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異世界カレー列伝~カレーを持って異世界転移~  作者: 前歯隼三
益荒男フンドシ団編
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ウッドキル団長の憂鬱

一方その頃サカナールでは編

 サカナールはドーナッツ国でも有数の港を持った大きな街だ、普通は王から貸し出される正騎士団により各地の法と安全は守られるのだが、サカナールはサカナール侯爵の元「益荒男フンドシ団」なる自衛の騎士団が権力を持ち、古くからこの街を守って来た。

 権力の二体制…今でこそドーナッツ国の一都市に過ぎない扱いであるが、昔は周辺の漁村や大河の河口まで含めてサカナール王国という国であったのだ、つまりフンドシ団の存在はサカナールの歴史上、王国時代から続く住民達の誇りであり…王国からすれば忌々しい存在であったわけだ。力ずくで無くそうとすれば、それはこの地の民の反感を買う。港とは外界への玄関口だ…そんな場所で何かがあれば巻き起こる損害は考える事すら馬鹿らしい。


 …そして国王はついに搦手を使った。


 近年…フンドシ団の実力を認めたと“表向き”は発表して、国の正騎士団は引き上げたのだ。

 懐古派と右派は喜んだが、実質…治安維持に割いていた人員の不足と、長い長い統治時代の間に縮小したフンドシ団の組織体制の数々の問題が浮かび上がり…かくして…犯罪都市サカナールと呼ばれる、暗黒の時代を迎える事となる。

 国王はここでサカナールが泣きついて来ると思っていた、大義名分にて正騎士団を導入、フンドシ団を解体!フハハハ!守ってやるぞサカナールの民達よ!ただし税金は割増だああ!


 そんな時、この街と…つまりはフンドシ団を救ったのが、前々団長…現、金のフンドシを腰に纏う、七隊長の一人サエワタールだ。

 今でこそ痩せた半裸の老人であるが、全盛期の彼は凄かった。

 ドーナッツ国の王族…その分家として蔑まれ、地方に飛ばされて来た彼は、サカナール侯爵の推薦にてフンドシ団に入り、壮絶なイジメを経験する。鍛えても鍛えても筋肉は付かず…剣は振るえず、しかし…それすらも問題にならないような頭の切れと、組織運営の才を見せたのだ。

 フンドシ団がピンチを迎えた暗黒の時代…ついに彼は団長の座を手に入れて、新体制の元…見事に組織を復活させた。


 彼が行った改革の一つが、守備区画の整備と7隊長の元統治された…徹底的なシフト制の勤務、安心の職場環境…そして集まり出した求職志望者を一気に引き入れての組織拡大。


 フンドシ団はサカナールの街を「中心部の街」と、「港」、そして「背面の山々」の三つの区画に分けて警備をする事となった。

 街の警備に白と黒、そして金の隊長を置き、港には青と赤の隊長を山には黄と緑の隊長だ。


 …しかし、金のフンドシ=サエワタールの活躍もここまでだった、年だ。

 彼は団長を、当時もっとも団員達から人気があった美人で強い兎獣人、白いふんどしのカリーに譲り、自分は一隊長として日々の業務と後進の育成に努めていた。

 …彼が最も期待したのが、黒いフンドシのウッドキル…若く見えて結構年の行ったヴァンパイアだ。彼は長い半生を世界の流浪に費やして…疲れ果て…定職を求めて団員入りを果たしていた。

 サエワタールはウッドキルを自身の担当する「中心街」に詰めさせて、アホな団長…カリーの補佐として経験を重ねさせてきた。

 トラブル連発のカリーの補佐ほど、経験が積める場所はあるまい…それは予想どおり…どころか予想を超えてのまさかの団長土下座失禁事件。

 まぁ、…今回の騒動がなくても、結局はいつかは…彼が団長にはなっていたのだ。


「…って事だからたのんだぞい新団長!ホッホッホ!」


「それは無いですよサエワタールさん!俺はえぇ…そこそこ稼いで生活できればいいかなぁって…そんな感じで入隊した人間ですよ!?」


「まぁまぁそういうな、今の団にはお主ほどの適任はおらんし…、知っとるだろ?西の国々で戦争が始まり…年が明けても終わる様子は一切ない、これからの怒涛の時代からこの街を守るならばそれこそだ、お主の長い人生の経験が生きるじゃろうて!」


「ぅぅ…辞めて下さいよ!やる気出るどころかゴリゴリすり減ってゆきますからね…、ハーゲルさんはどうです?…あっ駄目だ、あのおっさん筋肉だけだ。えーっと…ブヨン…も駄目だクソ!ろくな奴らいねぇええええ!」


 サエワタールの改革で、人員は大幅に増えた物の…まぁ、集まる物は冒険者とどっこいの脳筋達がほとんどで、筋肉より知を尊ぶタイプは体育会系のノリについて行けずに退職が絶えない。


「まぁ…そういう事じゃよ、ッホッホッホ…良かった良かった、たまたま偶然、い~いタイミングでカリーが団長を辞任したんじゃ…いやぁ、これも神様のおぼしめしじゃて。」


「あぁ…止めてくれよ、ヴァンパイアに神様を出すんじゃねーぜ…って…んん?」


 サエワタールの上機嫌っぷりが癇に障るが、それにしてもそうだ…この老人からしたら…驚くほどうまく、間に合わせの団長が退陣してくれた事になる。…これはひょっとすると神じゃなく…


「じいさん、…今回の事件、あんたが仕込んだわけじゃないだろうな?」


 やりかねない…この老人は、ドーナッツ国の王家の血筋にして…サカナール1の切れ者なのだ。


「これこれ…階級はおぬしと同じだが、わしは前々団長にしてお主の師匠でもあるんじゃぞ?それに年齢ならお主の方がずっと上じゃろ?」


「あー、あー…くそう、まぁいいや…んで、本題だ、今日の相談だ。」


 ウッドキルは紙束とノートを机に広げる…

 守備3地区の配置ポスト数と、隊員のリストがずらりと並ぶ…


「カリーのアホが抜けたのは良いけどよ、あの日詰所に居た奴らが退院しても戻ってこないんだ…ヤバいってこれ…うん、無理言ってベテラン勢連勤させてるけど、もうヤバいって…」


「はっはっはっはっはっは」


「笑うなよ!本気で困ってるんだよ!…冒険者ギルドへの派遣要請も、国への正騎士要請ももうしたからな!…2つとも返事は“西方情勢の不安定にそなえ、そちらに回す余裕は無し”ってな内容だ!」


「あーっはっはっは!」


「あー!お前解ってたな!笑って誤魔化すなよこの糞ジジィがぁあああ!!」


 サエワタールの予見した通り、戦争の影響が…じわりじわりと見えて来ていた。

 …とんでもない時に、とんでも無い昇進を果たしてしまったと…新団長、黒いフンドシのブラクラック=ウッドキルは頭を抱える。


「神様居るなら助けてくれよ!神でも藁でも猫の手でなんでもいいよもう!」


 ヴァンパイアのジョークに更に笑いを上げる老人は、定時が訪れたので帰って行った。

 がんばれ…頑張るんだウッドキル!

 遠くの地では、カリー前団長も頑張ってるぞ!

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