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13 祖母の面影




 目の前の資料に疑問が次々と湧いて出ます。


「……スチュワート?」

「はい、奥様」

「どうして、調べて、と言ったら、すぐに資料が届くのかしら?」

「誉めて頂けると幸いにございます」


 ……知りたいと思っていることが既に調査済みであること。確かに有能さの証明ではありますわ。

 というよりもこれは、また、お義母さまからの課題のような気が致しますわね。いったい、どこまで手を打ってらっしゃるのかしら。


 手に取った資料はライスマル子爵家に関する調査報告。執務机の上には、ヨハネスバルク伯爵家とモザンビーク子爵家の調査報告もありますわ。


 どれも、旦那様の親友、ご友人のおウチで、大夜会前に、ちょっとした夜会を開いて、旦那様の結婚をお祝い……つまり、私のことをお祝いしてくださる、というおウチでございます。本当に、余計なことをなさいますわね……。

 ミセス・ボードレーリルが勝手に出席で返答してしまったため、この夜会には私も出席です。ええ、お陰で別荘やら農園やらを頂きましたわ。ついでになぜかお義母さまからの高評価も。


 それはともかくとして……。


「……本当に、旦那様のご友人なのかしらね?」

「それは、なんとも、申し上げられません」


 ……その返答が答えでしょう?


 どの家も、資金的にやや苦しいようですものね。ケンブリッジ伯爵家ほどではありませんけれど。

 この方たち、旦那様と友人関係にあることは間違いないのでしょうけれど、どうやら、ウェリントン侯爵家からの支援も、大きな目的のようです。

 お金が絡むと、単なるご友人ではいられなくなりますわよ? 覚悟はあるのかしらね?


 ……まあ、そもそも、貴族に、本当に純粋な友人なんて……いえ。貴族に限らず、ですわね。


 ライスマル子爵家など、寄親であるマンチェストル侯爵家から止められたというのに、旦那様を祝福する夜会を開催するつもりですもの。乗り換えるつもりかしらね? 無理ですけれど。

 寄親が止めるのは、止めるだけの理由があるのです。素直に従っていればよいものを。

 マンチェストル侯爵家はこの夜会、欠席のようですわね。既に見捨てたのかもしれませんわね……。


 ……愚かですわ。そのようなことだから、お義母さまに狙われるのです。


 うちの旦那様は、言ってみれば不発弾ですわね。いつ、どこで爆発するか、わからないお方です。本人にその自覚はございませんけれど、だからこその不発弾です。

 最有力な侯爵家という巨大で強大な権力を理不尽にお持ちなのに、その自覚がないという、困った存在です。

 ご自分の行動がどのような影響を与えるのか、おわかりではないのです。


 ……ご友人だというのなら、理解していてもよさそうなものですけれど。


 はあ。気が重いですわ……。ですけれど、それをうまく御しなさい、というのがお義母さまの思し召しですわね。


 この三家は、そのための教材のようなもの、というところでしょうか。


 ……不発弾をどこかで爆発させて、理不尽な権力を自覚させなさい、という感じかしら。そのためなら、旦那様の友人関係も、寄子ではない子爵家や伯爵家も、崩壊させてかまわない、と。お義母さまらしいですわ。


 ですけれど、息子の教育というものは親がするものでございますわ、お義母さま。私にさせて、どうか後悔なさいませんように。


 さて。課題をこなしつつ、私の利を得るには、どうするのがいいかしら……?






 ライスマル子爵家の夜会の日、とても久しぶりに旦那様とお会いしましたわ。


 サンハイムの山荘から戻って数日経ちましたのに、お顔を見たのは初めてですもの。


 私が夜勤の回数を知っていたことに動揺なさっていましたのに、どうせ知っているのならばと、お屋敷に帰らない日々をお過ごしになるとは、本当にドクズですわね……。まあ、早朝に帰って着替えたりはしてらっしゃるようですけれど。


 一応、エスコートはしてくださるおつもりのようで、同じ馬車に乗りましたわ。旦那様と、私と、侍女で護衛のクリステル。旦那様の侍従のヘイストルは御者席の方で御者の隣におりますわね。移動には騎馬で護衛騎士も並走しております。


