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第96話 秋祭り



あの巨大蛾を倒した後、俺達はまた新しい力 睡眠 を手に入れることができた。

そう、巨大蛾は半透明の石をゴロリと残して消えたからだ。


ギルドに戻るといつものカラクリの機械で、大塚さんから新しい力を授けてもらった。


これで俺の使える魔法も ライトニング グラビデ サンダー ボイス スリープ と、少しだが増えた。


ギルドでの大塚さんは終始笑顔で、俺達の事をほめてくれたが・・・巨大蛾を倒した瞬間のあのなんとも言えない冷ややかな目を見ている俺からしたら・・・なんとも腑に落ちない気持ちのままだ。


なんだろう、一番頼れるであろう大塚さんのことを心のどこかで疑うこの気持ちは。

大体、こんなに俺達に知識や技術を授けてくれる人の事を疑うってのがおかしいんじゃないか?


だが、大塚さんの微笑みには 裏 があるような気がしてならないのは一体何なのだろう・・・


そして、一階のレストランでは村を上げて盛大な宴が催された。

冒険者たちの中でも、唯一活躍した俺達を皆が祝福してくれたのだ。


祝福と言っても・・・まぁ、実際のところはおっちゃん達の酒飲みの口実みたいなもんだったのだが。

しかしながら皆、楽しそうにわぁわぁ騒ぎながら酒を酌み交わしている。実に楽しそうだ。

まぁ、俺達は酒が飲めないので置いてきぼり感が半端ないが・・・

んー・・・俺達が主賓のはずだろ!


そんな中でも一番称賛を受けたのは千年だった。


まぁ当たり前だ、あんな目を閉じて的を射抜くなんて離れ業を見せられたたら誰でも驚く。


異世界だからできたのか・・・はたまた千年の神社を守る気持ちがさせたことなのか・・・皆の称賛で照れて顔を赤らめて終始笑顔の千年からは、その真意は見て取ることができない。


でもよ、千年実際すごかったぜ。



そして翌朝目を覚ますと、俺はまたリアルの世界に戻っていた。


二日間の異世界だったが、朝日で輝く山々の木々からは確実に秋の気配が感じられる。まぁ、日中は相変わらずの蒸し暑さだが。


そして今日は、昨日まで戦いの場であった千年の家の神社「月読神社つくよみじんじゃ」で秋のお祭りがおこなわれる。今の季節は8月真夏ではあるが、行事は旧暦で行われるためこの時期に秋のお祭りがあるのだ。


豊穣を願うこのお祭り、いつから行われているか詳しい事は分かってはいないが、そうとう古いお祭りであるのは疑いが無い。


俺が子供の頃には出店もあったりして、正月についで夜遅くまで遊べる機会だったため楽しみにしていたものだ。


だが、子供の減った現在では出店などは無く、神事のみが行われる。


今日は朝から担当の地区の村人が集まり、氏子さん達と共に神事の準備を進めていく。


まずは境内の清掃。そして別の者は神事に使う竹や稲穂、南天の葉などの採取。


神社の正面にある鈴の紐を取り換えるのも今日だ。あれは鈴緒すずおと言うらしく紅白のさらしをねじって作ってある。そのさらしには文字を書くのだが、村の筆自慢が達筆で何やら神様に祈願する内容の文句を書いている。うん達筆すぎて俺には読めない。


そして神様にお供えする鯛のお飾り作り。何故かこの神社は山奥にあるにもかかわらず昔からこの神事に立派な雄雌の鯛をお供えする。鯛は二匹を向かい合わせでお盆に据え置き、藁で作った縄で括りつけられる。そして鯛を向かい合わせた中心には藁と若竹で作られた土台の上に青々とした稲穂を括り付ける。これは村の長老の仕事だ、干からびた年寄りのどこにこんな力があったのかと思うほどにキリキリと藁を締め上げて作り上げていく。いや力ではないのかもしれない、これが熟年の技ってやつだんだろう。


そして女性陣はお社内に他にお供えする米や酒、塩などの準備や、神社の周りを照らす灯篭作りだの・・・なかなかに忙しい。


準備の中でもひときわ大変なのが「旗立て」である。


山から切り出した長い丸太に10mはあろうかという長いのぼり旗を、建設会社のおっちゃん達に手伝ってもらってクレーンで建てる。


でも・・・たしかこれ・・・俺の子供の頃は人力でやってたよな・・・子供心に大人ってスゲェって思って見ていたものであった。


昼を過ぎた頃、ようやく休憩だ。

全員で、村で唯一の仕出し屋から届いた弁当をカラリと晴れた空の下で食べる。


真夏でも神社の木々のおかげでいい感じに木陰が出来ていて、ひんやりとした風も汗をかいた体に心地いい。


ひときわ騒ぎ声がしているのは、フライングで飲んでいるおっちゃん達である。例年のことだが一応ほどほどにしておくよう宮司さんから注意が入る・・・しかし祭りの日という事もあり、さっさと一升瓶が空いていた。


午前中の準備が終わると、氏子さん達を残し一旦お手伝い組は自宅へ帰る。酒を飲んだおっちゃん達は昼寝だ。

そして夕方になるとまた集まるのである。


少し薄暗くなった頃に祭りは始まる。


乾いた「パァン!」という花火の音が祭りの始まりの合図である。

その音は、静かな山間の村で実に遠くまで良く聞こえる。


俺も浴衣に着替えてじーちゃん達と神社へ向かった。


山の中の神社は既に夕闇がせまっており、昼間に作った灯篭が階段や道の両脇に置かれて不思議な空間を演出するかのようだ。


いや、実際昨日までは異世界で巨大蛾はいるは、そいつによってシールドは張られているはでさんざん不思議空間だったのだが、このリアル世界でも灯篭一つでこんなに日常から離れた感じになるのだなと改めて思う。


五色の布で祭事用に整えられた本殿に詣でると、日は暮れかがり火がたかれた。


そろそろこの祭りのメインイベントである 巫女舞 が行われるのだ。




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