第36話 憑坐(よりまし)
浅い滝つぼにから少し流されたが、聖加は溺れてはいないようだった。
どこからか流れてきたヤマボウシの白い清楚な花弁がいくつか聖加の黒髪にまとわりつき、血の気を失せて倒れている美しい少女を飾っている。
まるで神話かなにかの光景だ・・・
要は悠々と水の中へと入って行き、浅瀬に横たわる聖加を抱き起し、軽々と川岸へと抱えて上がってきた。
「聖加!」千年が要から聖加を受けようと両腕を伸ばした。いやオメーじゃ無理だよ。
俺たち4人は寺の本堂へと、一言も言葉を交わさず戻った。
本堂の裏の部屋に入るとムッとするほどにストーブを初めからつけてあった、たぶんいつも滝行の後に聖加を暖めるのであろう。
要はマットレスの上に聖加を横たえると、準備してあったバスタオルを手に取り・・・
ここで俺たち三人は目が会い「オイはずせ」と要に睨まれてしまった。
あたりまえである。
おろおろしながら部屋を出る俺を尻目に、千年はスッと聖加のつややかな黒髪に手を伸ばし、付いていた真っ白なヤマボウシの花をとって部屋から出た。
「知らなかったな、聖加自身が滝行をしていたなんて」
「・・・だから見てはいけなかったんだな・・・」
千年に話しかけるも千年は黙ったままだった。同じ修行者としてそうとうショックを受けたようだ。
「・・・」
俺は要にまた出直す旨をふすま越しに伝えると、千年を連れて寺から下った。
長い階段の途中千年は、つと立ち止まり「これでいいのかな?」と、手に持ったヤマボウシの花を見ながらつぶやいた。
気持ちは分からなくはないが「そういう仕組みななんだろう・・・」としか俺は答える事が出来なかった。
リアルの世界の聖加の厳しい生活。あっちの世界で眠り姫の聖加
どちらがいいのか本当に俺自身分からなくなってきた。
かける言葉もみつからないまま、俺は大切な事を思い出した。
「そうだ千年!スキルらしきものの見方が分かったぞ」
「え!マジ?それ大事なことじゃん!ギルド行って何かつまみながらでも話そうよ!」
「って、こっちはリアルか」
ようやく千年の顔に笑顔が浮かんだ。
俺たちは話しながら、くだんの龍神湖にたどりついた。
すると川辺になにかちっこいモノが動いているのが見えた。
ちっこいモノと言っても、子供である。
俺の見知った子だ。指にはめた銀色の指輪がキラキラと輝いている
「おーい!ニコルちゃーん!」俺はその子に向かって声をかけた。