第26話 ワーム退治の後に
「たっのもーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
千年はドアよ外れよぐらいの勢いで、例の役場二階特別ギルドに意気揚々と入って行った。
きっと報酬が楽しみで仕方ないのだろう。
例の窓口では大塚さんがニコニコ顔で俺たちを出迎えてくれた。
「素晴らしいですね、さすが二度目の討伐となると!」と小さく拍手までしてくれているが、実際のところ説明も良く読まず、閃光を放ち、やりづらくしてしまった俺としては、なんとも言えない。
だが、それよりも使えなかった役場職員牧野の事を差し引いてプラスといった働きなのであろう。
「いやぁ、うちの職員が随分とご迷惑をおかけして、大変申し訳ございませんでした。」
そう言って大塚さんはペコリと頭を下げたが、なにか楽しそうに見えた。
「私共としましても迷惑料と言ってはなんですが、少々報酬を上乗せさせて頂きました。」
「マジでっ!」
こらこら千年あからさますぎるだろ、俺みたいに見えない所でガッツポーズとれや。
それではこちらが今回の報酬でございます。
と、以前も見た革袋をドサリとカウンターに置いた。難易度6だった猪と比べれば少なめだが、まぁいい。金はあった方がいいし。
なぜなら、今回の報酬と前回の報酬を合わせて俺たちも少し装備を整えないといけないからだ。
「それじゃ頂いていくぜ」と手を伸ばした所で、スッと大塚さんは報酬金を取り上げた。
俺はムッとしてにらんだが、大塚さんは涼しい顔をして俺たちにこう言った。
「あと、お一人いらっしゃるので、その方と三等分となりますよね」
あっ!俺と千年はお互いの顔を見合わせて、確かにその通りとうなづいた。
その時、ローブを目深に被り一人静かに窓辺に座っていた人が、すっくと立ち上がった。
聖加である。ローブを静かにとると、どこぞの金髪野郎とは違い、その鼻筋の通った顔立ち、艶やかな黒髪、大きな瞳に長いまつ毛。なに一つ変わってはいない聖加そのものの、その人が立っていた。
聖加は一言も発せないまま、俺たちの元に歩み寄ると「この間は‥」とだけ言って頭を下げた。
「すみませーーん、カナリアの涙を3つ下さーい」
とりあえず、俺たち三人は一階の食堂へ来たて、運ばれてきたオレンジそのまんま食ってるの?っていうほど濃厚で旨いオレンジジュースを三人でなんとなくバツが悪そうに飲んでいる。
先ほど…報酬を受け取ろうとしたとき、聖加は自分の分だけ持ってさっさと俺たちの元から去ろうとしていたのである。どうもおかしい。
見た目は聖加そのままなのだが、なんというか…まず目つきが鋭すぎる、いつもの聖加なら具合が悪いのもあってかほんわりした目をしている。そして口調。
いつもの穏やかな口調はどこへやら紋切型というかまるで男のようなしゃべり方をする。そして決定的に違う所・・・いや、これはふれずにいよう・・・。
まるでお通夜のような雰囲気を打破すべく、俺は千年をテーブルの下で小突いた。俺こういうの苦手なんだよー・・・
千年はちょっと困り顔で聖加に向かって
「ジュ、ジュース美味しいね!そうだここのご飯もなかなか美味しいんだけど、何か食べない?」と聖加にメニューを見せた。
すると、聖加はメニューを一目見て「うわぁ…」という反応をした。
違う、こいつは聖加じゃねぇ
ちっちゃい頃の夢はお姫様とか、割と高学年まで言ってた聖加、しっかりしているようでどこか抜けたところのある聖加・・・
違う目の前にいるこの女は見た目こそ聖加だが、それは似て非なるものであることを俺は確信した。
「お前は誰だ・・・」
俺はついに最初に会った時から疑問に思っていた事を、目の前の 聖加 に問うた。
千年も黙って下を向いている。千年もこの目の前の女が本物の聖加ではないことに気づいていたのだろう。
「ついて来い」
その見た目からはギャップのあるセリフを言うと、聖加は食堂の椅子から立ち上がった。