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であい橋にて

作者: 杉谷馬場生

 福岡市の中央区と博多区を境目は至る所にある。

 その中でも天神と中洲の間の那珂川にかかる橋がある。その橋は歩行者用の遊歩道で車が侵入することはできない。いわゆる福岡地区と博多地区をつなぐ事から「福博であい橋」と名が付いている。

 その橋はただの通行のための橋ではない。橋はレトロな街灯が立っており、近隣にある貴賓館と合わせてなんとも落ち着いた、上品な佇まいをしている。

 その橋の中ほどには屋根付きの休憩スペースがあり、そこに一人の男が背を丸くして石でできたベンチに座っていた。その日は雨であった。

 春先なのに冷え込んでいる。この季節だと天気の良い日はこの場所はとても居心地がいいのだろうが、今日は長居できるような気温や天気でもない。それでも男は寒さを耐え、じっとそこに座っていた。

 男が出会い橋に来て、かれこれ2時間になろうとしている。

 男は待っていた。このであい橋が待ち合わせ場所だった。相手は好意を抱いている女性である。

 男は背を丸くしながら那珂川の方へ視線を向ける。そこには多くの電飾の巨大看板が掲げられていて、夜ともなればライトアップされて賑やかになるだろう。福岡といえばと言った風情の「中洲の夜景」が広がるのだ。

 今はまだ昼であるから閑散としたものである。それらの看板を男は眺めている。その中にマッチングアプリの看板があった。まさしく男が女性と出会ったきっかけとなったアプリの看板である。

 今までずっと男と彼女はメッセージにて交流を重ねてきた。そうして互いの思いを、そして情報を共有してきた。今日が初めて顔を合わせる日なのだ。

 であい橋で待ち合わせましょう——。

お互いの都合がつき、デートの約束をしてきたのは彼女の方である。それなのに彼女は来ない。

 男はスマホで時計を確認する。待ち合わせから3時間が経過していた。

 こんなに長く待つのも阿呆な事だとは男も重々承知している。であい橋に到着してから男は彼女に何度となく連絡をしているのだ。しかし向こうからはなんの音沙汰もない。

 踏ん切りがつかないのだ。未練がましいといえばそれまでであるが、男にとって数年ぶりの恋人となるかも知れなかった。男は那珂川を望みながらため息をつく。寒風の向こうには二人で行こうと思っていたキャナルシティが見える。それもまた虚しかった。

 背中越しには時折バサバサと羽根の音が聞こえる。鳩が多いのだ。振り向くとこんな雨の日なのに鳩は気にすることもなく橋に落ちているであろう何かを啄んでいる。

 その鳩の中に一羽、首元を大きく膨らまし、なんだか見栄を張っているような鳩が一回り小さな鳩を追いかけている。恐らく追いかけているのは雄だろう。ならば小さいのは雌か。これは雄鳩は求愛行動をしているのだろうか。

 男はいつのまにかその雄鳩を目で追っていた。雄鳩は雌鳩を追いかけている。それにしてもいささかしつこいようだ。雌鳩は明らかに逃げている。それでも雄鳩は追いかける。

 男はそこで腑に落ちた。この雄鳩は今の俺と一緒ではないか。どちらも未練がましく追いかけている。3時間も待ったのだ。なんの返事もない女性とは見切りをつけるべきだ。

 男は立ち上がった。鳩は天神の方へと雌を追いかけて歩いていく。男はどちらに行ってもいいのだが、鳩と一緒の方向はなんとなく嫌だった。

 男は中洲方面へと歩いて行った。しばらくここには来ないだろうと男は思った。

 

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