正男はドヤ顔でカレーを語る
やっと出るよカレー!
楽しかった!食事以外は!
素晴らしい祭りだった!…食事以外ふぁ!!
「ふぉなっほい!」
※粉っぽい!
収穫前の最後の祭りと言う事で、出てくる料理は賞味期限ぎりぎりの…なんとかこの日まで村人達を支えた保存食の数々…その一挙出しという感じだった。
…つまり量が多いいつもの食事プラス酒だ。
お祭り=美味しい物が食べ放題だと思ったら…そうは問屋が卸さなかった。
と言っても、がっかりしているのは勝手に期待していた正男だけで、村人達は十分に飲み食い含めて楽しんでいる。
「うっひょー、このカピカピに乾いた干物が!少し炙ると酒によく合う!」
猫男は速攻でへべれけだった。ちゃっかり正男の取ったウシガエルの足を…確かにこの粉物、乾き物ばかりの中では…カエルと言ってもジューシーな獲物、ご馳走と言えるっちゃ言えるかもしれない…を、齧っている。
「やれやれ…、お酒も…うーん、作り方聞くと飲む気しないし…はぁ…猫子ちゃんの口噛み酒飲みたい…」
※人が米噛んで吐いて、発酵させた酒…この村では長老がやってるらしい。臭い。
さぁさ!
満月の下に焚火を焚いて、男は飲んで、女は踊る
女が食うときゃ 男が歌う
交代交代の祭りの宴だ
猫子ちゃんの揺れる尻尾とお尻を眺めていると、猫男達男衆が席を立った…
「お?そろそろ交代か?」
「まぁ、そうさ…この人の為に練習した、俺達の美声を聞かせてやるぜ?」
男と女で場所替わり、正男は客人と言う事で…そのまま食事の席に座り続け、猫男の歌を地味に楽しみにしながら粉っぽい煎餅を齧っていた。
「まっず」
「あ~!お兄ちゃん牛カエル食べちゃったの!?もぉお!」
ワイワイ盛り上がる、祭りの中で…猫子は可愛く怒っていた。
踊りを終えて戻っていれば…一番のご馳走が空っぽだ。
「もう…こうなったらザリガニはこの回で食べちゃいましょう!あっ正男さん楽しんでます?」
「あぁ…うん!楽しいよ!わっしょい!」
ターン!トトトトダダダダ!
♪
にゃーにゃーにゃにゃにゃにゃ!
「猫は最強!」(猫は最強!)
にゃーにゃーにゃにゃにゃにゃ!
「猫は可愛い!」(猫は可愛い!)
にゃー 「猫は!」(猫は!)
にゃー 「猫は!」(猫は!)
にゃー 「猫は!」(猫は!)
…タンダダ!
素早く飛び跳ね、闇を見極め、鋭い爪にて鼠を捉え
しなやかな四肢で自由に生きる にゃーにゃー
ヤーヤー!にゃーにゃーヤーヤー!
「なんか予想と違う曲歌い出した!」
「えぇ…男達はバカなので、祭りの趣旨を理解していないんです。」
太鼓に笛に、弦楽器に…変態チックな爪裁きでギター的な何かを弾く虎柄のメイクをした猫の若者たちと、頭と尻尾を振るおっさん達。
ロックだった…なにこれ…好き。
「まったく…お兄ちゃんも、村の男達も頭おかしいですよ。本当に不快な歌」
「そ…そうだよね、う…うん」
危なかった。ヘッドバンキングをしてしまう所だった。
※首がもげるほど頭を振る、ロック特有のアレ
さてさて…そんな楽しい祭りの最中に、それは起こった。
事の始まりは、正男が持ち込んだカレーだった。
…そう、完全に忘れていた設定だが。正男は飲食の友人から押し付けられた大量のカレーを食べてるうちに異世界転移したおっさんだったのだ。
転移した時には服の代わりにカレーを持っていた。
業務用に2kgの袋に入ったカレーを、三袋だ。
歌と踊りは楽しんだが…酒は飲めないし…(飲みたいが
飯はマズイ…そもそも、転移してから延々と保存食を齧る日々だったのだ…期待したお祭りの日ぐらい何か食べたい!
「ギリギリ行けそうだったカエルはもうない…ザリガニも…うぅ…あとはバッタの盛り合わせ…む…無理だ!」
正男は祭りの最中に猫男宅に一回帰り…記憶から封印していたそれを持ち出したのだ。
「まさかお前を求める日が来ようとはな…カレーよ」
死ぬほど食った味だった、もう一生分食べたと思った食べ物だった。
もう食べたくない…なにか…他に何かないかと…思いながらの転移だった…が
「うっひょぉおおおお!うめぇええええ!」
久々に食べたカレーはめちゃくちゃ旨かった。いや…うん、相対的にだ。そんなもんだ…冷静に考えるとやっぱ友人のカレーはトマト主張しすぎてマズイのだが、イタリアン?知るか…普通のカレーが良いわ!…が、まぁ良い。
保存食より100倍旨い。
「密封されてたのもあるけど、さすがカレー!腐ってなくてよかったぁ~」
謎の袋を鍋で温め、ドロドロした匂い物体を深皿に入れ…非常食を付けながら感激している正男。…それは当然、村人の注目を集めてしまう。
「え?みんな食べる?いーよいーよ、2kgはさすがに食べきれないしさ…こうやって…、非常食にかけたり付けると美味しいよぉ」
数少ない…異世界人としてのドヤ顔が出来るチャンスなのだ、正男はおもいっきりドヤ顔しながら村人達にカレーを勧めた。
「物凄く沢山の香辛料を使った食べ物なんだ!野菜とか肉、小麦とかが入ってて体にも良いし…そうそう、うん、う〇こじゃないよ?」
まさか…
あぁまさかだ…
気軽に出したカレーが、あんな事に発展しようとは!
この時、正男は知る由もなかった…これが、異世界カレー成り上がり物語、その最初の一歩になるという事を!