3話
俺とユンは長男であり、当主でもあるシズルに世界を回る旅に出ると伝えると、
「アルカード家に恥じぬ振る舞いだけは忘れるな。困ったら帰って来るといい。お前の進む道はひとつでは無いかもしれないが、帰ってくる家はここなのだからな。」
と普段無口なシズルが珍しく長文を喋ったことに驚きながらも、家族のありがたさに少しだけ泣きそうになりながら別れを告げた。
今更だが、アルカード家は元々この国、フェルティス聖国を立ち上げた御三家のひとつだったのだが曾祖父の代で起こした魔王討伐失敗の責務を一手に背負い公爵から侯爵まで位を落とされ、辺境に追いやられてしまった一応由緒正しい家なのだ。
そんな愛すべき家を涙を呑んでユンと共に旅立ったのだがひとつ忘れていたことを思い出した。
「あ、金がねぇ」
今までの感慨深い感情が一気に吹き飛び焦りが出てきたのだがそんなことを気にしないかのようにユンシアは
「あら、マスターならいくらでも稼げるのではなくて?闇魔法は生命を絶つことに特化した魔法。魔物を狩るなり傭兵になるなり稼ぐ方法はいくらでもあるわ。それに私もこの世界の生命に負けることはありえないのだから」
確かにユンシアの言う通りなのだが、目下の行先もなくお金もなく、魔物を狩って生計を立てる手立てもないのだ。とりあえず落ち着いてどうするかだけ話し合おうとユンシアに向き合うと
「なぁユン。どこに行きたい?それ次第で出来ることが変わってくるからさ」
(近くの街で良ければとりあえずギルドに行って身分証を作らないと。それから魔物を狩って生計を立てつつ…)
「どこでもいいわ。近場から順に回っていきましょう?それにね。女の子をエスコートするのは今も昔も男性のはずではなくて?」
可愛らしく微笑みながら貴族のようにスカートの裾を掴みお辞儀をすると手をさし伸ばしてきた。
「…っ、そ、そうだな、ユンを飽きさせないって言ったばっかなのに。任せろ。ここからは忙しくなるぞ!まずは隣町のミニリシアに向かおう!そこでギルド登録して生計を立てつつ今後の計画を練る!その方針で!!どうだ?」
「えぇ。マスターの仰せのままに」
ユンの美しさに一瞬息を飲んでいた事がバレないようにまくし立てると微笑みながらそう言ったユンの手を優しく掴み隣町ミニリシアへ2人は歩みだした