異世界に召喚され……た?
夕飯をお腹いっぱい食べたのに、二時間くらいすると小腹が空いてくるから不思議だ。
明日は仕事が休みだからと、だらだらとテレビを見ていたら、いま巷で話題の濃厚とろとろプリンが紹介されていた。
卵黄と牛乳と生クリーム、和三盆、バニラエッセンスなどを丁寧に混ぜ合わせ、器に入れてオーブンで焼く。
表面は艶っとしていてハリがあるのに、中はとろとろ、卵の味がしっかりとする濃厚なプリン。
「うぁ、食べたい!」
口の中は涎の大洪水。お腹はキュルキュルと悲鳴を上げだした。
これはもう今すぐ食べるしかないっ!
食べるしかないのだが、現在二十三時ちょい過ぎ。洋菓子店は開いているわけがない。お風呂に入ってしまったし、もちろんノーメイク。しかも、外は雨。
「むあー…………」
口もお腹も脳みそも、もうプリン一色。プリンのことしか考えられない。
スッと立ち上がり、自分の格好を見る。Tシャツに半ズボン。イケる。
財布を片手に持ち、裸足だけど気にせず運動靴を履いて、傘を握り玄関を出た。
家から歩いて二分のところにあるコンビニのデザートコーナーの前に立ち、軽ーく悩んだ。
一番高い贅沢なプリンと、そこそこのお値段のプリン、プチッとするお手頃プリン。
……悩ましい。全部美味しそう。
お財布、プリン、お財布、プリン、お財布……プリンっっ!
「ありあとーござぃしたぁー」
妙なクセのある店員さんに見送られて、土砂降りの中ルンルンでプリン三個と共に家に帰ろうとした。
コンビニの駐車場に入ってきた車のヘッドライトが眩しくて目を瞑った瞬間、尋常じゃない寒さに襲われた。
「……………………は?」
寒さに驚いて目を開くと、私の前に高級感天元突破な毛皮のコートを着た人たちが十人くらい並んでいた。
右見て左見て右見て……上見て下見て、そっと傘を閉じた。
何故に豪華絢爛なお城みたいな室内。何故にもっふもふな高級毛皮コート。何故に…………。
「寒っ!」
そう叫んだ瞬間、目の前にいた人たちがワッと歓声を上げた。
なんだかよくわからない間に、肩から真っ白のふかふか毛皮コートを掛けられた。
なんだかよくわからない間に、崇め奉られた。
────プリンが。
「これで、これで陛下のお命が助かるっ!」
感極まって、プリンを天に掲げている白いおヒゲの魔術師長さん曰く、地球産プリンはこの世界では万能薬らしい。
プチッとするお手頃プリンは万能薬(中)
そこそこのお値段のプリンは万能薬(上)
一番高い贅沢なプリンは万能薬(極)
『極』って何だ? とは思うものの、私はいい大人なので口には出さない。
気になることはただ一つ。
「あのぉ……私はどうしたら?」
毛皮のコートは掛けてもらったものの、半ズボンに裸足靴。足が、めちゃんこ寒い! つか、指先が痛い!
「あぁ! 大儀であった。これは謝礼だ。帰っていいぞ」
「へ?」
…………へ⁉
目の前には車。ヘッドライト眩しっ。
左手の上には白いおヒゲの魔術師長さんがガシャリと音を立てて置いた、謎に激的な重さの革袋。
右手には閉じた傘。
肩には真っ白な時期外れの毛皮のコート。
頭上からは、ドシャッとした雨。
「しゃしゃせぇー……ぇ?」
ピンポーンと軽快な音を鳴らしてコンビニに入り、一番高い贅沢なプリンと、そこそこのお値段のプリン、プチッとするお手頃プリンを再度購入した。
「ありあとーござぃしたぁ?」
疑問系の挨拶を受けながら、目的だったプリンを買って、無事家に帰りついた。
──── 後日譚 ────
雨でビショ濡れになった毛皮のコートをクリーニングに出したら、五万円くらいは掛りますが、大丈夫ですか? と言われ、白目になった。
手に乗せられた革袋の中身は見たこともない柄の金色の貨幣だった。
貨幣が売れるか謎だったので、駅前とかにあるチェーン店の質屋で試しに五枚売ろうとしたら、純金製なので一枚三万円で買い取りになります、と言われた。
それ…………あと二百枚近くあるんですけどぉぉぉぉ。
プリンが純金に変わった。
そいや、あのプリン、『黄金卵のとろふわプリン』って名前だったなぁ。
黄金、プリン。
…………うん。わけがわかんないっ!
─ おわり……? ─
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