いったいどのような思惑が?
「……王妃殿下の目的は王太子殿下を紹介すること、でしたか?」
「本当の目的が何かは分からないですわね。殿下を紹介するつもりがあったのは間違いないでしょうし、ドレスを見せることも目的のひとつとは思いますわ」
「三つ羽扇のドレスを……王妃陛下ご自身のみならず、侍女にまで着せていたとか」
「そうですわね……」
王妃陛下のお茶会から戻って、オルタニア夫人と話していますけれど……まあ、報告ですわね。オルタニア夫人に話せばお義母さまに伝わりますから。
それにしても……私と王太子殿下を会わせて、さらには「姉上」などと呼ばせて……王妃陛下は何がしたいんでしょうかね……?
「……それはもう、王妃陛下と奥様の関係は特別に見えました」
「大夜会でも長くお声掛けなさいましたけれど、あんなに親し気にお話しできるとか、想像以上でしたね……」
「王太子殿下が姉上、姉上と何度も奥様のことを呼んでらっしゃる姿は……本当に弟のようでした」
「王太子殿下はご長男でございますでしょう? やはり姉という存在が嬉しいのでは?」
お茶会に同席というか……後ろに控えていたのはクリステルとユフィです。この二人から見ても私と王妃さまが親し気に見えたとは思いませんでしたわ……。
私は基本的にはうなずくだけでしたというのに。
王妃陛下だけでなく、王太子殿下まであの様子でしたし。
王妃陛下が私を可愛がっているという例え話としての「娘」や「妹」であるというのに、本当に「姉上」と呼んでくるとは……冗談とはいえこちらはどう返すべきか判断が大変難しい状況でしたもの。
確かに私と王妃陛下の関係はある程度は特別なもの。
それでも……それは幼少期の一時期に可愛がられていたというものであり、成人した今、再び関わっているのはあくまでも私がウェリントン侯爵家に嫁いだから。
……何の利もなく味方をして下さっている訳ではありませんわ。
問題は……王妃陛下が何をご自身の利として捉えてらっしゃるのかが読めないことです。
「話題はサンハイムの温泉、ドレス、公女殿下……後は王太子殿下がいらっしゃったので女性の話題ではなくなりましたけれど……」
「サンハイムの温泉の話というより……奥様のお肌のお話だったのでは?」
「私もクリステル様と同意見です……」
「そうだったかしら? 確かにきっかけは肌のことでしたけれど……」
「……奥様。これはどこまで大奥様にご報告致しましょうか?」
オルタニア夫人は……最近、お義母さまへの報告内容を確認するようになりました。
大夜会を終えてからのもっとも大きな変化と言えるかもしれません。
フォレスター子爵夫人である私の意思を尊重する姿勢は助かりますけれど……同時にウェリントン侯爵夫人にふさわしいかどうかの見極めもオルタニア夫人はしているはずですから……。
「……全て、報告なさって」
「よろしいのですか?」
「問題ありませんわ。お義母さまに隠すべきことは何もありませんでしたもの」
王家は……ある意味ではウェリントン侯爵家が唯一、配慮を必要とする相手でもあります。
もちろん、公爵家や侯爵家、中には伯爵家であっても色々と対応を考えなければならない場合はございます。
それでも、ウェリントン侯爵家ならば圧倒的な経済力という力で押し切ることは不可能ではありません。王家以外は。
次期侯爵夫人である私と王妃陛下の関係についてお義母さまに隠し事をするのは悪手と思うべきですわ。
「オルタニア夫人」
「はい、奥様」
「お義母さまに……王妃陛下が私と王太子殿下を会わせた思惑は何だと思うか、確認しておいてほしいのです」
「かしこまりました」
オルタニア夫人が深く一礼する。
王族に伝手があるというのは強力なカードであることは間違いありませんけれど、強いカードだからこそ使いどころが難しくもあります。
私はそれを……お義母さまを抑え込むために大夜会で使いました。
使った結果が今の状況だというのであれば……使わずにお義母さまの課題をこなす方が悩みは少なかったのかもしれませんわね……。
王太子殿下と私を会わせた王妃陛下の目的は分かりませんけれど……ただ面白そうだから、というようなことはないはずです。
はぁ……ドクズな旦那様が浮気癖をまた発揮し始めたというのに、面倒ばかりが増えているような気がしますわ!
もう王都から逃げてしまおうかしら……?
「スチュワート。これは……間違いないのね?」
「ああ、旦那様の調査報告ですか。間違いありません」
「今度のお相手は平民ですか。本当に……キリがないですわね」
執務室で読んだ旦那様の浮気相手に関する報告書を私はぽいと執務机の上に投げ捨てました。
ファイリングはスチュワートに任せましょう。
「……新しいお相手が平民なのは、その……貴族のご令嬢やご夫人をお相手にすると、奥様によってどのようなことになるのかが分からなくて怖ろしい、というお考えですが?」
「……スチュワート。あなたは私を何だと思っているのかしら?」
「私ではありません。旦那様がそう考えているという話をしております。実際、子爵家が一つ、奥様の手腕で代替わりすることになりましたので」
旦那様のご友人がいらっしゃったあの子爵家の話ですわね。
跡継ぎになるべき息子が平民女性との結婚を熱望した……ということになっております。
跡を継いでからからなら叶えられることもなくはない結婚ですけれど、跡を継ぐ前に平民女性と結婚すると貴族籍を失うことになりますから。
結果として元子爵の直系での跡継ぎはいなくなり……子爵家の血筋ではあるものの傍系の中で貴族同士での結婚をしていた方が跡を継ぎましたわ。予定通りに。
あれ以降はずいぶんと大人しかったドクズな旦那様でしたのに、また浮気を始めてしまうとはやはりドクズな本性は隠せませんわね。
大夜会の後は王都での社交が本格化していき、私を伴わない夜会なども多くございましたから……浮気心が再燃したのでしょう。美しい女性との出会いがたくさんございますもの。
それでも……その方たちに手を出す訳にはいかないとご自身を戒め、我慢を続けた結果が平民女性に入れ込むことに……。
やはりドクズはあくまでもドクズですわね。
「……それと」
「何かしら?」
「また公女殿下からのお手紙が届いております」
「またですの?」
「その本気で嫌がっている表情は……外では絶対にお隠し下さいますよう……」
せっかく大夜会も、ウェリントン侯爵家の夜会も終えて……王妃様とのお茶会などの避けられない社交はどうにか片付けたというのに。
「……やはり雪が本格的に降る前に、王都から逃げるべきですわね……」
「はい?」
怪訝な顔をした家令のスチュワートを無視しつつ、私は王都の脱出について考えるのでした。
……物理的な距離とは最大の防御ですわ!




