華麗なる三人
ついに第二部が始まったぜ!やふぅうう!
「行くぞ猫男!うぉおおおおお!スキル…投石!投石!投石!当たった!」
「でかした正男!うぉおお!スキル…猫パンチ!」
あれから半年、俺と猫兄妹は村を出ていた。
冒険者ギルドに所属し…冒険をしながら様々な魔物と戦った物さ…、今は素早く飛び回る恐ろしいモンスター。
フライングポテト(空飛ぶジャガイモ)と戦っている所だ。
「ふぅ…ふぅ…これで5匹…まだ…いけるか?」
「あ…あヴ…カハッ!…む…無理だ…カウンターで良いの貰っちまったぜ」
いうてジャガイモだが、その飛び回る速度は120キロを超える…猫パンチをすり抜け、顎に喰らってしまった猫男は脳を揺らされて地面に倒れた。
そうさ…討伐依頼が出る程度には危険な生き物、駆け出し冒険者の俺達にはまだ…荷が重いのかもしれない。
「まったく…情けないわね、二人とも。」
「猫子ちゃん!」
どういう事だ!今日の作戦は、俺と猫男でフライングポテトを…猫子ちゃんは一人でフライングサーベルタイガーと戦ってたはず!
「やれやれ…全然倒せてないじゃない?あと10…20匹ぐらい?…もう!」
猫子ちゃんは疲れた様子でため息を吐いた…そうして…うなだれるように体を前に倒し…
シュパパパパパパ!
風のように走り抜け、両手に装備したカギ爪装備<猫の手>を振るい…フライングポテトの羽を切り飛ばした。
瞬きの間に3匹…5匹…あっ残りが逃げて行く…
「スキル…猫邪羅死!」
すごい!結局一匹も、逃さなかった!…っと、今日の仕事はこれで終わりだ!あっ俺と猫男が拾うからよいよ、うん。お疲れさまでした猫子さん!
「フッさすが俺の妹だぜ、才能は俺と同格か」
「お前との血のつながりを疑うよ、いやマジで…あとお前の籠、中身ちょっと少なくない?」
◆ ◇ ◆ ◇
「いや~、華麗冒険団の方々には感謝が絶えないよ」
ここは俺達が所属している冒険者ギルド兼、居酒屋だ。
俺達三人の活躍は駆け出しにしては上々…全5段階の下から2番目だ。なんだっけ…えー、うん…研修を終えて独り立ちした新入の社員ぐらいの感じだ、多分。
だが…ギルド長の俺達の依頼に対する姿勢は好評価!今回の依頼も、フライングポテトとタイガーを…追い払うとか、ちょっと数を減らす程度の話だったが…
「いや~、まさか全滅させてくれるとはね。うん…それに…旨い!」
満足気なギルド長…居酒屋の大将みたいな感じのおっさんは油で揚げ、軽く塩をふったポテトを食べていた。
「まったく、感謝が絶えない…仕事ぶりもそうだが普通いないよ?冒険に憧れる荒くれものの仕事だからさ…こんな…店の手伝いまでしてくれて。あ、鍋は洗わないでね、油取れると肉焦げ付くんだよ」
正男は皿洗いを片付けていた、こうした事の積み重ねが後から色々効いてくる、知人の居ない異世界なのだから正男はよけい貪欲に好感度稼ぎに性を出す。
「ハハハ、良いって事ですよ大将…あっギルド長!こんな駆け出しの俺達に仕事を回して下さってるんですし当然です!」
一方で相方猫男は気楽なもんだった。
「そうだぜ大将!じゃぁ…エールを一杯もらおうかな!」
「お前も皿洗えよ!」
俺達が何故冒険者になったのか、話せば長くなるが…聞けばきっと、この状況にもなっとくして頂けるはずだ。
…そう全てはカレーの為だ。
カレーの再現に熱を燃やした猫子はしばらくは村で研究を重ねたが、一つの結論に至ったのだ。
「村で取れるワサビじゃ…カレーを作れない!」
俺達はカレーの材料を求めて村を出たのさ、そして冒険者となり…俺の知識にある、カレーの材料に近い何かを探している。
俺と猫男は当初はすごくやる気に満ちていたのだが、基本痛いのは怖いし…おっかなびっくりしてるので、レベルとか全然上がらなかった。
…いや、レベルって概念があるのか解らないが…うん、スキルも俺がそれっぽい事叫んでたら二人が気に入って使い始めた感じだし。
