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19 温泉に行くために必要なの




 今夜はモザンビーク子爵家の夜会ですわ。


 もちろん、馬車は2台で、旦那様とは別です。

 今回は、静かにもう1台の馬車にお乗りになりました。ちゃんと静かにできて、立派ですわね、旦那様。成長を感じますわ……あら、子どもの話みたいね? 産んだ覚えはございませんけれど。


 いつもの護衛騎士侍女のクリステルと、元お友達侍女のユフィが三つ羽扇の襟のドレスで参加します。もちろん、私も、三つ羽扇の襟のドレスです。控えまではタバサとアリーも一緒です。

 御者はドットで、その御者席の隣にタイラントおにいさまが同席しています。

 あとは騎乗した護衛騎士たちです。


 残念ながら、会場のモザンビーク子爵家に着くと、先行の馬車から降りた旦那様のエスコートで馬車を降りて、案内に従って控えへと入ります。今回も、招待客の最上位です。

 ヨハネスバルク伯爵家と違って、ここでは使用人がピリピリと緊張感に溢れていますわね……。


 スチュワート情報によると、寄親であるリバープール侯爵家から家令がモザンビーク子爵家を訪ねたそうです。奥様の予想通りです、とか言われても別に嬉しくはありません。


 まあ、モザンビーク子爵家には、先に別室での面会を求める手紙を出しておきましたので、特に問題なく過ごせるかとは思います。


 他の招待客の入場が済んだらしく、案内の使用人が控えにやってきました。私も旦那様のエスコートで入場し、そのままモザンビーク子爵家のみなさまにご挨拶です。


 子爵、子爵夫人、嫡男の子爵令息、次男の子爵令息……この方が旦那様のご友人ですわね。この後もご友人なのかは責任を持てませんけれど……そして、長女の子爵令嬢。次女は、いませんわね? デビュー前でも、自家の夜会に出るのは問題ないのですけれど? 確か来年デビュー、私の弟たちと同い年です。

 ……ひょっとすると、出せない子、なのかもしれませんね。大丈夫なのかしら? それとも、少しでもうちの旦那様とのトラブル要因……要員とも言えますわね……は減らしたいのでしょうか。


 子爵は貴族らしい微笑みで頑張ってらっしゃいますけれど、夫人と子どもたちは、みんな顔が強張っていますわね。イルマ商会から流した事前情報のせいか、それとも寄親からの……きっと寄親の家令からきつく何かを言われたのでしょう。そうに決まっています。

 そして、うちの旦那様も、口元がほんの少しだけ、引きつっていますわね……。みなさんが緊張している原因は旦那様ですのよ? どうして旦那様が緊張しているのかしら?


 無難な挨拶、短いドレスの話で、さっと次の方に場を譲ります。今日は、子爵とは別室での時間がありますので、ここに時間は必要ありません。


 主催者の前を後にした私と旦那様のところには、結婚の祝いを述べる方がやってきては去って行きます。あっさりですわね。本当にそれだけです。

 そして、遠巻きにされて、私たちだけになりました。私と、旦那様と、招待客ではあるけれど、私の侍女、旦那様の侍従だけです。私と旦那様だけなら、ぽつんと放置される感じになっていましたわね……。


 来客も、ライスマル子爵家と比べると少なくて、すぐに子爵と子爵夫人のダンスの披露です。出席予定の方に、どこかからお断わりでも入ったのかもしれませんわね。

 ヨハネスバルク伯爵家と違って、旦那様のご友人はこちらに近づきませんわね? 旦那様、腫物扱いでしょうか……。


 ……あら、ドレスのスカートで隠れていますから、おそらく、ですけれど、子爵夫人が2回ほど、子爵の足を踏んだように見えましたわ。気のせいではないでしょうね。そんなに緊張しなくとも、今のところ、ライスマル子爵家のようになる予定はございませんのに。


 子爵夫妻がダンスを終えて、拍手が降り注いでも、子爵夫人の顔色は優れませんわね……あ、そういうことですか。この後、別室に子爵は来てくださるので、会場には子爵夫人だけが残される、と。

