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底辺男の向夏録  作者: 青色蛍光ペン
6/10

6:勉強会にて

7月19日の金曜日。科学部の部室では、数少ない活動である勉強会が開かれていた。科学部を名乗ってはいるが、全教科分からない部分があったらお互いに教え合い、それでも分からない部分は相良が教えてくれる。おかげで毎回科学部はクラス成績で割と上位の辺りに居座ることができている。だが、今回のテスト範囲はやけに広く、全員まだ分からない部分をいくつか残している。しかし時間は待ってはくれない。最終下校時刻を告げるチャイムが校内に鳴り響く。


「なんで今回こんなに範囲広いんだろな」


全員部室から出て、上月が鍵を閉めながらぼやく。勉強会には参加するし分からない部分は積極的に相良に質問したりしている上月だが、別に勉強大好き人間ではない。別に勉強が嫌いなわけではないのだが、いざやるとなれば面倒だと感じる。テストの出題範囲が広いのも勉強大好き人間にとってはご褒美かもしれないが、上月にとっては普通に面倒なのである。


「私もまだまだ分からない部分残ってるよ」


「確かに。だいぶ平均点も下がるぞ今回は」


不安そうに話す天滝に青葉も同意している。そこで相良がぽん、と手を叩いて提案する。


「まぁ、私はこの土日いつでも暇だからな。勉強の事ならいつでも電話したまえ」


「うーん、ただ私がわからないの数学のグラフとか使うやつなんですよねぇ…」


相良の提案に天滝は残念そうに返す。確かに図を使うようなものは電話だと教えづらいところがあるだろう。少しうつむく天滝だが、顔を上げて上月の方を向き、笑顔で提案する。


「風馬の家に泊まりに行ってもいいかな? 風馬の家で勉強会の続きやりたい!」


「は?」


天滝のあまりに唐突な提案に上月は言葉を返せない。小さい頃は確かに上月の家に泊まりに来る事が何回かあったが、小学生半ば辺りからそんな事はしていない。


「良いじゃないか。その方が手っ取り早いし、確かこの中だと上月が1番数学得意だったはずだろう?」


「いや、確かにそうですけど…」


「私も賛成! あ、でもうちは親が厳しいから私は行けないけど」


相良と青葉もなぜか賛成している。どうやら拒否権は無いらしい。今日の帰宅してからの予定は部屋の片付けに決定した。



 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


夜9時。落ち着かない気持ちで部屋でうろうろしていると、本当にインターホンが鳴る。親には既に天滝が泊まりに来る事は言ってある。小さい頃からの幼なじみだからか、親は歓迎ムードである。そんな親がいるリビングを通り過ぎ、玄関のドアを開けるとジャージ姿の天滝が「おじゃましまーす」と小声で言いながら中に入ってくる。学校の鞄と一緒に何やら大きいリュックを背負っている。

ちらりとリビングの方を向くが、親が出てくる気配はない。茶々を入れるつもりは無いらしい。こちらとしても変な空気にされるのも困るので非常に助かる。


「久しぶりに来たけど全然変わらないなぁ」


「先上がっといてくれ。飲み物持ってくる」


感想を述べる天滝を先に二階の上月の部屋に向かわせる。小さい頃何度も遊びに来てたんだし流石に部屋の位置ぐらい覚えているだろう。リビングから親がからかってくるのを無視しながらコップを2つ用意し、お茶を注いですぐに上月も二階に向かう。自分の部屋の扉を開けると、既に天滝は机の前で座って教材を机に広げていた。が、机の近くの床にはポテトチップス、クッキーの箱、トランプ、ぬいぐるみなどが散乱している。


「な、なんだこれ…」


思わず両手に持ってるコップを取り落としそうになる。そうなる前にとりあえず机にコップを置いて一言。これは勉強会であって遊びでは無い、とまで堅苦しい性格では無いが、ここまで遊ぶ気満々だと呆れてしまいそうである。だが、それを見てどこか変に緊張していた上月の緊張が解れたのもまた事実である。


「大丈夫、ちゃんと勉強はするよ」


ほんとかよ、と心の中で疑いつつ、上月は自分の学校の鞄から数学のノートと教科書を取り出す。相良が言っていたが、確かに上月は数学が得意だが逆に国語が苦手だ。漢字が難しいとかでは無く、ただ1つの正解、というものが無いような問題が苦手だ。数学なら大体の場合答えは1つなのだが、正解が曖昧な国語は苦手意識が高い。


「確かグラフの問題だっけな」


「そう、関数? を使うやつだね」


こうして勉強会が始まる。分からないと言っていた天滝だが飲み込みは早く、10分もかからずに分からない部分が全て解決する。すぐに立場は逆転し、今度は天滝が教える番となる。


