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第8話 胡蝶の・・・

その和んだ空気も一瞬のことで、二人とも深いため息をついた。


少しの沈黙の後、最初に口を開いたのは俺だった。


「俺の場合は、天体観測する為に庭にいたんだが、物音に気付いて振り向くとあの化け物猪がいて、気づいたらどこだか分からない林の中に移動して・・・そしたらそいつがしつこく俺を追い回してきて、死ぬかもしれないって時に・・・」


「私が現れたのかぁ・・・」


そう言って千年は明るい色の髪を、指でくるくる巻きながらハッキリとした口調で言った。


「私が思うにね、まずあれは夢じゃないってこと」


俺は黙って頷いた。


そして。


「じゃあ・・・夢じゃないなら、あの出来事は何だったんだ?」

「うん・・・」


千年は俺の頬の傷を見ながら黙ってしまった。



だめだ、考えても答えが出るような事じゃない。


いや、本当は二人とも答えが出ているが、認めたくないのだ。


「とりあえず、俺もおまえも認識してるってことは、夢じゃないんだろう」


千年は真剣な顔をしてコクリと頷く。


「ま、俺たちなんかに化かされたんだよ、夢じゃないんなら化かされたんだ。」


「だね、今どきこんな山奥の集落に住んでんだから、なんか出るよ」千年はお化け手をしてみせて、ふふ、と笑うと俺をちゃかした。


夢じゃないのに化かされたってのも可笑しな話だが、そうでも言わなきゃ収まりがつかない事ではある。



持っていたメガホンを千年に向かってポイッと投げると、俺は立ち上がった。


「帰るの?」


「そだな、暗くなってまた猪にでも会ったら嫌だからな」


俺はにニヤリと笑って言った。


千年も、その綺麗な流し目でニヤリと笑って立ち上がった。



玄関では千年の母が誰かと話している姿が見えた。相手と随分盛り上がっている様子だ。


「お母さん、尊帰るって。あ、田中さんこんばんは」


千年がお辞儀をした相手はこの町でガソリンスタンドをやっているおっちゃん、田中さんだ。


ま、果樹園もやってるし消防団と猟友会にも入っている。


「お、尊じゃないか」


田中さんはニコニコ顔で超が付く上機嫌で俺の背中をバシバシ叩いてくる。


「ほら、千年これ頂いたのよ、お礼をおっしゃい」と千年の母が新聞紙にくるまれた何かを持って千年に見せている。


「ありがとうございます」


千年はぴょこんとお辞儀をした。



「及川さんとこにも持ってったから、新鮮な内にみんなで食べな」


「役場のにーちゃんにもやったけど、そりゃ大喜びだったぞ!」と田中さんは親指をビシッと立ててガッハハとあくまで上機嫌で言った。


俺も千年の隣で「ありがとうございます」と田中のおっちゃんの勢いに押されて丁寧にお辞儀をした。


それにしてもなんだろう?この時期のもん…イチゴは終わったし、ブドウは早いし?役場のにーちゃんも大喜びのものって??



何?




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