 その間はこの場の最高責任者ですわね。

 息子や娘があの様子ではあまり頼りになりそうにないので、子爵夫人は不安なのでしょうね。うちの不発弾が……。


 でも、大丈夫ですわ、子爵夫人。ご安心くださいな。


「……控えに下がります。スチュワート、旦那様をよろしくね?」

「お任せください、奥様」


 今日は番犬付きですの。うちの旦那様の動きは大丈夫ですわ! いえ、番犬ではなく、前世でいうリモコンかしら? しっかり旦那様を操ってもらいましょうね。スチュワートなら爆破スイッチを押したりしないでしょうし。


 私はクリステルとユフィを連れて控えに戻って休みます。控えにはタバサ、アリー、タイラントおにいさま、護衛騎士たちがいます。


 しばらくすると、ドアがノックされて、護衛騎士とクリステルが対応します。そして、家令と思われる使用人を連れたモザンビーク子爵が入ってきました。

 私への確認がないのはこの別室での会合は約束通りですし、ここがモザンビーク子爵家だから、というのもありますわね。


「お待ちしておりましたわ、モザンビーク子爵」

「お待たせしてしまいましたか、申し訳ないですな、フォレスター子爵夫人」

「座って話しましょう。時間もないようですし」

「ほう、フォレスター子爵夫人のためなら、時間などいくらでも」

「本日の夜会は、あまり長引かせるのはよろしくないのではありませんか?」


 ……参加人数が少ないと、それだけダンスを踊る相手も少なくなりますし、当然、会話も少なくなります。長引かせても客を退屈させるだけですわ。


「……そうですな。それで、お話とは?」


 対面のソファに座ったモザンビーク子爵は平然としているように見えて、小さく右手の人差し指が動き続けていますわね。私ごときを相手に緊張なさる必要はございませんのに。


「今日は、モザンビーク子爵に、新興の商会をひとつ、ご紹介したいと考えましたの。こちら、ナナラブ商会のタイラントですわ。ぜひ、ご贔屓に願います」

「エカテリーナさま、ご紹介頂き、ありがたく存じます。ナナラブ商会の会頭で、タイラントと申します。どうか、よろしくお願いします」


 タイラントおにいさまはもちろん立ったままです。タイラントおにいさまが私を名前呼びしたのは、もちろん、親しい関係性のアピールです。

 いちいち従兄だとは言いませんけれど。言うとカーライル商会との繋がりまで芋づる式にわかってしまいますし。


 新興の商会と引き合わせるというのは、モザンビーク子爵には予想外のことだったようで、一瞬、呆けたように固まり、すぐに我に返ってタイラントおにいさまを見つめます。


「ウィリーレイズ・モザンビークだ。ナナラブ商会というのは初めて聞く。何を扱う?」

「しがない金貸しにございます。では、こちらの資料をご覧頂けますでしょうか」


 タイラントおにいさまがテーブルの上、子爵によく見える位置へ資料を置きます。

 資料はモザンビーク子爵家の借金の返済計画を簡単にまとめた表です。

 年数、元本、元の利子、子爵家の支払予定額、新たな利子、返還準備金が数字として並んでいます。私からタイラントおにいさまへのこの表のレクチャーは済んでおりますわ。


「何の数字だ?」

「……モザンビーク子爵家は、現在、イルマ商会、ヨハン商会、デンバー商会から合わせておよそ8000ドラクマ、借り入れてらっしゃる。さらには寄親のリバープール侯爵家から、5000ドラクマ、これも借入金ですね。ここにはリバープール侯爵家からのものは含んでいませんが」

「……よく調べたな。いや、そうか」


 子爵がちらりと私を見てから、タイラントおにいさまへと視線を戻します。どこの誰が調べたのか、理解されたのでしょう。


「続けたまえ」

「では。3つの商会を合わせて、モザンビーク子爵家は毎年、およそ2400ドラクマの利子を支払っています。もう3年続けて、利子のみで、元本には手が届いていないようで」

「……そんなところまで」


 タイラントおにいさまが資料の数字を指差しながら話し、子爵はそれを目で追いながら聞いています。


「そこで、我がナナラブ商会で、モザンビーク子爵家の借入金を一本化して整理してもらいたいのです。つまり、借り換えをして頂きたい。そして、借り換えた場合の利子は、こちらになります」