「うーん、いざ教えるってなったら難しいね」


「…まぁ確かに。主人公の感情とか読み取れって言われても明確にその方法があるわけじゃ無いんだよなぁ」


人の気持ちを読み取る。木山ならこういう問題は得意なのだろうな、と初めて木山を羨む。明確な解き方が無い以上、教える側の天滝もかなり難しいものがあるのだろう。ならばこれ以上考えても無駄だ。そもそも考えるより感じろ、読み取れ、みたいな問題は感覚の問題なのだ。言うなれば絶対音感を人に教えるみたいな。そんな無理な事続けても無駄である。


「…とりあえず休憩にしよう。そもそもこれは人に教わる問題じゃ無い気がするし」


「そうだね。私も少し教え方考えてみるね」


かれこれ30分ほど教えてもらっていたが、結局曖昧なものは曖昧だ。完全に理解するのは半分諦めてペンを置いて顔を上げると、こちらを見ていたのか天滝と目が合う。3秒ほどそのまま固まるが、ハッと我に返って目を逸らす。


「何見てんだよ。てかめっちゃ見てんじゃん」


「ご、ごめん…」


なんだこの時間は。やはり小さい頃とは勝手が違う。天滝にも何か思うところはあるらしく、誤魔化すようにリュックを開いてガサゴソと中身を漁る。そしてグミが入った袋を出してそれを開けながら話しかけてくる。


「…風馬は、曖昧なのは嫌いなの?」


休憩にしようと言ったのに勉強の話だ。そんなに勉強熱心だったか? と記憶を辿りながら上月は答える。


「嫌いって言うよりは苦手かな。中途半端な答えを出し続けても、ちゃんとした答えを出さないともやもやする、みたいな。例えば…」


そう話す上月の言葉が既に曖昧である事はとりあえず置いておく。中途半端な答え。例えを出そうとして言葉が詰まる。木山の事が頭をよぎったのだ。木山の出した答え、互いに好きなのは分かっているけどそれを放置し続ける。だがそれは明確な目的があってこそ中途半端が最善だと判断してのことなのだ。ならば俺はどうなのだ。俺は天滝が…。


「風馬、大丈夫?」


「ん、あ、ああ、大丈夫大丈夫」


天滝の言葉に再び我に返る。自分は今何を考えていたのだろうか。木山と話した影響かいつもと比べて思考がおかしな方向に行ってしまう。


「あはは、まだ少ししか勉強してないのに風馬疲れちゃったのかな? そんな風馬のためなら休憩時間伸ばしてあげても良いんだよ?」


天滝が笑いながらリュックから取り出したのはトランプカードだ。もはや遊びたいだけじゃないか、と言ってもどのみち勉強は捗らなそうなので、素直にゲームに興じることにする。案外素直に乗ってくる上月に驚いたのか一瞬意外そうな顔をする天滝だが、すぐに笑顔に戻ってトランプカードをシャッフルし、机の教材を全て地面に置き、トランプカードを広げる。神経衰弱でもやろうとしているのだろうか。


「お前神経衰弱で俺に勝ったことないだろ」


「それはもう子供の頃の話だよ。もう風馬には負けないよ」


「ほう、ならかかってこい。ハンデとして先攻後攻は選ばせてやる」


「じゃ、私から行くよ」



 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


久しぶりにやる神経衰弱は案外楽しく、気付けば夜11時近くになっていた。ここまで5戦ほどやったが全て上月が勝利している。


「次も負ける気はないからな」


「うん…、それにしても…、風馬…、強いね…」


調子に乗る上月だが、天滝は今にも寝てしまいそうな雰囲気である。カードをシャッフルする手を止めて10秒ほど声をかけずに止まっていると、すぐに天滝は机に突っ伏して寝てしまう。


「そんなに眠かったなら言ってくれよ…」


睡魔と戦う相手に勝って調子に乗っていた自分が恥ずかしい。とりあえずトランプを箱にしまって天滝のリュックに入れておき、タンスから毛布を取り出す。本当は天滝をベッドに運んであげるのが良いのだろうが、上月にそんな力は無い。


「さすがに毛布は暑いか?」


毛布を触りながら呟く。クーラーがかかっているとはいえもう夏だ。毛布をしまい込み、次に手に取ったのは自分の上着。だがこれもすぐに元どおりに片付ける。寝ちゃった女の子に上着かけてあげるってもはやあからさま過ぎて引かれてしまう。


「…仕方ないか」


諦めて自分のベッドに放置してある薄い掛け布団を持ち上げ、天滝にかけてやる。今夜ぐらいは別に布団無しでも大丈夫だろう。念のためにクーラーの設定温度を少し上げ、部屋の電気を消して就寝する。しばらく上月が眠りにつけなかったのは言うまでも無い。

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