カレーを求めし者
いつもどうりはしょり飛ばそうと思ったら、案外面白い敵だったのでついつい…
サカナールの波止場にて…逞しく屈強な海のボクシングチャンピオン、海賊エビジャナーイが船を殴り壊している、港に停められた数々の船底に穴をあけ、帆をへし折り…華麗なるカレー店のポスターを破り踏みつける。
「ひぃい!恐ろしい怪物だ!」
エビジャナーイは海老ではなく、見た目は巨大な二足歩行のシャコである…キッモ!
文章なら良いが手の届く範囲に居たらちびりますよ?小説読んでるアンさん達、身長は2メートルぐらいですよキッモ!コッワ!マジキッモ!
「怪物じゃねぇよ!海賊だ!…これだから人族の町は不快だぜ!」
ウジャウジャと短い脚をうねらせて、二本の長い脚で仁王立ち、更に二本の巨大で凶悪な腕を組んで…あっ組もうとしてるけど上手く組めない!手がデカすぎるって大変なんですね!シャコさん!
エビジャナーイは、昆虫族の国ブンブンの海辺出身…亜人族であった。
普段は外洋に出た漁船を襲うなど…危険を冒さぬやり口で生活をする真っ当な海賊だ、当然賞金も掛っている。
…そんな海賊、賞金首が一人で港に?なんでだ?どうしてだ?一体…何が目的なんだ!
「俺はコレから船を壊し続ける…辞めて欲しければ“カレー”を持ってこい!」
…かくして、街の郊外の寂れた浜辺、そこに作られたカレー店に…謎の注文が入ったのである!
◆ ◇ ◆ ◇
「だーから急いでください!助けてくださぃいい!カレーを!カレーを!」
装備を整えて店を出ると、青ざめた少年がバタバタと手足を振っていた…元気だなぁー
「え?うん…今いくよ、ちょっと待ってて猫子ちゃんが爪取りに行ってるから。」
「武器ぃ…は有った方が確かに良いですけど…とにかく!カレーですよ!カレー!早く…早くみんなを助けないと!」
おかしい、会話が通じてない。
少年からルウちゃん、そして俺達への伝言ゲームで…何か致命的に間違えている。
「救援要請だよね?怪物出たんだよね?」
「そうですよ!だからカレーを出前して欲しいんです!」
「どゆこと!?戦場へ炊き出ししに行く感じ!?その要請?わ…わかった!」
そんなこんなをしていると、猫子ちゃんも外へ飛び出して来た。
両手にカギ爪、豊満な胸にはサラシを巻いて、軽い革製の鎧を纏う…懐かしい!下はジーンズ的なズボンなのでお尻のラインが見えて実によろしい、ゲヘヘ
「え?…討伐依頼じゃないの?出前?…えっでも武器は持って来て欲しい?」
「チィ…猫男様の雄姿が見たかったですわ!シュッシュッ!」
「ルーちゃん残念そうにしないでよ、喜んでよ客だよ!初めての!なぁ猫男?」
「いたいのやー!こわいのやー!よかたー!」
「いーから急いでぇええ!カレーを持ってかないと…船が壊されちゃぅうう!」
…なんだその客、どんだけカレーに飢えてるんだよ!
「と…とにかく!急ぎましょう…記念すべきお客様第一号!待たせるわけにはいかないわ!」
寸胴一杯のカレーを猫男の背中に装備して、俺は現地で温める為に火周りの道具と炭を担いだ。ルウちゃんはパンを、猫子は適当に食器と、おつり用の小銭入れとソロバンを持つ
ああ!屋台にしとけばよかった!あと台車ぐらい持ってないと駄目だな!
未経験の仕事、商売を始めると最初はこんなドタバタばかりさ、完璧に準備したつもりでも絶対に至らない点が見えてくる、でも…そんな時にお客さんの目線にたって、如何に柔軟に対応出来るか。それが成功と失敗の分かれ道だと思うんだ…とにかく!
「フー!フー!みんなぁ!現地についたらまず元気に挨拶だぞー!練習だぁ!せーの!」
…
……
…………ザザァ!
「「「「おまたせしましたー!」」」」
「来やがったかカレー!!」
「ああああああああ”船がぁあああああ!」
現地についたらスゴイ状況だった、まず白いエビ…じゃないか、シャコ?が仁王立ちで待っていた。
ブクブクと泡を吹きながら沈む船々と、同じように泡を吹いて倒れる漁師の皆さん…うん、え?このシャコが客?
「レンガ良し!炭良し!種火よし!…猫男鍋をここに!オーケー!」
「お待たせいたしましたー!すぐカレー温めますので、こちら猫コブ茶とパンです。席は…こちらで宜しいですか?」
「ハァ?えぇ?…あ…ありがとう、えぇ!?」
エビジャナーイは驚いた、こんなに人に優しくされたのは…多分初めてだったから、一瞬心がときめいた太陽を反射する水面のようにキラキラと…が、ウエイトレスな人魚=ルウの顔を見て正気に戻った。
「お前…あの時捕まえ損ねた人魚娘!っとカレー団!そうだった…復讐に来たんだった!」
出された猫コブ茶を飲んで怒鳴る!恨みの絶えない一団を睨む!シャコの眼力に恐れ慄け!
「え?なんだ…ルウちゃんの知り合いかぁ、どうする猫子ちゃん、ちょっと割引してあげる?」
「うーん安くは出来ないけど…そうねぇ、出張料金はまだ決めてなかったし、その分は取らないって事でどう?」
「いや…おま…お前ら俺覚えてないの!?」
うーん…4人はしばし考えた、そういえば…サカナールへ来る道中。浜辺で人魚を甲殻モンスターから助けた記憶がある…アレ~?アレ~?
「もしかして、甲殻モンスターの方ですか?」
失礼かもしれないが聞いてみた、何事も確認は大切だ。
するとエビジャナーイはプルプルと震え…
「俺はモンスターじゃない!!海賊だ!」
「あっ!すいません人違いでした!」
コトコトコト
「デキター!デキター!」
猫男が良いタイミングで声を上げたので、とりあえず一回距離を取る。
「やべーよ、思い出せないよあの人。とにかくカレー食べていただいて…お金貰って笑顔で帰ろう。うん…適当に話合わせるしかない!」
…そんな相談をしている内に、悲劇が起きた。待ってる客は怒り心頭、いつ爆発するか解らない火山のようなオーラを放つ…そこに!
「うぉおおお!よくも俺の船をぉおお!」
「フン!」
バキャァアアン!
「…っな!」
カレーが届くのが遅れ、船を沈められた漁師の一人がエビジャナーイに殴りかかり、そして返り討ちにあったのだ。
来る日も来る日も…荒波で鍛え上げられた益荒男の肉体が、水面を切り跳ねる小石のように飛んでいく。ドゥン…ドゥン…ザバァアン!
小石に比べれば重い音だ…人間はあんな風にふっ飛ぶんだな…まるで、魔獣ウシガエルに吹っ飛ばされた…猫男の姿を見るようだ。
ゾクリ
「あーあー切れちまったぜ、もう…全部沈めてやる、船も…人も…カレーもだ!!」
こうして…
新天地サカナールで、またしても戦いが始まった。
「カレーを鎮めるって?どんな教育受けてんだアイツ!」
「ハァ!?客じゃないの?こんなに走らせて期待させてぇ?ハァー!?」
「エビー!エビー!」
「キャー猫男様!やっちゃって下さい!」
サカナールの街の波止場にて、新生=カレーなる冒険団…期間限定復活バトル!
君は新たな伝説の幕開けを見る!
「あぁああ!俺はエビジャァナァアアアアイ!!」