「はい、レッドポテト出来たわよ」
厨房から猫子が、赤く辛そうなフライドポテトを持ってくる。これは冒険で見つけた辛いスパイス、レッドポイズンきのこの粉をまぶしたようだ。
「おいしい!これは辛くておいしいよ!」
「うん…でも、カレーじゃないわ」
意外だったのが猫子ちゃんだ、彼女は駄目な男二人と違い。謎の情熱で戦いまくり、レベルを上げた。
最初は俺達の後ろで補助をしてくれていたのだが。俺達の打ち漏らしたモンスターをフライパンでぶん殴る内に立場が逆転していった…まぁ、9割は打ち漏らしてたからな。
気が付けば一人でフライング=サーベルタイガーを倒せるほどの実力に達し、更に冒険から戻ればギルドの厨房を借りて料理研究に精を出す。
多分だけど、格闘料理人とか…うん、そんなジョブ取得してるんじゃないかな彼女…ステータスとか見れないから解らんけど。
「見える…見えるぞお前の料理の仕方が!!」
確かにそれっぽい台詞をモンスターに言ってた気がする。
まぁ兎に角だ。俺は彼女が台所を借りる代わりに、ちょちょっと皿洗ったり…大将…コホン、ギルド長と雑談をして日々を過ごす。
「なぁ…また新しい情報が入ったんだ。西の大陸で戦争が始まるらしいぜ、トマ王国とブンブンが川を挟んでドンパチだとゆ」
「ほーん、まじか…やだなぁそういうの」
元の世界だとテレビ越しに見て感じてた話だが、アレは物理的な距離は勿論。人権とか色々守られた…平和ボケの世界だったからこその対岸の火事、安心感だ。
この世界は文明レベルが中世だし…どうにも嫌な予感がする。地理もわからんし巻き込まれるかは解らないが…徴兵制とかあるのかな?
「じゃぁ…西は怖いし、次は東に行くか?」
「東かぁ…米も久々に食べたいしなぁ…賛成!」
猫族のまんま村も東の方で、米食文化だった。俺も米食日本生まれだから猫男の気持ちはとてもわかる。
「まってよお兄ちゃん…意味の無い移動はするべきではないわ、早くしないと…えぇ、一刻も早くカレーを再現しなければならないのよ?」
レッドポテトを摘まみながら、猫子は少しうなだれた様子でそう言った。
赤い粉に塗れた指先を舐め、辛さで火照った頬が赤くエロい…好き。
「前から気になってたんだが、嬢ちゃん達は料理の為に冒険者になったんだよな?珍しいぜホント」
…うん、まぁそうだろう。俺もなかなかそんな話…前の世界でも見なかったな、探せばそんな漫画ありそうなもんだが。あ…美食屋か。マジか…俺達未来の美食四天王か…三人だけど。
「えぇ、再現したい料理があるんです…こう…辛くて、色々な香辛料を使うらしいのですが…詳しくは…」
この半年、色々探し回ったが進展はな…無くはないな。レッドポテトもそうだし、食べるラー油も作れたし…うん。しかしカレーにはまだ遠い。
俺が故郷の無い異世界人だと打ち明けた時…猫男はきょとんとしてたが、猫子ちゃんは衝撃を受けていた…材料が異世界の物では…そもそも再現が出来るか怪しいと!
…うん、少しは異世界人って方に驚いて欲しかったが、うん…まぁ、彼女も猫男の妹なのだ…うん。
「香辛料か…じゃぁよ、王都か…港街とか言ってみたらどうだ?交易の盛んな場所なら動かんでも世界中の食材見れるんじゃねぇかな?」
「お兄ちゃん!正男さん!…荷物をまとめて!いくわよぉおおおおお!港町!」
「「「マジかよ!」」」
こうして…俺達は冒険を続ける。
「嬢ちゃん達、その料理が出来たら俺にも食わせてくれよ!あと、レッドポテトのレシピありがとな!」
俺達は最後にいっぱい、別れの酒を大将と呑み、号泣しながら店を出た。
「もうやだぁあ…歩きたくないぃい…ニートになりたぃいい!」
「もう!お兄ちゃん…キリキリ歩く!」
ぐずる猫男の尻を猫子が思いっきり蹴り上げる…いいなぁ、俺も蹴られたい。
こうして…俺達は冒険を続ける。