表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/23

22 今宵はどなたの血が流れるのでしょうね?




 大夜会は、10月の最終日に毎年、王宮主催で行われる国内最大の夜会です。


 各領地での秋の収穫を確認した貴族たちがこの大夜会のために王都に集まり、冬を王都のタウンハウスで過ごします。それから翌年3月の半ばくらいまでが王都での社交シーズンです。


 ……前世でのあれです、参勤交代のようなものだと思ってもらえたらいいと思います。ただし、国王陛下と王妃さまに挨拶できるのは、二公爵、五侯爵とデビュタントの令息や令嬢がいる家のみです。


 大夜会の流れは基本的にごく普通の夜会と同じです。というか、大夜会を真似て、各貴族家は夜会を開いています。


 会場には飲食物がたくさん用意されていて、男爵位、子爵位、伯爵位と下位の貴族家から入場して交流します。ちなみに伯爵位以下には控室はありませんので、入場予定時刻に合わせて登城するか、入場予定時刻まで馬車の中で待つか、どちらかです。


 侯爵家や公爵家は先に会場へ着いても、控室に入って待てばよいのです。特に侯爵家の控室には、寄子たちも顔を出すので賑やかになるそうです。


 時間になれば、侯爵家、公爵家と入場して、最後に私たちとは異なる主催者側の入口から、王家が入場します。今は、三人の王子がまだ成人前なので、国王陛下と王妃さまのお二人となります。


 国王陛下と王妃さまがその御座に腰を下ろされますと、公爵家から順に、侯爵家までが、挨拶を致します。


 それが終わると、デビュタントを迎えた、白い衣装の令息、令嬢たちの入場になります。今年は令息3人、令嬢6人の合計9人のデビューです。図書館仲間のアリステラさまもここに含まれます。令嬢が余るのは、残念な話ですけれど、だいたい毎年のことでございます。だから、結婚が難しくなりますわね。


 そして、デビューした令息、令嬢の家族が国王陛下と王妃さまに挨拶を致します。それも公爵家からという上から順に、でございます。もちろん、デビューする者がいない爵位は飛ばされます。公爵家や侯爵家からデビューする者がいる場合は、2回、挨拶をすることになります。


 ここまで終えたら、次は国王陛下と王妃さまのダンスです。私もデビューしてから毎年、見てきましたけれど、本当に美しいダンスでございます。


 そして、最後に、デビュタントの令息、令嬢がそのパートナーとダンスを踊ります。婚約者のいなかった私は、もちろんお父さまと踊りました。エスコートもお父さまでした。そういう令嬢は多いので別に惨めではございません。ああ、デビューする令息の控室と令嬢の控室は用意されていますわね。


 あとは、各自、お好きにご歓談ください、となります。ダンスを踊る方もいらっしゃいます。そういう方はあれですね、前世の言葉でリア充というあれですわね。もちろん、帰ってもかまいません。私は去年まで、できるだけ早く帰っておりましたわ……。


 そんな大夜会が、私の決戦の舞台でございます。






 針子のサラたちに背中のボタンを調整してもらって、19歳にもなって成長を見せたお胸さまを慎ましく覆い隠すようにマダム・シンクレアのドレスをまとい、私は大夜会の舞台となる王宮へと向かう馬車に乗り込みました。御者のドットのエスコートで。


 旦那様とは別の馬車でございます。


 私の馬車には、クリステル、アリー、ユフィ、タバサが同乗しています。御者席にはタイラントおにいさまもいます。タバサは控えに残りますけれど、タイラントおにいさまはダドリー子爵家の一員として大夜会には出席の返事をしていますので、参加者の一人です。

 クリステル、アリー、ユフィは三つ羽扇の襟のドレスを着ています。


 旦那様の馬車には、スチュワートと旦那様の侍従が二人、同乗しています。


 オルタニア夫人はお屋敷でお留守番ですわ。お義母さまと顔を合わせないようにするためだと私は思っています。


 そして、騎乗の護衛騎士たちが、いつもの3倍、付き従っています。


「……今日は、護衛が多いわね」

「はい。今は戦時でございます、奥様」

「そう。だからなのね」

「護衛の数を増やすことで、未然に争いを防ぐことが重要ですし、襲撃があっても対処が可能になります。騎乗している騎士たちは若手の中でも実力者たちです。ご安心を」


 護衛についてはやはりクリステルが詳しいです。


 現在、フォレスター子爵家とその本家であるウェリントン侯爵家は、夜会で次期侯爵夫人に恥をかかせた――という難癖をつけたのですけれど――ライスマル子爵家とその寄親のマンチェストル侯爵家を相手として、一触即発の対立関係にあります。

