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第81話 夏休み



予想の通り、俺達は難関クエスト(たまたまだが)を達成したおかげで、たった一日でリアルの世界に戻ることができ、高校生活一年目の夏休みを手に入れることが出来た。


田舎の民の夏休み・・・


子供の頃は大自然の中で虫取りだ、やれキンキンに冷たい澄んだ沢で泳ぐわ、やれよそん家の山の中に秘密基地を勝手に作ったりだわと、ただただ毎日日が暮れるまで、真っ黒に日焼けしつつひたすら遊ぶだけだったのだが、高校生にもなると立派な労働力としてみなされ・・・朝から草刈り要員として駆り出される日々だ。


田舎の朝はとにかく早い。


もう6時前には全力で草刈りを始めなければならない、でなければ10時には日も高くなりかなり蒸し暑い。

虫対策で長袖長ズボンに長靴を履き、防護眼鏡に麦わら帽子までかぶった完全装備をしている為、蒸し暑さでパンツまで汗でビショビショになる。これではとてもじゃないが長時間重い草刈り機を持って作業なんてできはしない。ましてや日が高くなってからの草刈り作業なんて無理なのである。


死ぬ、普通に熱中症で死ぬ。


草刈り機には種類があり、我が家のタイプは草を刈る部分が刃物ではなく、ナイロンで出来たワイヤーのようなタイプを使っている。このタイプは 草を刈る というよりも 草を粉々に砕く と言った感じで刈った地面はとても綺麗にはなるが、刃物タイプより結構大変である。


そして刈った草が粉々になって空中に舞い全身にぴったりとまとわりつく・・・汗をかいた体にはこれがなんとも気持ち悪く・・・早く草刈りの時期が終わることを祈りつつ朝から汗を流すのである。


ご近所さんも同じく草刈りをやっているのだが・・・一番最初にへばるのは実は高校生の俺である・・・生まれは都会だが、一応山育ちで(リアルの世界では)体力には自信があるが、田舎の年寄りの体力には到底及ばない。60歳代が一番体力あるんじゃね?ってほどに皆元気に作業をガンガン進めている。


山間部の田舎とはいえお茶農家や林業ばかりではなく、ここ天ノ村ではリモートワークで働くサラリーマンも多い。サラリーマンをやっている頃はそこまで体力はないようだが、定年退職した途端皆一様に野生に帰るかのように、家庭菜園とは言えない規模の野菜作りだ、シイタケ栽培だとやりたいことを思いっきりやり出す。ツワモノになると自分で家まで建てだす・・・


良く、ネットの書き込みなどを見ていると「定年した後、家にずっと夫がいるようになって面倒」だとかの書き込みを見かけるが、田舎ではそんなことは一言も聞いたことがない。


むしろ定年を過ぎてからが本当の自分の生き方だとばかりに、それぞれが好きな事をやり出す。


そのせいかネットの一般的な書き込みの世界とは違い、俺がご近所でよく聞くのは「またうちの旦那軽トラ買ったのよ」だ「トラクター買った」だとか農作業や本格的な大工道具を購入したという愚痴である。したがってどこかの家に行き借りてくれさえすれば発電機からなんから一通りなんでもそろうので、益々作業の幅が広がり自給自足が進んで行く。


したがって、サラリーマンだった頃のひょろっとした体つきから、定年退職後数年たつと筋骨隆々でよく日焼けしたいい顔の 漢 の出来上がりである。


ちなみに女性達の仕事も様々である。


都市部の農協と天の村の役所を通して契約をし、料亭などで使う料理の飾りになる笹やシダ、南天や山野草などをネットで受注しては発送をし、なかなか稼ぎ上げている。


うちのばーちゃんなんて、梅干しだなんだと漬物を大量に漬けて、東京の新橋駅近くにある村のこ洒落たアンテナショップに卸してウハウハである。


でも、山奥じゃ買い物する所や病院通いなんてのが大変なんでしょう?と街の人らに聞かれることもあるが、買い物は村中にくまなく張り巡らされたセンサーによる自動運転の車両やドローンによる宅配が発達しているためなんの問題もない。病院だって、いざとなればドクターヘリがすぐに飛んできてくれるため安心だ。


おかげで、なんと天ノ村は全国の世帯年収ランキングでも関東勢に食い込んで上位に位置している。


そんな逞しいおっさん、おばちゃん達に混じって、か弱い?高校生の俺はしっかりと鍛えられながら大人への階段を上っていくわけである。


だが、やはり山奥の田舎の生活が嫌になり大学や就職などで一度はこの村を離れ都会へ出る若者は少なくない。いやむしろ多い。


しかし長い通勤時間、狭い家、高い物価。確かにお金を出せばなんでもそろうが、そこまで稼ぐにはどれほど働けばいいのやら・・・上を見上げればキリがない。その上どこにいっても人ばかり・・・そりゃこんなド田舎から上京した者にとっては都会は ある意味異世界 にしか思えない(都会の人からしたら逆に見えるのだろうが)確かにイベントなどは都会にはかなわないが、ある一定の年齢になってしまうとそうそうイベントに興味を示すこともなくなり。人が混み合う会場で見るより、むしろネットで中継しているのを自宅の大画面で見た方が良くないか?グッズだってネットで購入できるし・・・という事に気づく。


そして、数年経つと鮭のように皆この村へ戻ってくるのである。


また、戻ってくる理由の一つとして働く場所が農業や林業ばかりではなく、リモートで働けるというのが大きな要因となっているようだ。


山奥ながらネット環境がやたら整備されているおかげで、限界集落寸前だった村から一転してIT企業やらデザイナーやらアニメーション作成会社だなんだと小規模ながら結構な数の会社が村には出来、国内からの移住者にとどまらず今では国際色豊かな村となっている。


そんな恵まれた環境になったのも、総務省より 「過疎化地域自立促進特別措置による特殊モデル地域」とやらに選ばれ村を魔改造とも呼べるほどに開発したからにすぎない。


そして、どうやらその総務省から派遣されているのが大塚さんらしいのである。


というより「過疎化地域自立促進による特殊モデル地域」の原案を作り上げたのが大塚さん自身とのことだ。


この魔改造村を作り上げたのは大塚さんと言っても過言ではないのである。


そして自らその成果を確かめるべく、村に移住してくるのだから本気度合いが違うのだろう。


このことは異世界の雪山から戻った俺が、リアルの大塚さんに興味が沸いて少し調べて分かったことなのだが・・・



さて、今日は草刈りの後じーちゃんからの頼まれ事もあり役場へと行く用事があったので、俺は風呂で汗を流した後、自転車に乗ると役場へと向かった。


俺にとっては ある意味 毎度おなじみの役場である。






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