第90話 一旦帰宅
謎の繭駆除大作戦は、とりあえず一夜明けてからの開始と決まった。
見張り役と参謀本部の一部を神社に残し、一旦俺達はそれぞれの自宅に戻ることになったのだ。
「しっかし・・・小さい繭は何とか駆除の方法もあるだろうけど・・・あのデカイ繭はどうするんだろうな」
坂道を下りながら俺は要に聞いてみた
「・・・そうだな・・・聞いた話によるとまずは鳥居から切り離してから、火で焼くということらしいぞ」
ま、害虫駆除の基本はそうだよなー
要は眠ってしまったニコルちゃんを送って帰るという事で、俺は二人と別れ一足先に自宅へと戻った。
自宅では遅い時間にも関わらず、祖父母が待ち構えていた。
「どうだったの?」
ばーちゃんが心配そうに顔を曇らせ、俺にリンデンのお茶を出しながら尋ねてきた。
「いや~デカかったよ・・・でも経験豊富な年長の冒険者たちがメインで駆除することになるだろうから、俺達はあくまで控えになるんじゃないかな?」
「それなら危ないことは無いんだね、安心したよ」
ばーちゃんはホッとため息をついて、胸をなでおろした。
いや・・・ごめん・・・ばーちゃん・・・俺言ってないけど・・・今までもそこそこ命がけでモンスター退治してきました・・・。ホントごめん・・・。
俺は黙ってリンデンのお茶を一口すすった。お茶は甘く穏やかな味わいでまるで蜜のような香りがして、疲れた体に染み渡る。
「ワシも明日は行くことになったぞ」
じーちゃんが不思議な鳥の被り物を小脇に抱えて、リビングに入って来た。
あ、やっぱそれただの被り物だったのね。
「え?救護班かなんかで?」
「そうだ、もしもの時の備えだな。ギルドの大塚さんからの依頼だ」
大塚さん・・・万全の備えであの 繭 に対して挑もうってところなんだな・・・
でも、動きもしない繭相手に何をそんなにビビッているのだろう・・・
いや・・・考えても無駄だ・・・
とにかく寝よう。今日は疲れた。
明日にはきっと上級冒険者達が何とかしてくれるさ・・・
そして俺は泥のように眠った・・・
「尊、起きて!武器屋と防具屋に行くわよ!」
翌日早朝、フルフル元気な千年の声での起床である。
あーもう・・・この遠距離通話って切れないのな・・・いきなり大声で話しかけられても・・・
「ほらもう!起きてったら!!」
キーンと耳元で千年の声が響いたと思ったら、布団がガバッとはぎ取られた。
いや・・・お前!俺の部屋にいるんかい!
「千年よー何の為の遠距離通話だよー・・・」
「まだ使い方分からないんだもん!近いし直接来た方が早いの!ほらさっさと準備準備!」
やたら元気な千年にせき立てられて、いつものクローゼット開け着替えを出しつつ時計を見ると・・・5時・・・ん?5時!?
「いや!早いだろっ!」
俺はもはや標準装備と化した、モフモフ付きナイトキャップを頭から抜くと千年に投げつけた。
「何言ってるのよ!またあの繭でっかくなってるのよ!このままじゃ羽化しちゃう!!」
千年は俺の投げつけたナイトキャップを更に放り投げ、焦った様子で俺のパジャマまで引きはがそうとしてくる。
何だってー!たった一晩でか?
俺は急ぎ着替えると、千年と共に武器屋と防具屋へと急いだ。
「朝早くからすみませーん!」
まずは防具屋のケンさんの店の扉をガンガンと力尽くで千年が叩く。
うわ~迫力~。
「はあぁ~い、開いてるよぉ~入んなぁ~」
と、いつもの気の抜けるケンさんの間延びした声が店の中から聞こえた。
千年はその声が聞こえるやいやな扉を勢いよく開け、中に転がり込む。
ケンさんの店の中は、古書が何冊も開いたままで、テーブルの上には天秤や輝く鉱石、ハーブや何かは分からないが色とりどりの粉末が瓶に詰められて転がっている。
「なぁ~んか千年ちゃんとこも~大変な事になぁっちゃぁったねぇ~」
「ま~お茶でもどぉ~?」
ケンさんは目の下にでっかいクマをこしらえたまま、ティーカップを準備しようと後ろでカチャカチャし出した・・・
「いや・・・お気持ちだけでっ・・・そんな暇ないんで!」
「あ、そぉ~。じゃこれ早速・・・ギルドから頼まれてた ヤツ ね」
「昨日急に言われたからさぁ~こんだけしか出来なかったんだよね~」
そう言って革袋から出したアイテムは・・・
うん、どう見てもラムネのお菓子だよね!あの瓶を模したお菓子だよね!!
「なんすかこれは・・・」
唖然としている千年の代わりに、俺がケンさんに尋ねる。
「これはポーションより更に強力な状態異常を治すタブレット状の薬だよ~」
「はぁ・・・」
俺は若干眩暈を感じ眉間を押さえて、ため息をついた。
こんな駄菓子みたいな見た目で・・・効くのか?
チラリと千年を横目で見ると、受け取ったラムネの駄菓子?を茫然と凝視している。
「結局4本しか出来なかったけどぉ~、大体一本に20錠程はいってるからねぇ~」
「あ、ありがとうございます!!!」
あ、千年が復活した。
まぁしゃーないわな・・・
「それじゃ~ほどほどに頑張ってねぇ~」
これから大仕事に向かうであろう俺達に向かっての応援とは思えない、ユルイ声援を受け俺達はケンさんの道具屋を後にした。次は川上さんの武器屋である。
そちらにもギルドから連絡があっていたようで、俺達の姿が表に見えるや否や川上さんがドアを開け、すぐさま中に入れてくれた。
「いやービックリしたよ!ギルドから直接依頼なんてめったにないからね!一応頼まれたものは表の馬車に積んでおいたから、私も早速一緒に行くよ!」
いやぁ、川上さん流石に準備がいい!つーかなんでウキウキしてるん?
「それで・・・あの・・・私の弓もあるんですか?」
「それがね・・・」
馬車に乗り込みながら、川上さんは少し残念そうな顔をして千年に言った。
「ごめんね千年君・・・ギルドからは虫に対抗する武器や使えるものって言われたんだけど・・・虫に特化した弓は無くてね・・・今までの弓を使ってもうしか無いんだよ・・・」
「そう・・・ですか・・・」
千年はうつむいて
キュッと唇を噛んだ・・・。