表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界カレー列伝~カレーを持って異世界転移~  作者: 前歯隼三
サカナールのカレー屋編
13/249

サカナール港カレーライブ

君は予想できるか?俺は予想出来ない!

エビジャナーイとかいう海賊シャコは、猫男の<スキル=覚醒猫パンチ>の前に倒れた。


「うわぁああああん!」


 わー わー わー


 ヒビの入った頬を押さえ、泣きながら帰るエビジャナーイ、港は猫男の勝利に沸き上がった。


「すげぇよ!あんたなんてパンチ力!なんて鍛え上げられた上腕筋!」

「フフン!当然ですわ!猫男様は常日頃から…戦いに備える真の戦士!」

「こわかたー!」

「んもう!よーしよしよしぃ~!猫男様ったら甘えん坊さんですわね!」


 元々戦闘にトラウマを持っていた猫男は、あのウシガエル戦から精神が完全にイカレてしまった。戦場帰りが患うというパニック症だ。彼はあれから一年もの間、片時も盾を地に着けず…震える腕で上げ続けてきたのだ。

 …そして、治まらず膨らみ続ける不安から心を守る為…盾もどんどん大きくなっていき、また木製から金属製へと素材を変えて重量を増し増し…腕の太さも増しに増し…


「結局、猫子ちゃんの兄なんだよなぁー、ちくしょう…俺を置いて強くなりやがって!」

「正男…そんな事言ってる場合じゃないわよ。くう…代金が!」


 束の間の勝利に喜んだ物の…港は半壊、漁協からの依頼という事になるのだが…支払いは…あっはい、猟師さんすいません、はい。…駄目だ、ちょっと声掛けれない。


「やっぱり冒険者ギルド通して貰いたいわよねぇ…こういう時お手上げよホント。あのエビやろう…」


 …実際にうちは損害が出てないから良いじゃないかと思うのだが、まぁタダ働きって事になるけど…そうだ。


「猫子ちゃん…カレー冷めちゃうし、漁協の皆さん大変そうだし…ね?カレーの炊き出しして帰ろうよ」


 正男の提案に猫子は眉を寄せ、小首を傾げる。


「ハァ?正男さん商売する気あんの?やっぱり冒険者やりたいの?」


「辞めてよ!もう嫌だよ!…でもどうせ売れないし、地球にはこんな商売の方法があるんだよ。…宣伝!試食!…誰も知らない新しい商品を作ったら…まずは知ってもらう事が大切なんだ。」


 必死に説明すると猫子の顔が更に不機嫌になってゆく…

まずい、ん〜やはり異世界のやり方は伝わらないか?…と思っていると「ハァ」っと猫子が脱力した。


「…確かに、カレー=毒物って認識が広がってるのは…マズイですからね…ぐぬぬ」


 猫子は正男の提案に揺れる…理屈は解るが無料で配るとか…ぐぬぬ、生まれてこの方山奥での貧乏暮らしをしてきた彼女には相当な覚悟がいるようだ。

 一方、正男は思い付きのこのアイディアを、説明しながら自分でどんどん気に入ってきた。

 これはなかなか良い逆転のチャンスではないか、沢山集まる人たちに…炊き出しの口実、そして注目を集める猫男と…新メンバー、人魚のルウちゃんの存在だ。


「ルウちゃん…猫男を愛しているかい?」

「ハイ店長!海より深く愛してますわ!」


「では一曲…お願いしたい!テーマは猫男の強さとカレーについてだ!」


 わー わー わー


 こうして、サカナールカレーライブが始まった。



   ◆    ◇    ◆    ◇



 サカナールの平和を預かる騎士団、益荒男フンドシ団団長…ムスメール=ボン=カリーは、海賊の港襲撃を知り直属の部下を連れて坂を駆け下りる。港に配属していた益荒男達は海賊一人に歯が立たず、水平線の彼方へ殴り飛ばされてしまったと聞く…これはマズイ。


「今日の波守は確か…青いフンドシのハーゲルだったな!彼が敗れたのか!?…海賊の名は!?」

「あっはい!名前はまだ…見た目は二足歩行のシャコだったと!」

「…ッ!シーチャンピオン…エビジャナーイか!!」


 虫族の国ブンブン出身のシャコ族の男だ、単身で気ままに動き…慎重に狡猾に、外洋の船や郊外の旅人を襲う為、今まで足取りが掴めずにいた…奴が何故…港の襲撃なんて愚かな暴挙に!?


