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第70話 告白



最初は二人で心中をするつもりだったと、母親 由衣 は小さな声で言った。


流浪の生活の中、テレビで見た要の読経が心に響いて、あの声を聴きながらあの世へ行けるならと思ったそうだ・・・


今朝は鐘の音を聞きながら決心が揺らがぬよう苦手な酒を一瓶飲み干し、いざ事をはじめようとアオの手を引いて本堂へと足を進めたが、涙があふれて止まらない。


ちょうどそこへ、聖加が花を摘みに現れたのでアオを託して、自分だけで逝こうと決め、山へと一人入って行ったそうだ。


すると思いの他、早くサイレンが聞こえてきて自分を探していることに気づき更に山の奥、川の上流へと進んで行ったそうだ。


どれほどたっただろうか川の上流の少し湿地になっている場所へとたどりつくと、大きな柳の木が目に入った。


あそこで・・・そう思い持ってきたロープを握りしめると、ふと苔むした小さなお地蔵様が目に入った。そのお地蔵様にふとアオの姿を重ね茫然としていると。


お地蔵さまの後ろから強い光が輝いて人の姿のようなものが見えた。

その人の姿をした光の塊は、由衣に優しくこう言った。


「死んでどうするのですか?二度とアオちゃんに会えなくなるのですよ」


「死んではなりませんよ」



由衣は驚くより先に、泣き崩れてしまった。


極限状態による幻覚か、アルコールによるものなのか・・・それは分からないが、目の前で自死を止める声がする。


それからはひたすら泣き続け、その後捜索隊に発見されたのだった。



聖加は何も知らず寝入っているアオの柔らかい髪の毛を撫でながら、黙って聞いていた。


要はその光の姿をした正体が何か・・・いや、聖加の分身であろう、その光の姿に感謝をした。


聖加は、スッと立ち上がるとどこかへ消えて行った。その間も由衣は泣き続け、要は黙って側についてやることしかできなかった。


次に聖加が戻って来た時には、お盆に何やら乗せて現れた。


小さな土鍋である。


「一日何も召し上がっていないのでしょう?良かったら一口だけでも召し上がりませんか?」


そう言って土鍋の蓋を開けた。


土鍋からは暖かそうな湯気が舞い、中にはふっくらと柔らかそうなお粥が見えた。


聖加は土鍋から粥をすくい器に入れると、朱塗りのスプーンと粥を入れた器を由衣の手に握らせ微笑んだ。


由衣は涙を拭くと、少し粥の器を持ったまま眺め、そしてようやく一口ゆっくりと粥を口に入れた。


「お粥・・・おい・・・しい・・・」


そう言って由衣はわぁわぁと子供のように泣いた。


もう大丈夫だ。何故か要はそう思ったのだった。



朝になった、昨日はあんなことがあったとは思えないようないつもの朝だ。

由衣はアオの手をしっかりと引いて、泣きはらした目をしているが、しっかりと要を見て今までのお礼を言っている。


昨日の今日なので、バス停まで車で送ろうと要は申し出たが「この風景を目に焼き付けたくて」「・・・それにご近所の方にもご迷惑かけたので・・・お詫びを・・・」と言って送るのを辞退していた。


そこへ少し遅れて、聖加が小走りでやって来た。

手には何やら小箱を携えている。


「これどうぞ、チーズケーキを焼いたんでした。途中で召し上がって下さいね、中に保冷剤とフォーク入れてますから」


と、元気良く由衣に渡した。


するとハラリと紙切れが落ちた。


慌てる聖加を尻目に、由衣は紙切れを拾い上げるとそれを開いた。


そこには


「これからも 青ちゃん と二人お幸せに」


と書かれていた。


由衣は目を見開き「どうして アオ の漢字を?」と聖加に聞いた。


「沖縄ご出身と伺って・・・もしかしてと思いまして。アオちゃんって海の青かなって、良かった間違ってなくて!間違ってたら失礼ですものね」


聖加は少しはにかみながらそう言った。


「・・・島に・・・生まれ故郷に帰ろうと思います」


由衣は目に涙を溜めて、要と聖加にそう言うと再び深々と頭を下げたのだった。



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