「馬鹿な……半額、だと?」


 元本が8000ドラクマ、元の利子が1年で2400ドラクマ……本当に暴利ですわね……そして、タイラントおにいさまが指し示すナナラブ商会での新たな利子は1年で1200ドラクマ……それでも暴利だと私は思いますけれど……これまでの半額になります。


「ただし、モザンビーク子爵家の毎年の支払予定額は2000ドラクマで考えています」

「それは、どういう……いや、続けてくれ」

「利子をお安くしますが、その代わり、5年間の元本返済禁止、新たな借金は必ずナナラブ商会との間で行うなど、貸付の契約に条件を加えます。そもそも、モザンビーク子爵家はこの3年間、元本の返済はできていないようですので、それがあと5年続くだけです。そして、毎年の支払予定額を2000ドラクマについてですが、これまでの2400ドラクマよりも、400ドラクマ、毎年、浮かせることが可能になります」

「ほう。だが、利子は1200ドラクマで支払が2000ドラクマだと、800ドラクマ、支払が多いことについては?」

「その800ドラクマは、こちらにある返還準備金としてお預かりいたします。5年間の元本返済禁止期間で、このように4000ドラクマ、貯まります。そうすると、6年目の元本が、ここに……」

「元本が4000ドラクマ……6年で今の借金が半分に……利子もさらに減って……いや、これだと8年後には完済できるのか? この資料では……」

「はい。8年目は2000ドラクマではなく、1140ドラクマのお支払で、8000ドラクマの借入金が完済となります」

「驚いた。この資料は、わかりやすいな。そして、今の借金よりも、ずいぶんと優遇されている」

「はい。今のまま、借り換えずにいれば、毎年2400ドラクマを払い続けても、元本は減らずに8000ドラクマのままなのに、8年後には我がナナラブ商会よりもおよそ4000ドラクマ、多く支払うことになります。元本が消えませんので、その先も支払いは続くことになるでしょう」

「なるほど、ここの数字は借り換えをしない場合の支払額か……」


 モザンビーク子爵は資料から顔を上げて、私の方を見ました。選手交代のようですわ。では、エカテリーナ、行きます。


「何か、気になることでもございますの? モザンビーク子爵?」

「これほどの優遇ができる商会をわざわざ教えてくださるのは、何か、フォレスター子爵夫人から、私にご希望があるのでは? もしかすると、ウェリントンを親とせよ、と?」

「いいえ。ご覧の通り、タイラントが示した資料には、リバープール侯爵家からの借り入れには触れておりません。ウェリントンは新たな養子を求めてはおりませんわ」


 ……そもそも、おそらくですけれど、リバープール侯爵家は貸したお金を返せとは言っていないはずです。それが寄親というものです。その代わり、ちょっとした無理難題は押し付けられるのでしょうけれど。ねちねちと、ずっと。


「……では、何を?」

「私の願いは3つ」

「3つ……」

「まず、子爵家のお嬢さま方の来年のドレスを、私が紹介するドレスメーカーで購入してほしいのです」

「それは……フォレスター子爵夫人のドレスに興味を持っておりましたから、おそらく、うちの娘も喜ぶので……問題、ない、ですな? む? 子爵夫人に利は、ないのでは?」

「私の利はありますわ。流行は数ですもの」


 そう言いながら、私はさらりと三つ羽扇の襟に触れます。

 浮いたお金の400ドラクマでマダム・サラの顧客になって頂きますわ。今の借金経営で苦しい中なら、ザラクロ商会の価格破壊ドレスは喜ばれるでしょうし、三つ羽扇の襟にも興味はあるみたいですから。


「ああ、なるほど……」

「ドレス代も、借り換えで浮いた400ドラクマから準備できるでしょう?」

「確かにそうですな」

「2つ目は、モザンビーク子爵家のベッドシーツと枕カバーを洗濯させて頂きたいの」

「は……?」


 私の唐突な洗濯発言に、これまでと違って、モザンビーク子爵の顔が大きく崩れましたわ。そうですわね、意味不明ですものね。

 ……うふふ、ランドリネン商会の、初仕事ですわ! まだ商会はありませんけれど! 洗濯の事業化を進めますわ!

