2日目 死神さんと一緒に朝食
食卓で朝食に用意した、バターを塗りたくったトーストを一口齧る。
昨日、死神さんと出会って、死の宣告を受けた。一晩経って冷静になると、それが本当のことだったのか、わからなくなっていた。
昨日の会話の中で、会いに来てくれる約束をとりつけたはずだ。だけど、それは何の保証にもならない。もしかしたら、このまま二度と会えないのではないかと不安になった。
中学生の頃に好きな人ができて、ラブレターを送って告白しようと思っていた。彼女を待ち合わせした場所で待っていたが、ずっと姿を現さなかったという悲劇があった。また、同じことを繰り返してしまったのだろうか。
「あの……来て早々に無視されると、なかなかに心に堪えるものがあるのですが……」
悪夢を振り返っていたら、いつのまにか黒ローブを纏ってデスサイズを背負った不審人物が、テーブルの向かいに座っていた。彼女が来たことにまったく気付いていなかった。
「来てくれて、本当によかった。昔のことを思い出して、泣き出しそうになっていた」
「君の過去に、何があったの!?」
こうして死神さんがやって来てくれたということは、昨日の約束を守ってくれているようだ。再び彼女と出会えたことが嬉しくて、つい笑顔になってしまう。
視線を向けると、彼女は首がへし折れるかと思うような速度で、顔を逸らしてきた。まだ、避けられているようだが、ローブで顔を隠していないだけ、一歩前進だと考えるべきだろう。
せっかく訪ねてきてくれたのだから、おもてなしをするべきだろう。
「死神さん、せっかく来たんだから、何か飲んでかない?」
「じゃあ、珈琲をお願いします」
「あ、珈琲は嫌いなので、置いてないです」
「そうですか、残念です。珈琲は黒くて実に死神的な飲み物なのですが……」
しょんぼりと俯く彼女のために、今後は珈琲を買い置きしておこう。
棚にしまってある紅茶の茶葉を取り出して、中身をポットの中に入れる。お湯を注ぐと、紅茶のいい香りが漂ってきた。
「学校があるのに、随分と優雅だね、少年」
少し蒸らした後、ポットのお茶をティーカップに注ぐ。それを彼女の前に差し出す。彼女はカップを手に取り、顔を上げてからひとくち飲んだ。
「この茶葉は、ヌワラエリアですね?」
「ダージリンだけど……」
彼女は再び俯くと、身体をプルプルと振るわせ始めた。勝手に自爆して、勝手に恥ずかしがっている。そんなドジっ子属性もとても可愛いと思う。
あまりに彼女が不憫なので、こちらから話題を振ってみた。
「さっき言ってたけど、珈琲が死神的飲み物なら、死神的ジュースは黒色のコーラだったりする?」
「いえ、死神的ジュースはタブ○リアです」
死神さんが何を言ったのか、わからない。た、たぶ……何?
「もしかして、今の子はタブ○リア知らないんですか!? あの、透明なコーラですよ?」
理解できないことが顔に出てしまっていたようだ。死神さんはそれを敏感に感じ取ったのだろう。
再度、彼女は俯いてしまった。三度も繰り返したせいで、横から見える彼女の顔が真っ赤になっている。最初は青白かったのに、相当に恥ずかしかったのだろう。
「じゃ、じゃあ、私はこれから死神の仕事がありますので、失礼します。少年も学校に遅れてはいけませんよ」
黒いローブを被って「紅茶、美味しかったです」と言い残して、消えていってしまった。想像よりよっぽどポンコツだった死神さんは、とても人間らしく付き合いやすかった。明日になればまた会えるのだから、それを楽しみに待っていよう。少なくはあるが時間はまだあるのだから。