 平たく言えば、こちらが言いがかりを付けた上で経済的に圧力をかけたところ、今度は向こうが挑発してきたのでそれに挑発して返した、というところでしょうか。挑発して返したのは私ですわね。

 互いに武門ではないとはいえ、寄子に武門の家はありますので、血が流れるような衝突が起きないとは言えません。ただ、この数十年は、国内でのはっきりとした武力衝突は起きてはいません。

 それでも警戒は必要で、警戒しているから武力衝突が防がれているとも言えます。


 メイドたち下級使用人の乗った馬車も続いているので、とても目立つ行列です。


 そして、一度、本家であるウェリントン侯爵家へと馬車と騎馬の群れは飲み込まれていきます。


 旦那様が先頭の馬車から降りて、次の馬車の私をエスコートして馬車から降ろします。そのまま、侯爵邸へと入り、玄関で侯爵邸の使用人たちの出迎えを受けて、お義父さま、お義母さまと合流致します。


 ここで、馬車は乗り換えでございます。


「……エカテリーナ、あなた、ずいぶんと肌が、綺麗ね?」

「お褒め頂き、光栄にございます、お義母さま」


 馬車の中でお義母さまからちょっとした疑いの眼差しを受けながら、それを受け流します。お義父さま、お義母さまと、旦那様、私の4人が乗るこの馬車が3台目となります。

 先頭は男性の上級使用人が乗る馬車です。スチュワートなど、フォレスター子爵家からの大夜会の出席者たちです。

 2台目は女性の上級使用人が乗る馬車です。本家の大夜会の出席者たちです。

 3台目が私たちです。

 4台目は女性の上級使用人が乗る馬車です。クリステルなど、フォレスター子爵家からの大夜会の出席者たちです。

 5台目は男性の上級使用人が乗る馬車です。本家の大夜会の出席者たちです。

 6台目から9台目はメイドやフットマンなどの下級使用人が乗る馬車です。控室で快適に過ごせるように、王宮の使用人と協力します。というか、飲み物や食べ物は王宮の使用人に触れさせないよう、こちらから持ち込んだ物のみ、控室で提供します。

 先頭の馬車の前に3騎の騎馬が三角形の陣形で、各馬車に4騎ずつの騎馬、9台目の馬車の後ろに、逆三角形の陣形を組んだ3騎の騎馬がいます。


 ……正直、ウェリントン侯爵家は王宮に攻め込むつもりなのだろうかと思ってしまいます。


 前世の大名行列というのは、こういう感じだったのでしょうか? もう少し、見世物的な、平和なものだったのではないかと、私がそう思いたいだけなのでしょうか。


「……それで、エカテリーナ。今夜、マンチェストルとは話を終わらせるのでしょう?」

「はい、お義母さま。大丈夫ですわ」

「まあ、任せると言ったからには、任せます。頼みますわよ?」

「ご期待に添えるように努力致します」

「………………そうね」


 ……その、間は、何でしょうかね?


「エカテリーナ、困ったらいつでも助けるから、心配はいらないぞ」

「あなたは黙ってらして」

「はい……」


 ……完全に尻に敷いてらっしゃいますわね、お義母さま。そして、お義父さまはなぜか私に甘いのです。娘が欲しかったと、私やケイト――義弟の婚約者のサラスケイト・ロマネスク伯爵令嬢にとにかく甘いのです。

 飴と鞭の飴なのかとも考えましたけれど、どうも、本当に娘が欲しかったらしいのです。旦那様のような女遊びなど全くない方なので、義理の父として大切に思っておりますわ。黙ってらっしゃるなら、侯爵としての威厳も十分ですし。


「リーナ、スラーのことは……」

「旦那様。ご友人が大切ならば、今ではなく、時間を戻された方がよろしくてよ? おとぎ話の魔女はお探しになりましたか?」

「……」

「見つけられなかったのなら、そのように黙っているのが賢明ですわ」

「……」


 ……お義母さま、扇で口元を隠してらっしゃいますけれど、たぶん、あれは、満足してらっしゃるはずですわね。ウェリントンは、夫を尻に敷くのが基本なのかしら?