 まあ、これは雇用のためと、貧乏令嬢のみなさまの手荒れ防止のためであって、大きな利益は追求しませんけれど。本当の目的は別にありますし。


「夫婦それぞれの寝室と、夫婦共用の寝室、この3つの部屋で年間10ドラクマ。毎月、1の付く日と6の付く日で合計月6日、お屋敷まで洗ったシーツをお届けしますし、その時に洗うシーツを受け取ります。サービスでシーツに子爵家の家紋の刺繍をいれましょう」

「はあ」

「お子様の部屋も加えるのであれば、ひと部屋につき年間3ドラクマ、追加の支払いを。こちらはご子息2人、ご令嬢2人ですから、追加するなら12ドラクマで、合わせて年間22ドラクマですわね。これも、借り換えで浮いた400ドラクマから、問題なく払えるでしょう?」

「ええ、それは、そうですが……なんでまた……」

「では、お子様の部屋もよろしくて?」

「え? あ、はい」

「即決、ありがとうございます、モザンビーク子爵。合計22ドラクマですわよ? ああ、嬉しいですわ。では、最後に、3つ目のお願いです」


 私はにっこりと微笑みます。勝負所ですわ。


「モザンビーク子爵領にあるガラス工房から、何人か、職人を引き抜かせてもらいたいの」


 ビシっと音がしたような感じで、モザンビーク子爵の顔が固まりました。

 控えの中の空気がピンと張り詰めました。

 まあ、そうなりますわね。モザンビークのガラス工房があるから、モザンビーク子爵家はあの暴利を払い続けることができたのですもの。ガラス工房はモザンビーク子爵家の生命線ですわ。


「あら、ダメかしら? もちろん、引き抜くのは表向き、商会の方ですわ」

「いや、それは……」

「残念ね。このお話が流れるのなら、あちらに戻って、私、旦那様とお話、しないといけませんわね」

「……」

「ライスマル子爵家で何があったか、ご存知でしょう? イルマ商会から聞いてないかしら?」

「まさか、イルマ商会は……」


 うふふ、子爵から貴族の仮面がはがれてきましたわね。


「ええ。ライスマル子爵家のようにモザンビーク子爵家がなってしまっては大変でしょう? 余計な事とは思いましたけれど、手を回させて頂きましたの。要らぬ心配でしたかしらね?」

「あ、いや、それは……」


 これは大きな貸しでございますわよ?


「元々、旦那様をこの夜会にお誘いになったのは、ご友人であるご次男との縁を頼って、支援を求めたかったのでしょう? 寄親のリバープール侯爵家からは、これ以上支援を求めると、その分、いろいろと大変ですもの、ね? ご長女のこと、とか?」

「……そこまで、ご存知なのですか」


 スチュワート調べによると、ここの長女をリバープール侯爵家は嫡男の愛人に迎えたいようです。夫人は女の子を二人産んで、後継の男子はできないまま。でも、離婚すると、夫人の実家との関係が難しくなりますもの。だから、男児を産む愛人がほしい、と。

 モザンビーク子爵家として、冷徹に貴族らしく判断するのなら、娘を差し出せばいいのです。

 ところが、現モザンビーク子爵たるこの方は、娘をそういう立場に差し出すのは嫌だという、家族に対して貴族らしくいられないお父さんなのです。私、こういう方、嫌いではありませんの。

 ……本当に、スチュワートはどうやって調べているのかしら?


