抗争で死んだヤクザはスキル「通貨製造」を得て転生しました。
神様は下界の様子を眺め、心を痛めていました。
下界はどこも争いが絶えません。
今も暴力団同士の抗争で1人刺殺され、魂がさまよっていました。
「この世の欲にまみれ、欲のるつぼで歪んで育ち、欲に殺されるとは、哀れな者よな。」
神様は、抗争によって死亡したヤクザの魂を天界に誘導しました。
「あれ?俺は刺されて死んだはずじゃ。
ここはどこだ?」
「ここは天界、今のお前は魂だけの存在なのだ。」
「んじゃ、アンタが神様か?」
暴力団に籍をおき、抗争が始まる前から畳の上では死ねないと覚悟していた男は、あっさりと死を受け入れました。
「お前は産まれた時から欲にまみれた世界で育ってきた。
あのような生き方しかできなかったのは、私にも責任がありそうだと思ってな。
来世は慈愛にあふれた世界に転生させてやろうと思う。
前世の罪ほろぼしに、お前に1つ望みのスキルを授けてやろう、何が良い?」
「カネだ!カネをいくらでも作れるスキルをくれ!」
男は迷う事なく、スキル「通貨製造」を選びました。
「よかろう、ではスキルを授ける。」
神様は男に左手をかざすと、黄金色の粒が男の魂に近寄り、そして魂の一部となりました。
「では、お前は慈愛にあふれた争いの無い世界へと転生させてやろう。」
「ありがとうよ神様、恩にきるぜ。」
「その感謝の気持ち、いつも忘れるでないぞ。」
こうして男の魂は、慈愛のガンダーラへと転生したのでした。
俺の名はサイ、今年で18才になる。
神様にだまされてガンダーラなんて世界に飛ばされちまった。
神様は確かに俺に通貨製造スキルをくれた。
通貨製造スキルは、ありとあらゆる通貨を作れるスキルだった。
1万円札作るのに3秒かかるが、マジで気合い入れりゃ時給1200万だ。
ガキの頃は、これで天下取ったと思ったもんだ。
だが、3才になった辺りだったか、俺はスキルの致命的な問題点に気がついた。
ガンダーラの経済には、通貨が存在しなかったんだ。
信じられるか?通貨が無い経済だぞ。
資金力という言葉がある通り、カネは力だった。
大抵の事はカネで解決できた。
カネがある奴に権力があった。
だから人はカネを求めた。
だが、ここには通貨制度が無い。
「俺はビッグになりたかったんだ。」
俺は農作業を終えて、久々に友達のアラダと飲んでいた。
「お前、背が低くないだろ。」
「いや、そういう事じゃねーんだ。
なんてよってゆうかよー。」
そうだ、ビッグって何だ?
それは、凄い奴って事か。
カネがあれば、手軽に凄い奴になれたんだ。
「それは、徳が高いってことか?」
「いや、間違っちゃいないが、そうゆうのとはちょっと違うんだよな。」
徳。
金のないこの世界で、経済を回してるのは、この徳って奴だ。
徳は良い事をすれば増え、悪い事をすれば減る。
そして、徳が高い人ほど、優先的に物がまわってくるようになってる。
徳は世界が管理していて、徳の増減は必ず国を通すから、他人から直接徳を奪うとか、そういう事はできない、それ以前に他人に渡すという仕組みがない。
なので、この世界では、金目当ての犯行という奴が存在しない。
ならば、徳が高い人が物を独占するか?と言えば、そうでもない。
徳が高い人は、だいたい物欲が低い、余計に余ってると、他の人にあげて徳を稼ぐような奴らだ。
「でもさ、サイが言う通貨ってゆうシステムって、便利かも知れないけど、すごく物騒じゃない?」
「ああ、そのせいで前世は死んだような物だからな。」
「またその話?いいかげん中2病なおしときなよ。」
アラダは中2病と言うが、本当なんだよな。
「お姉さん、ビール追加。」
「俺も。」
俺とアラダはウエイトレスに酒を追加注文する。
「お客さん、飲み過ぎには気をつけてね。」
「ああ、わかってる。」
酔っ払って迷惑をかけ続けると、徳がガンガン減ってくからな。
何たって、アラダのツマミに勝手に手を出しても徳が減るんだからな。
「アダラ、お前のツマミ1つもらうぞ。」
「ああ、いいぞ。」
こうやって了解をとれば問題ないけどな。
「で、結局ビッグになるって何なんだ?」
「うーん・・・他の奴らに俺の事をスゲー奴だって思わせる事かな。」
「こいつスゲー中2病だーっとか?」
「いや、中2病じゃねーから。てか、スゲー中2病って何だよ、そいつ重傷じゃねーか。」
「だったらよ、中2病じゃねー所を見せてくれよー」
アダラも酔っ払ってきてるな。
中2病じゃない所を見せろって言ったってなぁ・・・あ、そうだ、
「じゃあ、神様からもらった通貨製造スキル見せてやるよ」
俺がこれをやるのは何年ぶりだろうか。
手品師みたいに袖をまくって、手のひらと甲をみせる。
スキルを発動させた瞬間、テーブルの上に何の前触れもなく、五百円硬貨が1枚現れた。
「こいつが五百円玉だ、だいたいビール一杯分の価値だな。」
「・・・マジか。おい、もっとやってみろよ。」
「やだよ、これ下手に捨てたら、不法投棄で徳が下がるだろうが。」
アダラは俺の宴会芸的なスキルに喜んだだけだった。
しかし、これを見てたのがもう1人。
「お客さん、今何やったの?」
ここのウエイトレスだ。
俺は抗争中に刺されて死に、神様からスキルをもらった事を話した。
ほとんど信じないので、再び通貨製造スキルを使ってみせたところ、ウエイトレスは真顔で、俺に資源局に行くように進めてきた。
数ヶ月後、俺は資源局員に転職した。
「うん、君を採用して良かった。」
俺は通貨製造スキルを使って、せっせと世界最大の金貨である小判を作っていた。
「本当、金を手に入れるのは大変だったから、すごい大助かりよ。」
金、銀、黄銅、白銅、青銅そしてアルミと、通貨製造スキルは、金属を生み出すスキルとして、一躍脚光を浴びた。
だが、俺としてはやっぱりカネはカネとして使いたかった。
「フム、まさか私が授けたスキルが、別の形で有効になるとは。
それにしても、あそこまでカネに縁がない世界でも結局本人の欲望はそのままだったか。」
神様は思い知りました。
欲望のるつぼで染まった腐った魂は、そう簡単には浄化されない事を。
「いっそ、世界ごと滅ぼしてしまうのも良いか。」
さて、神様の決断は?
徳が通貨の代わりにをするこの世界、気に入った方がいましたら、作品に取り入れていただけたら幸いです。