第74話 巨大白猿
リアルの世界では、この村周辺に猿は生息していない。
が、ごくまれに はぐれ猿 なるものが山伝いにやってきて村を一通り荒らしてまたどこかへ去っていく。
普段猿はいないので、つい興味本位で近づこうもんなら噛みつかれたり引っかかれたりと、なかなかのケガを負わされてしまう。その為、村の者たちは子供のころからはぐれ猿には近づいてはいけないと教わる。
教わるのだが・・・
俺達の目の前では今まさに、巨大な白猿が牙をむき出し怒りをあらわに襲い掛かってきているのである。
「あーん!要が猿と目を合わすからーーーーーー!」
「しかたないだろう!あんな化け物がいたら目も合う!」
「とにかく逃げて、体制を整えようぜ!」
俺達は深い雪に足を取られながらも、必死に猿から遠ざかろうと逃げた。
しかし猿早い!みるみる近づいてくる。
俺は立ち止まると
「グラビデ!」と両手を巨大白猿へと突き出し魔法を放ってみた。
巨大猿は「グアッ」と唸り声を上げると、その足を緩めた。
「尊やるじゃん!これ行けるかもよ?」
巨大猿はまったく動かないわけではないが、少しその動きは遅くなった。これだけでも随分違う。よしこのまま逃げ切るぞ!
動きを封じられた猿はますます怒り、鋭い目を赤く光らせ。
「ウオォォォォォォォォォォォォーーーー!!!」
と、周囲がビリビリと震える程の大声を山に響かせた。うお!こ、鼓膜が痛い!
すると・・・
背後の山に積もっていた雪がズルリと動いたかと思うと、雪崩を起こしたのだ!
その規模は先程見た雪崩の規模とはけた違いの大きさだった。
「ちょっと・・・尊・・・これやばくない?」
千年が顔を引きつらせながら、俺に言った。
「お猿さん、声でけえのな」
「何余裕ぶっこいてるのよ!さっき見たみたいな雪崩くらったら私らひとたまりもないって!」
「要!お前の防御でなんとかならないのか?」
「・・・保証は無いが少しはましかもしれない、一応全員にかけておくか」
「頼む」
要に防御をかけてもらいつつ、俺は作戦を練るしかなかったが・・・
どうする?こんな足元の悪い雪山の開けた場所で、隠れる場所なんてどこにもない。
動きを少し封じたとはいえヤツはまだ動けるようだし。走って逃げるなんて無理だ。
そんなことを考えていると、甲高い千年の悲鳴が聞こえてきた。
「どうした千年?」
「どうしたもこうしたも、あの猿!雪投げて・・・ぎゃぁーーー!」
千年が全て言い終わる前に、巨大猿が握った雪の塊が千年にヒットした。
さすが霊長類、頭いいなオイ!
などと感心している場合ではない。
「千年とにかく逃げろ!あいつが投げた雪玉に当たらないようにするしかない」
「分かってるけど・・・あいつ私狙ってない?なんで~~~~」
半ベソをかきながら千年は次から次へと投げられる雪玉を避けるのに必死で逃げ回っている。
しかし、足元はいまにも雪崩が起きそうな深い雪・・・もともとあまり素早い動きを得意としない千年がちょこまか逃げ回っても猿の方がナイスコントロールで的確に千年に当ててくる。
猿、もしかして遊んでないか?・・・すると
「俺に任せろ」
そう言って要が後方からゆっくりと千年の前に立ちはだかった。