「スラーは、騎士見習いの頃から、私とは剣で互角、馬上槍だと少し私が勝ち越しているんだよ、リーナ」


 私は旦那様のお話に微笑みながら相槌を打っておきます。声を出すのも面倒ですわ。


「大会の近衛の部でも、スラーは8強に入るからね。私は馬上槍だと2強だよ、リーナ」


 心から、どうでもいい情報だと思いますわ! そう言えば、汗を拭う仕草で、ご令嬢のみなさまをクラクラさせてらっしゃるのでしたわね。どうでもいいですけれど。


 ……そんな旦那様トークを聞き流しながら馬車は進み、ライスマル子爵家のお屋敷ですわ。


 本日の夜会の招待客では最高位です。一度、控えに通されて、入場を待ちます。


 男爵家、子爵家の方は既に入場済みで、ご歓談中なのでしょう。今回、伯爵家は参加しておりませんわね。招待状を送らなかったようですので。もちろん、公爵家や王家は、当然、同じですわね。

 寄親のマンチェストル侯爵家は招待されての欠席返答ですわ。その意味を考えなかったのかしら?

 こういう情報を掴んでいるスチュワートたち、我が家の使用人……というか、ウェリントン侯爵家の使用人は、本当に優秀ですわね。旦那様は目を通していらっしゃらないようですけれど。


 控えの扉がノックされて、呼び出されました。入場ですわ。最後に華々しく。

 そして、主催のライスマル子爵家のみなさんに、最初に挨拶をするのです。


 本当、面倒な仕組みですわ……いえ、長い時間をかけて、この国ではこのスタイルになったと理解はしておりますけれど。


「ようこそいらっしゃいました、フォレスター子爵。ご結婚、おめでとうございます」

「ありがとう、ライスマル子爵。こちらが私の妻、エカテリーナだ」

「エカテリーナ・フォレスターです」


 余計な言葉は、発さない。できれば、それで、気付いてほしいですわね……。


「ノルマンド・ライスマルです。お噂は何度も耳に致しました。これは妻のウルスラ、嫡男のリーンハルタス、次男はフォレスター子爵と同じく近衛騎士をしております、スラーフェスト、そして、母のオリビエラです」


 ……おや、母、と? スチュワート? 事前情報にありませんでしたわね? 確か、領地にいるはずなのでは?


「ウルスラでございます。フォレスター子爵夫人は、珍しいドレスをお召しですわね?」


 私は話しかけてきたライスマル子爵夫人へと見せつけるようにゆっくりと扇を動かし、右肩から口元を隠すように開く。もちろん、三つ羽扇の左襟はよく見えるように。

 特に何も答えない私に、ライスマル子爵夫人は少し戸惑っていますわね。


「……扇襟、でございましょうか? 私が知るものとは少し、違うようですけれど」


 母と紹介された方から、嫁である義娘へのフォローが入ります。お勉強が足りませんわね……。


「あら、ライスマルの大奥様はご存知でしたか?」

「ええ。私がまだ、嫁ぐ前、私の母や祖母がよく扇襟のドレスを着て、出掛けておりました。けれど、その頃のものとはずいぶんと受ける印象が異なります」


 ……この方、柔らかくも、芯がありますわね。何かしら? ……ああ、お祖母さまにどこか似てらっしゃるのね。懐かしいわ。あの年代の方は、みな、こういう感じなのかしらね?