 ウェリントン侯爵家から王宮まではそれほど遠くはありません。それだけ王都内でもいい場所に屋敷を所有していることも、ウェリントン侯爵家の力の強さとも言えます。


 王宮の大星殿と呼ばれる大きなホールの正面入口は公爵家のみが利用します。私たちウェリントン侯爵家は北西側の入口から入ります。


 停車した馬車からは、真正面に入口が見えます。さっと降りて、そのまま入ればすぐ済むことなのですけれど、そうもいかないのが高位貴族の面倒なところです。実家のケンブリッジ伯爵家なら、ささっと済ませていますわね……。

 まず、下級使用人の馬車からどんどん人が降りて、控室へと荷物を運んで行きます。護衛騎士のおよそ3分の1は既に馬を下りて警戒にあたっていますので、その馬を指定されたところへ繋ぎに行く使用人もいます。護衛騎士の中には、使用人と共に先に控室へと向かう者もいます。

 それから男性の上級使用人が降りて、女性の上級使用人をエスコートして馬車から降ろします。この頃には下級使用人はわずかしか馬車の近くにはいません。上級使用人は、この場に残る者と先に控室へ向かう者に分かれます。先に控室へ行く者は、きっちり、男性が女性をエスコートして向かいます。

 護衛騎士が全員馬から下りた状態になって、ようやく、私たちの馬車の扉が開かれます。そして、お義父さまがお義母さまをエスコートして馬車を降り、それに続いて旦那様が私をエスコートして馬車を降ります。

 私やお義母さまがエスコートされている後ろに、侍従や侍女などの上級使用人が付き従います。そちらはもうエスコートはありません。

 私たちの前に騎士が3人。左右に2人ずつで4人、後ろに3人、合計10人の騎士が警戒しつつ、控室へ向かいます。

 そこでようやく馬車の移動が始まります。馬車は全て、襲撃された場合の壁としてその場に停めたままでした。そして、騎士の2分の1は馬車止めで馬車の警備を担当します。もちろん、馬車に何かされる可能性があるからです。御者たちと騎士たちで馬車を守ります。

 残り2分の1の騎士たちは、控室の出入口と、控室の中で警戒にあたります。

 そうして控室に入った私たちは、用意されたお茶とお茶菓子を楽しみ、入場までくつろぎ……たいけれどできません。控室で座っているのは、お義父さま、お義母さま、旦那様、私の4人だけですわ。けれども、侍女や侍従以外の寄子の貴族たちが挨拶にやってきて、それから彼らは会場へ行くため、くつろいだり、のんびりしたりはできませんの……。


 ……いえ、よく考えたら、そもそも無理ですわ。みなさんがこれだけ働いている中でのんびりとくつろぐというのは私にはまだ精神的に厳しいですわね。顔には出さないようにしていますが、心の中では無理ですわ。いつもの、フォレスター子爵家関係の人たちだけなら、それなりに慣れてきたのですけれど。きっとお義母さまは寄子の挨拶なんて受け流して余裕なのですわ。


 侍女や侍従のうち、男爵家の者たちが私たちに挨拶をして、控室を出て行きます。男爵家の入場時間になったからです。ちなみにエスコート相手のどちらかが男爵家ではなく子爵家の場合は、子爵家の時間での入場となります。

 アリーとユフィが入場のために挨拶をして出て行きます。男爵令嬢クリステルのエスコートは子爵令息のスチュワートですので、子爵家の入場の時ですわね。


「……幼友達とはいえ、時には敵対することもあります。その時には容赦しないというのが互いの了解です」


 お義母さまの言葉に私は身を引き締めます。ですけれど、私の隣で旦那様は身を震わせています。もう少し、しっかりしてくださいませ。

 マンチェストル侯爵の妻であるタリアシェーナ・マンチェストル侯爵夫人はお義母さまの幼友達とのことです。お義父さまとマンチェストル侯爵にはそのような特別な接点はないそうです。

 侯爵家の入場まではまだ時間がありますので、誰に気を付けなければならないか、お義母さまからのレクチャーが続きます。


 ……正直なところ、オルタニア夫人から教えてもらってはいたのですけれど、侯爵家の一員としての大夜会は、去年までと違って本当に面倒で大変です。寄子たちのために、最初の男爵家の入場前から会場に入り、下級貴族が入場を終えるまで、待ち続けなければならないのです。

 でも、会場内で寄子たちに挨拶をさせていたら、それはそれで時間の無駄ではありますもの。だからこそこの流れができたのでしょうね。


 子爵家の入場が始まり、挨拶をしてクリステルたちも出て行きます。

 そうすると残るのはタバサのような大夜会に出席しない侍女や侍従と、下級使用人のメイドやフットマン、そして護衛騎士たちだけになります。王宮の使用人はこの控室の中にいるのですけれど、手出しができないのでもはや空気です。旦那様がこういう中で育って、平然と夜会で出される物を飲食なさっていたのは本当に不思議です。


