第83話 食堂にて
異世界での生活が大分板についてきたせいか、こうやって大塚さんとリアルの世界で話すのがなんとも、もどかしいというか・・・とにかく慣れない!
だいたい異世界ではタメ口なんだよなー、改まって敬語で話すとどうも・・・変な感じである。
横に座ったもののなかなか会話が続かない。
「あの、大塚さんって東京からみえたんですよね、休みの日ってこんな田舎じゃすることないんじゃないですか?」
「そうでもないですよ、ここはネット環境が完備されていますし。それに私恥ずかしながら少々ワーカーホリックぎみでして・・・休みの日も仕事をしていたりしますからね」
と、ちょっと自分のことながら困り気味で微笑んでいる。
「どんなお仕事なんですか?」
俺は少しつっこんで聞いてみた。
「・・・そうですね・・・ちょっと一言では言いにくいのですが、まぁ、村を更に良くするお仕事・・・ってとこですかね」
そう言って大塚さんはニッコリと笑った。
・・・いやいやいや・・・それじゃ小学生なんかに説明するみたいじゃないか、なんか、肩透かしをくらったような・・・だいたい 村を更に良くするお仕事 って漠然としすぎだろ。
俺が更に話しかけようと体勢を大塚さんの方に向けたところで、大塚さんはスッと視線を落とした。
「それでは、昼休みもそろそろ終わりますのでこれで失礼しますね。ご両親にはよろしくお伝えください」
と、大塚さんはトレーを手に俺の横から立ち上がり、笑顔で軽く会釈をすると食器を返却しに去って行った。
俺はスーツの良く似合う背の高い大塚さんの後ろ姿をなんとなく見送ると、向き直りコップの水を一口ごくりと飲んだ。
本当は・・・もしかしたら大塚さんは 異世界の記憶があるんじゃないか? と密かに期待して話しかけたのだ。
しかし、今の様子ではそんなそぶりはまったく見えなかった。
そして俺は それ を確かめてどうしたいのか?
異世界の話をリアルでも共有したいのか?いや違う。もっとこう・・・なにか胸にひっかかったもやもやが・・・俺自身にも良くわからない大塚さんに対するこの違和感が・・・
まぁ、他の人に期待するのはよそう。異世界の記憶を持つのは俺と、千年と要の3人だけなのだろう。
俺は食事を終えると、ぶらりと役場付近を歩いてみた。役場付近は町の中心にもなっているので規模は小さいながら店がいくつかある。
子供のころから見慣れた風景ではあるが、異世界だとこの辺りには屋台がたくさん並び、威勢の良い呼び込みの声が響いている、それがない現実世界の通りは少し寂しい気もする。
大分、異世界に毒されているようだ。
いっそ・・・このまま異世界にいた方が楽しい気もする・・・
いや、そうもいかないな。
そんなことを考えつつ自転車を押しながら村の中をぶらぶら歩いていると、美容室から出てきた聖加とたまたま出会った。
本物の聖加 は久しぶりである。聖加は夏らしい白のワンピースに麦わら帽子をかぶっているいる。
ハッとするほどの美しさだ。実際道行く人がチラチラ見ているのが分かる。
「尊、久しぶりだね」
聖加の方から俺に話しかけてきた。
「おう、久しぶり。体の調子はどうだ夏バテしてないか?」
「いやねぇ、尊まで兄みたいなこと言うんだから」
と、聖加は口に手を添えるところころと笑った。
良かった元気そうだ。
「そう言えば、夏休みの前にお寺でトラブルあったらしいな、大丈夫だったか?」
「あ、知ってるんだ。そうね小さな村だもんね、情報回るのあっという間だよね。うん大丈夫そうよ、先日お礼のお手紙頂いて、お元気そうだったから」
俺は聖加がショックを受けてないか聞いたのだったが、聖加の返事はあくまで相手を気遣う返事が返って来た。聖加らしいと言えば聖加らしい。
「聖加少し送ろうか?」
俺はそう言うと、自分の自転車の荷台をポンポンと叩いた。