「虫族め…我らを侮ったという事か!くそ!」

 …奴は強い!ハーゲルを倒した事で改めて証明されてしまったが、元々シャコ族は岩をも砕くパンチ力を有する種族、盾も鎧も紙切れのように穿ち砕くブンブン国海軍の主力なのである。…そしてエビジャナーイはそんな海軍を相手に不敗を誇り海賊として逃げ続けた。ボクシングという、突き技を主軸とした船上武術の達人であるのだ。


 ムスメール=ボン=カリーは、肩口まで伸びる髪と共に…同じ長さの耳を後ろへとなびかせて、<長耳族>の武器足る両の足に力を込める。


「私が行かねば誰も奴を止められまい!先に行くぞ!全力で付いて来い!」


 ビュゴォォオン!


 砲弾が空を切るような音が響く、そして団長カリーは部下を残して姿を消した!


「ちくしょう!さすが白いフンドシのカリーさんだ!」


 彼女は女だてらに、この脚力とカポエイラで騎士団長の座に上り詰めたアマゾネスであった。



……

…………わー わー わー  ボォガァアン!


 港の人々の平和を案じ、石畳に着弾したカリーは…状況が理解できず目を見開いた。

 大岩を持ち上げ、パンチで粉砕する猫獣人の男と歌う人魚、そして喝采を送る人々は…茶色いシチューとパンを頬張る。


「…か…海賊は?船は損害を受けているようだけど!だ…大丈夫ですか?そしてコレは?」

 カリーはテンパると早口になる。悪い癖だと思っているが…どうにもこの状況はテンパるしかない…色々意味が分からなすぎる!


 ♪

  やーやー

  逞しい筋肉のー 秘密はー カレー (カレー)

  

  辛くて美味しいシチューをモリモリ 筋肉モリモリー (モリモリー)


  野菜とお肉をたっぷり溶かし、燃え上がるようなスパイスを入れてーてー!

  

  夏バテなんて吹っ飛ばせ!(カレー)

  海賊だって吹っ飛ばせ!(カレー)

  悲しい気持ちも挫ける心も、美味しいカレーで燃え上がらせて(カレー)


  元気を出したら華麗に活躍、華麗なカレー店よろしくね!(カレー)


「…あ…あぁ?カレー?」

 なんて事だ…あまりに軽快なリズムで最後まで聞き入ってしまった。

 そして私、驚きすぎると早口じゃなくて言葉出なくなるんだな…うん


「あっカリー様!来てくださいましたか!」

「は…ハーゲル!無事だったか!」


 海の藻屑になったと聞いたハーゲルがシチュー…多分これがカレーだ、カレーを食べながら近づいてきた。


「何なんだコレは!」

「カレーです…旨いですぜコイツぁ!」

「ふぇ?…えっ…いや、状況だ!状況を説明しろ!海賊は…エビジャナーイ襲撃は誤報だったのか?私はお前が倒されたと聞いて全力でここまで!」


  …カラン

 ハーゲルは空になった皿を取り落とした。

「お…俺の為にそんな!結婚して下さい!」


 バキャァン!…ドボーン 

 ふんどし団最強の一撃がハーゲルを襲った。

 青いふんどしのハゲマッチョは白目を剥いてブクブクと海底に沈んでゆく…ふむ、やはり筋肉は浮かばぬようだ。


「ハーゲルは殉職した…私が間に合わなかったばっかりに…。」


 …まぁ、こんなお祭り騒ぎをしてるぐらいだ。海賊は誤報…いや、船の数隻は沈んでいる。確かに何かはあったのか…フム、いいぞ私…落ち着いてきた。

 む?…落ち着いて港を見渡すカリーは、猫獣人と人魚と…カレーを配る二人を見て思い出す。


「華麗なる冒険団!そうか!…猫子殿が海賊を!!」


 同じアマゾネスとして、一度騎士団に誘った彼女との再会…否、カレーとの出会いが…カリーの人生の大きな転機になろうとは、この時はまだ知る由もなかった。




第三章新キャラまとめ

ルウ…歌が上手い人魚、猫男ラブ

エビジャナーイ…ボクシングするシャコ海賊

ムスメール=ボン=カリー…白いフンドシのウサギ娘、カポエイラを使う益荒男フンドシ団団長

青いフンドシのハーゲル…殉職

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