 外から王宮の使用人が呼びにきて、ようやく入場順が近づきます。

 護衛騎士たちに守られながら、お義父さま、お義母さまに続いて、旦那様のエスコートで入場扉近くの入場控室へ入ります。これは毎年経験してきたので大丈夫です。

 男爵家、子爵家までは大星殿へやってきた順に入ります。入る時には名前が読み上げられますけれど、厳密に順番を定められておりません。

 伯爵家以降は、数が少ないのでその爵位の歴史が新しい順に入場します。

 今のウェリントン侯爵家とマンチェストル侯爵家のように険悪な関係の場合もあるので、入場前に顔を合わせないようにこのような入場控室が入場扉の近くに用意されているのです。入場扉の前で入場を待っている間に嫌味の応酬とか、さらには刃傷沙汰とか、起きたら大変ですもの。

 ウェリントン侯爵家は侯爵家の3番目に入場します。現在の王国内の貴族は、二公爵、五侯爵、七伯爵なので、侯爵家のちょうど真ん中の位置です。歴史的には。マンチェストル侯爵家は侯爵家の4番目での入場なので、少しだけ侯爵家としての歴史の古さで負けています。歴史の古さでは。


 去年まで私は伯爵家の最後での入場でした。ケンブリッジ伯爵家は歴史だけはとにかく古い名家ですので。ちなみに私のエスコートは、デビュタントの時はお父さま――これは入場が別になるのでお母さまが参加していても可能なのです――それ以降はお祖父さまや、タイラントおにいさま以外の従兄のおにいさま方、一度だけどうしても都合がつかず、侍従のドットにエスコートをしてもらったことがございます。その時のドットは死にそうな顔をしていました。タバサと同じで夜会は苦手なようです。気持ちはわかりますわ……。


 さて、最後の呼び出しがありました。


 いよいよ入場します。


 入口の大扉を抜けて、その場に立ちます。


「ウェリントン侯爵家より、ヴィクタークス・ウェリントンさま、レクシアラネ・ウェリントンさま、レスタークス・フォレスター・ウェリントンさま、エカテリーナ・フォレスター・ウェリントンさま、ご入場でございます」


 名前を読み上げられてから、会場内へと進みます。すぐに侍女たちが近づいて後ろに控えてくれるし、寄子が集まっているところへ誘導してくれます。


 もちろん、寄子ではない方も、近くに集まってきます。


「失礼いたします、エカテリーナさま」

「あら、フランシーヌさま。それにみなさまも、ごきげんよう」


 私の場合、かつての『古着ドレス組』の貧乏令嬢仲間であるオードリー・グラスキレット子爵令嬢、イスティアナ・ラザレス男爵令嬢、そして、新たに友人となったフランシーヌ・ヨハネスバルク伯爵令嬢、それからまだ友人とは呼べないけれど、ナルミネ・モザンビーク子爵令嬢がご家族と離れてこちらに来ていますわね。

 モザンビーク子爵は寄親のリバープール侯爵家に、娘はウェリントン侯爵家との関係が深いとあえて見せたいのかもしれませんわね……。

 次々と令嬢たちの挨拶を受けて、三つ羽扇の襟のドレスを着た令嬢が私を取り囲むように集結します。


 少し離れたところに、かつては『古着ドレス組』の貧乏令嬢仲間としてお友達だったマーガレット・ノーザンミンスター子爵令嬢がいますわね。見たところ、近づくべきか、どうか、悩んでいますわ。私の周りにいる方はみな、襟がお揃いですものね。

 オードリーさまやイスティアナさまにはお手紙で、大夜会では私の近くで新しいドレスを披露してほしいと頼んでおきましたからね。もちろん、ノーザンミンスター子爵令嬢には何の連絡もしておりませんわ。

 目立つ襟ですもの、一目で、自分だけが仲間外れであることは理解できるでしょう。

 つまらない嫌味ひとつで、どうなるか。勉強になればよろしいのですけれど。あなたが嫌味を言った相手は、ウェリントン侯爵家の次期侯爵夫人ですのよ?