「昔のものをそのままというのは、あまりにも流行から外れてしまいますでしょう? ですから、当時のものよりも羽の数を少なくしてみましたの。けれど、扇襟に込められた想いは大切に受け継いで、よき妻でありたいと思っておりましてよ?」

「それは、素晴らしいことでございます」


 ……微笑む感じが、お祖母さまにそっくりですわね。血の繋がりはなかったはずですけれど。


「まあ、これは、昔のデザインですのね?」

「ええ」


 ああ、子爵夫人はご存知ないから、単なる昔のデザインでしかないわよね。いろいろと足りないこの嫁のフォローのために、大奥様は領地からわざわざ出てきたのかしら。侯爵家の跡継ぎ夫妻を招くという、こんな大それた夜会を開こうなどと、息子たちが行動してしまったから。


 ……ドレスを馬鹿にされた、というパターンも考えなくはなかったけれど、大奥様の対応で中和されましたわね。それに、こっちは私の利がありませんし。素晴らしいと言ってもらえましたし。


「……旦那様、他のみなさまの挨拶がございますわ」

「ああ、そうだね。下がろうか、リーナ」


 他のお客様も、主催者への挨拶が必要です。場を譲りましょう。


 ……でも、困ったわ。この大奥様、なんだか、お祖母さまに似てらして、懐かしくて。


 気持ちが鈍るわ……。






 みなさまが挨拶を終えるまで、歓談の時間ですわ。

 侯爵家と縁を繋ごうと、勇気を出して話しかけてくる方もいるので、おもしろいですわね。あと、女性陣。新婚で、その妻を連れての参加だというのに、旦那様に夢中ですわね……。


 結婚のお祝い、ドレスのこと、最近の社交界の話題など、いろいろな話が出ますけれど、基本、ほとんど口を開かず、扇を開いて、目元で微笑みますわ。


 私と旦那様の間には、女性陣が入り込んで、離れ離れですの。


 今日は、クリステルが一緒です。というか、基本的に夜会に同席する侍女には必ず護衛でもあるクリステルが選ばれています。そして、クリステルのドレスも三つ羽扇の襟ですわ。

 この場に二人だけですけれど、基本、クリステルが私の傍から離れることはないので、二人そろっての三つ羽扇の襟は目立ちます。気になっている女性もいるようですわね。この中では最高位の私が堂々と着ているのですもの。

 ……自分好みのドレスを侍女にも無理矢理着せている痛い女、と思われている可能性もありますけれどね。

 クリステルが主催者への挨拶へ行く時には、旦那様の侍従のヘイストルが背後におります。二人は交代で挨拶に向かいます。


 配られる飲み物、テーブルに並んだ食べ物。一切、口には致しません。これが王家主催の大夜会だったとしても、同じで……あら? 旦那様は飲んでらっしゃいますわね。大丈夫かしら? まあ、男性と女性でいろいろと違いはございますものね……。


 やがて、来客全ての挨拶が終わり、ライスマル子爵と子爵夫人が中央でダンスを披露。

 気合を入れて練習なさったのでしょうかね。背筋がピン、と伸びて、なかなか美しいですわ。


 ……若者が多く招待されているようですので、嫡男の子爵令息がダンスを披露してもよいのではないかとも思いますけれど、残念ながら婚約者がまだ決まっていらっしゃらないとの、スチュワート調べですわ。


 そして、主催者のダンスの披露が終わると、お客様のダンスタイムですわ。


 はあ。気が重い……。


「フォレスター子爵さま、ぜひとも、一曲」

「あら、私ともお願い致しますわ」

「まあ、私だって」


 モテモテですわね、旦那様。予想通りですけれど。


「レスター、今日はまず、奥様からだろう?」


 旦那様を親し気に愛称で呼ぶのは、近衛騎士の次男ですわね。惜しいですわ。他の女性から誘われる前にその言葉を言えたのなら、身を守れましたのに。もしくは、女性陣に、私とのダンスが終わるまで旦那様を誘わないように、言い含めておく、とかね……。


 この日まで、私が王都のお屋敷に帰ったと知っても、帰らずに遊び歩いていたドクズですのよ、そこの男は。

 そして、私は今日、この方に、旦那様に、挨拶などの礼儀作法以外では、実は一言も、言葉を発しておりません。完全なる塩対応ですわ。

 旦那様がちらり、と私の方を見たようですわね。そういうアゴの動きでしたわ。


「ああ、いや……」

「ほら、奥様のところへ」

「あ、ああ。リーナ……」


 この方、女性陣から積極的にダンスに誘われることが多くて、自分から誘うことはほとんどないというイケメンですの。名前を呼ぶ声に、私からおねだりして欲しい、という意図を感じます。うざい。


 私、気合を入れますわ! 下腹に力を込めて、いつもよりも目線を高くします。


 ……くぅ、イケメン眩しい! いえ、負けませんわ! 短い時間だけですもの!