「……私、その気になれば、旦那様にほんの少し囁くだけで、モザンビークからガラス工房そのものを頂くこともできましてよ? ライスマル子爵家のようになる家がひとつ、増えるだけですわ。ウェリントンにはそれだけの力がございますものね。リバープールから気を付けるように言われたのではなくて? それに、ウェリントンとの揉め事を独力で解決はできないでしょう? そうなると結局、寄親であるリバープールの力を借りることになるのでしょうね? お嬢様の行く末が目に見えるようですわね」

「………………あなたは、どうも、噂とは違うお方のようですな」

「噂というものは、本人にはなかなか届きませんの。私、自分がどのように言われているのか、知らなくて。それで、モザンビーク子爵。どうなさいますか? 私、モザンビーク子爵にお願いした方がよろしくて? それとも旦那様にお願いした方がいいのかしら?」


 数秒、私はモザンビーク子爵と見つめ合います。別に頬を染めたりしませんけれど。


「………………ひとつ、お聞きしてもよろしいか?」

「何でしょう?」

「あなたの言う通り、ウェリントン侯爵家の力なら、強引にモザンビークからガラス工房を奪い取ることもできるでしょう。それなのに、なぜ、商会の会頭まで連れて、あのような優遇を? そこがわからない」


 ……私の感覚では、あれでもまだ暴利ですけれど、こちらでは優遇なのですよね。まあ、それはともかくとして。


「……モザンビークの借り入れは、4年前の豪雨による洪水で2つの橋が流されたことが原因ですわね? 橋の再建に資金が必要だったのでしょう?」

「ええ。そこもお調べでしたか」

「そのうちのひとつが、王都からサザンプトン伯爵領へ行く街道ですわ。私、サザンプトン伯爵領にあるサンハイムの山荘を所有していますの。あの橋がないと困るのですわ。ですから、こちらへの優遇は、言ってしまえば私の私利私欲ですわね」

「子爵夫人は……そういう方でしたか……」


 あら、モザンビーク子爵が感激していますわね。

 私、私利私欲だと申しましたのに、言葉通りではなく、領民や国民のためのインフラ整備が原因なら助けますわよ、という意味にでも受け取ったのかしらね。いい耳をお持ちですわ。

 スチュワートは子爵の性格まできっちりと調べていましたからね、うふふ。


 モザンビーク子爵家が借金で右往左往しているせいで、新しいガラス工房を増やせなくて、親方二人、工房二つのまま、腕を磨いた高弟たちがずっと独立できなくて腐っているという情報がスチュワートの調査報告書にありました。

 だから、職人の引き抜きは、職人たちにとっても利がありますの。モザンビーク子爵や親方たちへの職人たちの不満も解消できますわ。私、モザンビーク子爵、ガラス職人、三方良しというウィンウィンウィンな状況ですわ。

 それに、こういう風に、一度、技術者を流出させたら、二度目以降は、もう、ねぇ……簡単ですもの……。

 モザンビークでしっかり育てて頂いて、フォレスターで美味しく頂きますわね……。


「……わかりました。子爵夫人の3つの願いは全て受け入れます。もちろん、借り換えもナナラブ商会に頼みます」

「嬉しいですわ、モザンビーク子爵。今夜は実りあるお話ができて良かったです」


 エカテリーナは、ガラス職人を、手に入れた! うふふ、やったわ……。


 ……お義母さまもモザンビークのガラス工房には目を付けていたはずですわ。これで少しは悔しがって頂けるかしらね?

 潰すように圧力をかけて奪えば、全てウェリントン侯爵家の物ですけれど、職人を引き抜き、ナナラブ商会の資金を使って領地にガラス工房を作れば、税を取る侯爵家だけでなく、商会とそこに繋がる私の利益にもなりますもの。


 そうして、控えでの話し合いを終えて、子爵と談笑しながら、侍女たちを引き連れて会場へ戻りました。すぐにご夫人方、ご令嬢方に囲まれて、そこではドレスの話で盛り上がりましたの。


 旦那様は番犬に抑えられてダンスを『待て』していましたわ。よく我慢できました。ここ何日かで旦那様は立派に成長……あら、これでは番犬のスチュワートではなく、まるで旦那様の方が犬みたいですわね……。


 こうして、モザンビーク子爵家の夜会は無事に終わり、今回は旦那様と一緒に帰ることとなりました。馬車は別ですけれど。今までは先に帰りましたからね。


 さて、あとは大夜会ですわ……。


 いろいろと考えるべきことはありますけれど、とりあえず私室にお夜食を届けてもらいましょう。お腹が空きましたわ。







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