 ノーザンミンスター子爵令嬢も、『古着ドレス組』の貧乏令嬢仲間の他にお友達はいないはずです。今年の大夜会では身の置き所がなさそうですわね。お可哀想に……。


「マンチェストル侯爵家より、グリンナイト・マンチェストルさま、タリアシェーナ・マンチェストルさま、シェルナイト・ブリンクス・マンチェストルさま、グラスゴー侯爵家より、ナーサティア・グラスゴーさま、ご入場でございます」


 私たちの次に入場した、本日の敵でございます、マンチェストル侯爵家のみなさまも、マンチェストルの寄子たちのところへと移動していきます。こちらに視線を向けないのは、わざとでございましょう。


 侯爵家の最後に王妃さまのご実家である三侯四伯のリライア侯爵家が入場し、続いて公爵家の入場です。


「リーゼンバーグス公爵家より、ギゼルフリート・リーゼンバーグス・オルディン殿下、フィリメアセ・リーゼンバーグスさま、レクルティアラ・リーゼンバーグス・オルディン殿下、リバープール侯爵家より、クリサリス・リバープールさま、ご入場でございます」


 ……旦那様の元婚約者である公爵令嬢にして王孫殿下は、爵位を後継に譲った母方のお祖父さまのエスコートでの入場ですか。まだ、婚約者が決まっていないというのは本当かもしれませんわね。

 リーゼンバーグス公爵の当主であるギゼルフリート・リーゼンバーグス・オルディン公爵は王弟殿下でございます。つまり、前王の王子ですわね。

 王位継承権は、12歳以上で認められますから、14歳で来年デビューの第一王子殿下が第1位、12歳の第二王子殿下が第2位、10歳の第三王子殿下はまだ王位継承権を与えられておりません。リーゼンバーグス公爵は王位継承権第3位です。リーゼンバーグス公爵令嬢は第4位となります。王家の血に連なる王孫までは女子にも継承権がございます。少し羨ましいですわ。


 最後の入場者はスコットレーンズ公爵家の方々です。

 現当主が前々王の王孫殿下で、スコットレーンズ公爵の王位継承権は第5位です。我が国では公爵位は王孫までと決められています。王位継承権が王孫までしか認められていないからです。公爵家は王家のスペアですものね。

 ですからその息子であるスコットレーンズ公爵令息はこのままでは貴族籍を失いかねません。王位継承権を持たない王曾孫とはいえ、王家の血を受けている者が平民籍や継嗣籍に入るというのは好ましくありません。

 スコットレーンズ公爵令息はソールズバルラ伯爵令嬢との婚姻で婿入りして、次期伯爵となる予定になっております。巡り合わせで、侯爵家への婿入りは叶いませんでした。

 ソールズバルラ伯爵家はこれで助かりますわね。男子に恵まれず、伯爵令嬢が二人で、後継は親類からなどと言われておりましたけれど、公爵令息の婿入りで解決ですもの。それに、王家が公爵家に分割していた様々な資産が王家に戻りますけれど、その一部を王家からこの婚姻で与えられます。さらには王家の血を引く伯爵家と名乗れることも大きいですわ。


 公爵家までの貴族が入場しましたら最後は……。


「国王陛下、並びに王妃陛下、ご来場でございます」


 その声とともに、この場の全員が前を向いて深く頭を下げます。

 王家のみなさまにつきましては、特別な許しを得ていなければ、その名を呼ぶことはできません。たとえ入場の係だったとしても、でございます。個人的には長い名前を言わずに済むのなら、その方が……いいえ、何でもございません。

 ざわつきの元であった話し声もこの時ばかりは消えて静かになりますわ。


「楽にせよ」


 壇上に王妃さまと並んだ国王陛下のお言葉で全員が頭を上げます。


「今年もみなで大夜会を楽しむとしよう」


 さあ、大夜会という名の、戦端が開かれました。今宵はどなたの心の血が流れるのでございましょうか。エカテリーナ、行きます……。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  ▼▼▼ おすすめ長編連載作品 "コミカライズ決定!" ▼▼▼  
アインの伝説 ~Freedia comicsにてコミカライズ進行中!~

  ▼▼▼ おすすめ長編連載作品 "古代世界をスキルチートで生き抜きます" ▼▼▼  
かわいい女神と異世界転生なんて考えてもみなかった。
― 新着の感想 ―
[一言] さあ、いかになる?! ……(゜A゜;)ゴクリ ーーー 凄い面白いです\(^o^)/! ドキドキワクワク(〃∇〃)/ ★★★★★!★!♡!
[一言] いよいよ手腕が発揮されるのでしょうか? 楽しみです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