24日目 死神さんはネガティブ
学校から帰ってくると、死神さんが膝を抱えてソファに横たわっている。見た目から落ち込んでいるのがわかる。昨日の醜態を思い出して苦しんでいるのだろうか。
「ただいま、死神さん」
「……おかえり」
見た目通り覇気がない。死神さんに覇気があったことの方が少ないが、今日は一段と弱っているようだ。
「少年……」
「はい。何か用ですか?」
「私のこと、好き?」
「ええ、好きですよ」
このやりとりに、死神さんの顔がほんのり赤くなる。もう何度も言った言葉だというのに、死神さんの反応は奥ゆかしい。しかし、何故今さらこんなことを訊ねてきたのだろうか。
「今日、朝に鏡を見たんですよ」
死神は鏡に映るのかと、思ったが、吸血鬼ではあるまいし、こうしてやり取りをしているのだから映って当然だ。
「私の肌は青白くて、病人みたいだし……」
知ってる。いつも通りだ。
「目の下には隈があるし、目つきも悪いし……」
毎日顔を合わせているのだから、その程度は承知している。
「白髪だし、髪はぼさぼさのよれよれでキューティクルの欠片もない……」
手で梳くのも難しい。一度梳こうとしたが、指に引っかかって断念したことがある。
「服だって、黒のローブで華やかさもないし……」
つまり、死神さんが何を言いたいかというと――
「少年は、私のどこが好きなんですか?」
死神さんもついに辿り着いてしまったのか、自らの真実に。お洒落をしたい盛りの女の子なら当然、行きつくところだろう。それに、死神さんは気づいてしまったのだ。
「全部」
「嘘ばっかりじゃないですか」
嘘を言っているわけではないのだが、彼女は信じることができないようだ。昨日、煽るように好きだの、愛しているだの、言われたことに自信を失っているのかもしれない。
「だいたい、少年は前に言ったじゃないですか、人は見た目が十割だって! 冷静に自分を見返したら、好きになる要素がまったくないじゃないですか」
出会って間もないころのネガティブさは、こちらを諦めさせようという意図が大きかった。今回のネガティブは、自分がその愛に応えられないと思うところからきているのだろう。
「なら、言わせてもらおう。僕は見た目が十割だと言いきってから、死神さんを彼女にしたいと迫った。それはつまり、その残念美人な死神さんが僕の好みにどストライクだったのではないか、と」
ソファで横になっている死神さんの眉間に皺がよった。自分が褒められているのか、けなされているのか、判断がつかないような、微妙な反応だった。
「もしも、もしもですよ。少年の前に、私より少年好みの死神が現れたら……やっぱり、その死神を好きになるんですよね」
成る程、死神さんは鞍替えされるのを恐れているのだ。昨日完結した『ラズベリーキス』のヒロインになったときの立場になって考えてしまったのだろう。
人を好きになる重要な要素は、出会った順番でも、一緒に過ごした時間でもない。それを理解したら、自分が好かれている理由がわからずに不安になったのだろう。自分に自信がないのも、死神さんらしい。
「いいか? よく聞け。僕と死神さんは、すでに結ばれている。つまり、漫画で言うところのハッピーエンドの向こう側、先にいるんだ。そんな二人の間に、顔がいいだけの相手が入りこむ余地なんてない。そうだろう?」
「そう……ですか?」
「そうだよ。好きになった相手をほいほいと乗り換えるような人間じゃないつもりだ。好きな相手は一人だけ。死神さんただ一人だよ」
死神さんは抱えた膝に顔を埋めて悶え始めた。自分で言っておいて、かなり恥ずかしくなってきた。自分の心に偽りはないとはいえ、これほどまでの大告白は堪えがたい。
「まぁ、信じて欲しい……ってことだ」
「……」
死神さんは膝に顔を埋めたまま無言を貫く。その顔を覗き込んでよく見ると、口元が緩んでいる。言っている方も恥ずかしいが、聞いている方も恥ずかしかったようだ。
彼女の隣に腰掛ける。すると、彼女はもぞもぞと体を動かして、膝の上に頭を載せてきた。顔は隠したままだったので表情はわからないが、その頭をそっと撫でてやる。
「……浮気しないでくださいね」
「しないさ。死ぬまでは」
「もうすぐ、死ぬじゃないですか……」
ごわごわした彼女の白髪を撫でるとこちらの胸が暖かくなる。絶対に彼女の手を放さない、そんな気持ちが湧き上がる。彼女はどうかわからないが、自分は今とても幸せだ。




