第32話 聖加を目覚めさせるには
「目覚めない か・・・」
俺は頭の芯にこびりつくような先程までの光景を、ぼんやりと思い出し、つぶやいた。
俺達はその後、要と聖加を後にして、家路へとついた。
「ねぇ、なんかすっかりこの世界楽しんじゃってたけど。大変なことになってるんだね・・・」
先に口を開いたのは千年である。
「そうだな」
「聖加どうなっちゃうの?」
「・・・分からない・・・でも食事もとれてないみたいだし、このままだと衰弱して・・・」
「でも、寝てる間は邪気を吸ってないみたいって言ってたよね」
そうなのである、要がそう言っていた。
普段は息をするように邪気を吸い、朝日を浴びることによって邪気を放出しているらしいのだが、曇りの日が続いたり、大きな邪気を吸ってしまった場合は要が本堂の裏にある滝に打たれて清めるらしい。
どっちがおとぎ話か分からんな。
「とりあえず聖加を起こさないと、だな」
「そうだね、でもどうやって?」
「いっそ、お前が例のふんどしで踊ったらどうだ?」
「ばっ!ばっかじゃないの?」
千年は顔を真っ赤にし手をばたつかせキャンキャン吠えている。いつもの千年だ。
「この世界、なんだか楽しそうなんだよな、皆。楽しい夢の中って感じで・・・」
俺は千年の顔を見ないまま千年の前を歩いて言った。
「そうだね」千年は俺のコートを後ろから掴んでついてくる、顔は見えないが声のトーンは低い。
「もういっそこのままこの世界でも、いいのかな?なんて思ったりしちゃったりしない?・・・でもそれって聖加を犠牲にしちゃうってことなんだよね・・・」
「ま、目覚めたところで同じなんじゃないか」
二人縦に並んで歩く姿が、夕焼けに焦がされている。
「やっぱ、ダメだよね。このままじゃ」
「そうだな、俺も聖加と話したいしな」
「それに・・・要のヤツがなんで聖加の姿なんだ?それも気持ち悪いから聖加には目覚めてもらわねーとな」
「だね」
ようやく千年が俺のコートから手を放した、たぶん千年も不安だったのだろう。
坂の途中で俺たちは別れ、千年は馬鹿でかい弓をしょったまま颯爽と更に山を登って家路についた。
あー今日はめっちゃ歩いたーーーー!
風呂入って飯食って速攻寝よう。
・・・ちょっとベット横になっていたつもりが、思いのほか眠っていたらしい。
あれから数時間たっている。
静かに一階に降りると既に夕食を終えた祖父母らは寝ているようだった。
俺の分だけ布巾をかけられた状態で置いてある。
レンジ、この世界にレンジはあるのか?そんなことを考えていたら
千年から通話が入った。
モニターが目の前に開く。
そしてモニターの中の千年が、これまた慌てふためいている。忙しいいヤツだなー
「ねぇ!攻撃技ってどうやって覚えるのかな?」
「むぅ・・・」
今更だが大事な事に気が付いた。