第19話 「平坂くんはすごいです」
こんにちは、神奈月楓怜です。
みんなからは神奈月さん、もしくは神奈月ちゃんと呼ばれます。
青葉台高校の2年6組に所属する女子高生です。
この度、ひとり暮らしを始めました。
といっても、クラスメイトの平坂くんにいろいろ助けてもらっているんですが……。
でもやっぱり自分の力で何かしたいと思って、今日はアルバイトの面接に来ました!
このバイト先も、平坂くんに教えてもらったんですが……。
平坂くんはここでバイトしているそうです。
本当に何から何までお世話になりっぱなしで、もう頭が上がりません。
「あー、えっと、お待たせしました。どうもすいません」
案内された部屋で待っていると、お店の制服を着た男性が入ってきました。
事前に平坂くんが教えてくれた店長さんの特徴に、よく当てはまっています。
この方が店長さんみたいです。
「どうも初めまして。この店の店長やってる望田といいます。神奈月さんだよね?」
「はい。神奈月楓怜と申します。本日はよろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします。まあ言ってもバイトの面接なんで、気楽に気楽にね」
「は、はい」
気楽にとは言っても、やっぱり緊張します。
だってここで不採用になったら、紹介してくれた平坂くんの顔に泥を塗ることになっちゃうんですから。
「んー、まあね。ウチは今やや人手不足気味だし、平坂くんが紹介してくれたなら信頼できるだろうしねぇ。まあ採用はほぼ決まりなんだけど」
店長さんはのんきに「あっはっはー」と笑います。
こんなに適当でいいのかなと思っちゃいますが、そういえば平坂くんが言っていました。
店長は適当に見えるけど、やることはしっかりやる仕事のできる人なんだと。
だから大丈夫なんでしょう。
それにしても「平坂くんの紹介なら」って、平坂くんはかなり信用されているみたいです。
平坂くんはすごいです。
「んーと、平坂くんとはお友達なんだっけ?」
「はい。高校のクラスメイトで」
「そっかそっか。同じ高校ね。じゃあシフトも同じ感じで入れるのかな?」
「はい。大丈夫です」
「うんうん。じゃあ最初は、平坂くんに教わりながら働いてもらうようにシフトを組むから。で、慣れてきたら、場合によっては彼がいない時にも入ってもらうことになると思うけど」
「分かりました」
えーっと、どうやらもう面接は合格みたいです。
平坂くんに一応練習してもらったんですが、何の成果を発揮するでもなく受かってしまいました。
「せっかくだし、ちょっと仕事の様子を見てみようか。多分今ごろ、平坂くんも働いているころだし。ついてきて」
「はい」
店長さんに連れられて、私は裏からお店の厨房へと入ります。
このお店は昼は定食屋、夜は居酒屋として営業しているそうです。
今はちょうど、夜の営業に向けての準備が進んでいます。
「あ、神奈月さん」
素早く野菜を刻んでいた平坂くんが、こちらに気付いて手を振ってくれました。
相変わらず、平坂くんの包丁さばきはすごいです。
私もあんな風に料理できるようになりたい。
「平坂くんはセンスがいいからね~。調理も任せられるし、ありがたいよ本当に」
「いやいや、そんなことないですよ」
平坂くんは謙遜してるけど、私も平坂くんは本当にすごいと思います。
一通りお店を見てまわった後、店長さんと元の部屋に戻ってきました。
「神奈月さんにはひとまず皿洗いとか、店舗の掃除とかをやってもらうから。バイトは初めて?」
「はい。初めてです」
「まあ初めてでも、そんなに難しいことはないから楽に楽にね。接客とかは徐々に練習してけばいいから」
「はい!」
「元気でいいね~。それ大事だよ」
簡単な手続きをして、今日は終了です。
私の初バイトは明後日と決まりました。
もちろん、平坂くんも一緒です。
「じゃあ、お疲れ様」
「はい、お疲れ様でした。これからよろしくお願いします」
「うん。よろしく」
店長さんに頭を下げて、最後に厨房にいる平坂くんをちらっと見て帰ることにしました。
平坂くんは真剣な表情で、手際よく料理をしています。
やっぱり、平坂くんはすごいです。
私の“初恋の人”は、やっぱりかっこいいです。




