カレーと出会った猫娘
第一のカレー…解…放!
「きゃぁあああああああああああ!」
「だ…大丈夫か猫子ぉおおおおおおおお!」
正男がカレーを振る舞っている最中に事件は起こった、あぁ…なんという事だ、猫子ちゃんが倒れたのだ!
「ッハ!?そうか…玉ねぎ!!」
犬に玉ねぎをあげると死ぬと聞いた事がある、玉ねぎに含まれる何とかという成分が、血液中のヘモグロビンをてんやわんやで融解するという恐ろしい話だった…え?猫も駄目か!えっえっ…えぇぇえ!?
「ごめん猫男、お…俺の故郷の料理…どうしよう!そうだ吐かせないと!水!水を大量に飲ませて腹パンして…あばばばば!」
全裸で一人、山中に来た時も冷静を保てたが…流石にコレは…俺の精神も頭も限界だ…自分で自分がテンパってるのが解るが、何が間違えてるか解らない…あぁ、そうだ…水!飲み物!…あっカレーは飲み物だからこれを飲ませて吐かせれば…あれ?
「コッフゥ!」
「ね…猫子…大丈夫か!うぁああん!心配したぞ!?」
「ね…猫子ちゃん…とにかく…カレーを飲んで、吐いて…あれ?なんか俺変な事言ってる!?」
倒れた猫子ちゃんが目を醒まして、なんとか一同は安心した。
村の皆さんご心配をおかけしました、あ…バンドの方々は続きを…あっそうだ、カレーって料理もあるんで終わったら是非…っは!?違ぁあう!
「皆さん!カレーは食べないで!あっぶねぇえええ!!」
猫子ちゃんが倒れた理由がカレーにあるなら…危ないところだった、なんだコレ…やっぱ俺が死んだのカレーのせいなんじゃないか?カレーこっわ!
俺は事情を説明し、村の…今は女性と子供が食事をしている時だったが…せっかく人気を博していたカレーを取り下げた…。
泣きじゃくる子供は可哀そうだが…ちょっとこれは俺が一人で食べるしかなさそうだ。
「お…お兄ちゃん…か…カレーを…」
「カレー?カレーってなんだ?魚か?…潰れ魚のカレイか?」
「猫男…カレーってコレだよ、俺の故郷の料理で…これを食べて猫子ちゃんは倒れ…」
俺が猫男に再度の説明をしていた時だった。
「カレェエエエエエエエエエエエエエエ!」
倒れていた猫子ちゃんは物凄い勢いで俺の抱えた鍋を奪った。まだまだ10皿分は有ろうと言うカレーを、まさか本当に飲み物みたいにグビグビと…
「おひしひ…おひしひです…ウフフフフ」
「え?マジで…猫子…ちょっ一口…え?痛い!爪はやめ…痛い!」
「…!?????」
結局だが、猫子ちゃんはカレーの余りのおいしさに失神してしまったらしい。うん…そんな事あるんだ、異世界転移と同じぐらいにレアな経験だと思うよソレ。
ともかく、体は無事だった猫子ちゃんは…泣きながら指をくわえる子供達を尻目に…まだ相当量あったカレーを一人で飲み干した。
普段は大人しい、しっかり者のイメージな娘であるだけに…豹変した時はどうにも…うん、解らん!対応が解らん!お兄ちゃんが血の海に沈んで痙攣しているが、あっちのがガチでヤバいかもしれん!
「プハァ…おいしかったぁ~」
こうして、異世界初の祭りの思い出は…カレーに全てを持っていかれた。
◆ ◇ ◆ ◇
「昨日はすいませんでしたぁあ!」
翌日猫子ちゃんは土下座で俺の前にいた。
「いや…よ…喜んで貰えたならよかったよ…ハハハ、お…美味しかった?」
ジュルリ…
土下座で見えない猫子ちゃんの顔の辺りから…なんか漫画みたいな音が聞こえた。
「す…素晴らしい味でした、最高の味でした!うぅ…あんな素晴らしい料理がこの世にあるなんて!うぅ…」
生まれてこの方…山中で、質素な料理を食べ続けて来たのだろう。
異世界物では甘い物を初めて食べて女の子が泣いて喜ぶとか良くあるけど…うん、カレーも相当に凄いみたいだ。
ありがとうインド人、ありがとう友人。
「ま…また近々食べようか?あと二回分は持ってるんだ。」
「に…二回分!?」
土下座状態から、残像が見える速度で猫子ちゃんは顔を上げ…俺の真ん前に近づいていた、近い。唇おいしそう。
「あ…あぁ、俺が最初に持ってた銀の袋あるだろ?あれの中身がカレーなんだ。だからあと二袋ある…お世話になったし、ここを出る時二つともあげるよ」
「…なっ!?」
猫子ちゃんは目を見開いた。漫画の猫娘系統がそうであるように…驚くように大きな目、そしてその瞳の中にある、縦の瞳孔が…今はまだ明るいのに…驚きの余り開いている。
しかし、その驚きの表情は一瞬だった…猫子ちゃんはいつもの、しっかり者の顔に戻って残念ながら元の場所に離れていった。
「あと2回…、正男様…質問ですが、正男様はカレーを1から作る事は?」
「様!?で…出来ないよ?あー友人が作ってる所は見てたけど、その程度で…」
…いきなり、様を付けていらっしゃった。何?何かイベントスイッチ入ったのコレ?
「なるほど…では、謹んでお願いがございます。」
「え?な…何?」
「その2回…ぐぬぅう…は要り…う…うぅふぅ…は要りません。ので…、私のカレー作りに協力して頂きたいのです。」
「………。」
人は驚きを越えると言葉を失う、目の前の娘はなーにを言っておるのやら。
しかし、目はガチだ…オーラも…昨日までの村娘モードから、なんか戦場に赴く剣士みたいな何かに変わっている。逆らってはいけない…
「わ…わかった!」
こうして、一つ目のカレーは…俺と猫兄妹の未来を大きく変えるきっかけとなったのだ。