん、知らないよ」


 すると猿は言いました。


「我はあの子供の家族を憎んでいる。だからあの子供を捕らえたのだ。逃がしてはやらん」


 みかんちゃんは首を傾げました。


「どうしてあの子の家族を憎んでるの?」


「それは……」


 猿は教えてくれました。



 昔々、猿がまだ小さい時、猿は自分の母親と一緒に人里へ降りて行きました。

 すると、村の子供達に捕まり、酷い仕打ちを受けました。

 ですが、そこに通りかかった一人のお爺さんに助けられました。

 その次の日の夜、猿の親子はお爺さんが住む家に、お礼を届けに行きました。


 それから、猿の子はそのお爺さんと親しくなりました。

 そして、もっと人の事を知りたいと思いました。

 全ての人が悪い者ではない、と学ぶ為に――


 お爺さんには子供も孫もいて、そして孫の一人には娘が三人いました。

 ちょうど歳も、この若い猿と同じ位です。

 お爺さんは、その三人の曾孫娘の内の一人と猿が結婚できないか、と考えました。


 猿はお爺さんの話を聞き、お爺さんの孫に会いに行きました。

 その孫は、畑を耕していました。

 孫が疲れて休もうとした所、猿はその孫に言いました。


「後の仕事は私がします。その代わりに、一つ私の願いを聞いてくれませんか?」


 元々畑仕事が嫌いだった孫は、猿の話を聞いて、頷きました。


「いいぞ、何だって聞いてやる」


 猿は畑仕事を終わらせると、こう言いました。


「では、貴方の娘さんをお嫁さんに下さい」


 孫はびっくりしましたが、約束は約束。

 家に帰って、娘達に話しました。

 長女も次女も、猿との結婚は嫌がりました。

 ですが、三女は、父がそう言うのなら、とその結婚を受け入れました。


 ですが、嫁入りの日、その娘は猿を騙し、死なせたのです。


 そしてその猿の怨霊が、この悪王となったのでした――



 話を聞き終えたみかんちゃんは、悲しい気持ちになりました。

 それでも、猿に一つ質問をしました。


「じゃあ、あなたは男の子の家族が嫌いだから、男の子をいじめるの? それって変じゃない?」

「変、だと?」

「だって、男の子の家族が嫌いなら、男の子の家族と話せばいいんじゃないの?」

「は?」

「だって、家族は家族だけど、他の人がした事で自分が怒られるのは、不公平じゃない?」


 猿は、少し考えました。


「だが、あの娘の家族とは、もう話が出来ぬ」

「そうなのか……」


 みかんちゃんも、少し考えました。


「じゃあ、男の子とお話をして、謝ってもらおう!」

「あの子供に、か?」

「だって、謝る位はしてくれるでしょう」


 そうやって、みかんちゃんは猿と洞窟の中に入って行き、男の子に事情を説明しました。

 男の子は泣くのをやめ、怖がりながらも、誠意を持って猿に謝りました。

 そして、男の子はみかんちゃんと一緒に洞窟を出られる事になったのです。


「ごめんなさい、猿さん。思う様に行かなくて。でも、男の子を逃してくれてありがとう。それと、これから良い事があるといいね」

「あぁ」


 猿が言いました。


「いつか我も、またお前の様な人間に会えると良いな」

「会えるよ、きっと」


 みかんちゃんは笑って答えました。

 そして、みかんちゃんと男の子は、みかんちゃんが来た道を戻って行きました。


 原っぱの端に着くと、もうすっかり泣き止んだ男の子は言いました。


「助けてくれて、ありがとう。お礼に、僕と結婚してくれないか」

「え? 嫌です」

「へ?」


 みかんちゃんは家に向かって歩き出しました。


「お父さんとお母さんが待ってるし。それに、私はまだ子供だし。あと、大した事はしてないから!」

「ま、待って……!」


 男の子はびっくりして、みかんちゃんの後を追いかけようとしました。

 でも、みかんちゃんは手を振りながら言いました。


「じゃあね! また会えたら、一緒に遊ぼうね!」


 そう言って、みかんちゃんは走り出しました。


「そうだね。また君に会えると良いな」


 原っぱに一人取り残された男の子は、そう呟きました。


 ある冬の、寒い夜――

 みかんちゃんは家に帰って、お父さんとお母さんの間の布団に潜り込みました。

 そして、また眠りに落ちました。


 スヤスヤ、スヤスヤ。


 みかんちゃんは、夢の中。

 また、お猿さんと男の子には、会えるのかな?


 

「会えるよ、きっと」



 お終い

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] プロポーズをズバッと断ったみかんちゃん^_^ [一言] いつかまた会えるかな?
2024/01/13 16:42 退会済み
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