 旦那様と目を合わせます。気合です。エカテリーナ、行きます!


「旦那様は、ずいぶんとおモテになるようですわね。誘われていますわよ?」

「いや、それは、そうだが……」

「どうぞ、旦那様。次期、侯爵、として。思うがままになさってくださいませ。私、次期侯爵夫人として全てを受け入れますわ」


 今の旦那様に、この意味が伝わることはないでしょうね。

 次期侯爵という地位の、財力の、権力の重みを、理解してらっしゃらないのですから。

 それどころか、勘違いなさることでしょう。いつものように、浮気を容認している、と……。


 ついでと言っては何ですけれど、拒絶するような感じで扇を開いて、目線以外の全てを隠し、唯一晒している目線も、ゲスな男を蔑む感じにしておきます。

 本質的には流され男の旦那様では、こういう冷たさに勝てないでしょう?


「……わ、わかったよ、リーナ。ありがとう……じゃ、君、一曲……」

「まあ、嬉しいですわ、子爵さま」

「ええ……次は私ですわよ……」

「いえ、私ですわ」


 女性の手を取って、ホールの中央へ進む旦那様。


 ご友人が私と踊れと言った意味も考えず。

 私が次期侯爵、次期侯爵夫人と言った意味も考えず。


 思うがままになさった結果を受け止めてくださいませ。


 ……あら? 手がどうしようもなく、泳いでいますけれど、今の旦那様を止めようと動いた方がいらっしゃるみたいですわね? 止められませんでしたけれど。次期侯爵をぐいっと掴む訳にもいきませんものね。

 あの方は、ウェンディー男爵家の次男だったかしら?

 この状況が何を意味しているか、気付いたのよ、ね? だとすると、使えそうな方ね。私を誘うように言っていた近衛騎士の次男でさえ、戸惑っているだけだというのに。


「奥様、これは……」

「クリステル、いいの。それよりも、このダンスの間に、帰りますわよ」

「っ! 奥様、まさか、わざと……」

「クリステル、言葉が過ぎます」

「……申し訳ございません」


 この感じ。クリステルはお義母さまの完全なコントロール下ではないわね。まあ、私の完全なコントロール下でもないけれど。


 静かに、目立たぬように、出口へと動き始めます。


「……フォレスター子爵夫人」


 音もなく近づき、私を呼び止めたのは、ライスマルの大奥様でした。

 私も足を止めて扇で口元を隠し、ゆっくりと振り返ります。私と大奥様の背後では、音楽が賑やかに流れ、楽しそうにダンスを踊る方が何人もいらっしゃいます。


「……大変、申し訳ございませんでした。どうか、私を、ガリエムデとなさってくださいませ」

「……クルノサの例もございましてよ?」

「あれは王なればこそ。我が家は子爵家にございます」


 ガリエムデは古代ラホース王国の宰相。戦争反対派で、しかも戦場には出ていないのに、敗戦の責任を取って毒杯を自ら飲み干した人物。

 クルノサというのは地名。ファラン王国のブルボⅥ世が王妃との離婚をラホース神聖国の教皇に願ったが認められず、それでも離婚を強行して、教皇から破門された後、ファラン王国で信心深い民衆が反乱を起こした。反乱に困ったブルボⅥ世は、教皇が結婚式のためにカステーリ王国へ向かう途中、クルノサで待ち伏せて、粗衣で平伏して謝罪し、破門を解いてもらったという故事で有名なところ。


 ……そう。この方、こういう時の責任を取るために、領地から出ていらしたのね。最初から、こうなることを覚悟していたのでしょうね。立派ですわ。


「……あなたは私の祖母に、雰囲気がとても似ているわ。懐かしいと思うほどに」

「嬉しいお言葉です。あの方は、私の憧れでございました」

「そうなの……」


 権力という、理不尽な力。

 それが、この、立派な方を巻き込むのね……。


「……私、祖母を亡くしてから、ずっと、さみしく思っておりましたの」

「……」

「今だけ、あなたを祖母と思って甘えてもいいかしら?」

「それがフォレスター子爵夫人の望みならば、いかようにも」

「ありがとう……ねえ、お祖母さま。孫娘としては、お祖母さまに成長した姿を喜んでもらいたいわ」


 私は扇を閉じて、にっこりと笑顔を見せる。子どものように。


「だから、お祖母さまの最後の願いは、できるだけ叶えてさしあげたいの。お祖母さまの願いは何かしら?」

「それは……」

「ねえ、教えて、お祖母さま?」

「………………義弟の三男が……西の王領で文官をしております。跡は……彼に」

「三男?」

「長男と次男は平民を嫁にしました。三男の嫁は男爵令嬢です」

「そう。わかりましたわ、お祖母さま。微力を尽くしましょう。では、失礼しますわ。おやすみなさい、お祖母さま。どうか、いい夢を」

「……ありがとうございます、フォレスター子爵夫人」


 足を動かし、もう振り返らない。

 新婚の次期侯爵夫人に恥をかかせた子爵家がどうなろうとも。

 どんなに立派なご夫人が、その命を懸けて詫びたとしても。


 ウェリントン侯爵家は、友人の顔をしてうまく取り入って利を得ようとした彼らのことを、次期侯爵が権力や財力の怖ろしさ、理不尽さを知り、正しく用いられるように成長させるための教材としか、見ていないわ。


 欲を出し、寄親からの注意を聞き流して、愚かな夜会を開いたという点では、ライスマル子爵家の自業自得という面もあるけれど。


 ……まさにマッチポンプですわ。理不尽としか、言いようがないもの。私に、新婚の旦那様に最初のダンスを踊ってもらえない妻という恥をかかせたのは、旦那様本人ですし。


 この理不尽に対して、ありがとうございますと言った大奥様の顔を思い出して、ちくりと痛む心がある私は、まだ、人間らしさを保てるかしら……。

 まあ、お金と引き換えに、この立場を手にしてしまったのですもの。責任は果たしますわ。


 エスコートもなく馬車に乗り込み、騎乗の護衛騎士をひとり、先にお屋敷へと向かわせます。旦那様用の迎えの馬車を出させるために。

 車内では無言ですけれども、クリステルが悲しそうな顔をしていますわね。この子……私よりも年上ですけれど……武門の生まれだからか、素直ですものね。羨ましいですわ。


 お屋敷に戻ると、スチュワートがばっちり、待っていますわね……はあ……。


「お早いお帰りですね、奥様。何か、ございましたか?」

「……夜会で、大きな恥をかかされたわ、スチュワート。すぐに王都の各商会へ伝令を。ライスマル子爵家との取引を行えば、ウェリントン侯爵領の通行を認めないと。……港も含めて」

「奥様、それは……」

「次期侯爵夫人に恥をかかせたの。何度も言わせないで、スチュワート。お義母さまからは今朝、事前に了解を取っています。すぐに人を遣って。あと、マンチェストル侯爵家とも連絡を取るわ。執務室に手紙を用意してあるから、それを届けて頂戴」

「今朝……? 執務室に手紙……」


 そんなに堂々と、前もって準備していたということを匂わせるな、とでも言うように、スチュワートが苦い顔をしていますわね。知ったことではございませんけれど。


「ライスマル子爵家の動きを監視する人も用意して。お義母さまには、本家も動かしていいと言われているわ。それと、ライスマル子爵の従兄弟が西の王領で文官をしているらしいの。調査して、どんな人か確かめて。あ、そうだわ、ウェンディー男爵家の次男も調べておいて。使えそうな人なの」

「……かしこまりました」

「あと、すぐに執務室にミセス・ボードレーリルとオルタニア夫人を。もちろん、スチュワート、あなたもよ」


 うふふ……私、今、機嫌が悪いの。申し訳ないけれど、八つ当たりも含めて、ストレスは発散しますわ!







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