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第118話  角



要は言った


「浄土に送ってやることが、聖加に最後にしてやれること」・・・と


大塚さんは言った


「死は、苦しみから解放されること」・・・と


しかしニコルちゃんは、首を横に振り続けている。

そうだろう、まだ幼いニコルちゃんに 死 が選択肢にあることを突き付けるなんて、ニコルちゃんが受けいれるはずがない。


そして死を拒否し首を横に振り続けることが、幼い子供が駄々をこねているわけではないことを、ここにいる者は皆知っている。


なぜなら・・・ニコルちゃんは愛する母親を亡くしているからだ。

死が永遠の別れになることを、彼女は小さな体に刻み込むように知っている。


知っているからこそ、受け入れられないのだ・・・


「グゥアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」


山が震えるような爆音がした。


鬼が怒り任せに、叫び、猛烈な力で石壁をこじ開けている。

そして、自らの体から発する炎はますます勢いを増し鬼の全身を劫火で包み込み、更には鬼の背後にある小さな御堂までその熱で燃やしだした!


「大塚さん!何か解決方法は無いのか!?」


俺と要で千年とニコルちゃんを背でかばいつつ、大塚さんに大声で尋ねる。


「・・・・・」


大塚さんは無言で頭を振る。


打つ手無しかよ!


「ガアアアアアアアッ!ガアアアアアアアッ!ガアアアアアアアッ!!!」


全身から炎を噴き上げながら、鬼はとうとう厚い石壁から腕を突き出し、怒気に満ちたするどい眼光を見せる。


マズい!このままではまた鬼が暴れまわる!!

何か!何か手は無いのか!?



異世界だろうと現実世界だろうと、聖加は鬼になってしまう運命だったのか!?


いや・・・


異世界に変化するようになってからの聖加は眠っているばかりだった。


そして・・・以前には無かった角が生えだした・・・


異世界のせいでこんなことになってしまったのか?


一体何が正解なんだ!?


だが、異世界だからこそ出来ることがあるのかもしれない!


現に今魔法を使って、鬼と戦うことが出来ているじゃないか!


そうだ!きっとこの手なら・・・!


「要!あの角を折れば聖加はもしかして元の姿に戻れるんじゃないか?」


俺は石壁を破ろうとしている鬼に対して、間合いを見計らっている要に問いかけた。


「いや・・・そんな話は聞いたことがない・・・」

「我らはただ鬼を浄土へ送る事だけが、これを終わらせる手段だけとしか、知らぬ!」


冷たくそう言い放った要だったが、ちらりと見える横顔は少し動揺しているように見えた。


「グルルルルルルルルル・・・・・」


妙な唸り声を上げながら石壁からヌッ抜け出すと、鬼は再び姿その異形な姿を現した。


鬼は先程まで火炎を噴き上げていたが、今は収まっているように見える。火炎を使いすぎたか?


「出て来たぞ!」


そう要は叫ぶや嫌な、鬼の元へと瞬間的に移動して鬼を羽交い絞めにした!


「尊!重力魔法だ!」


「そして千年!俺が押さえている間に 聖加の眉間を射るんだ!」


要は俺達にそう叫ぶと、渾身の力で鬼を締め上げる、恐ろしい力だ。


「グラビデ!」


俺は要に言われるがまま重力魔法をかける。


すると地面がボコり!と、まるで隕石が落ちたかのように円形状に割れてへこんだではないか!


「グッ!」


要が唸った。それはそうだ、鬼と共に強烈なグラビデを食らえば要にもかなりの負担がかかる。

そして俺は異様な光景に気づいた・・・


うっ!なんだこれは!グラビデを食らっている鬼の背後にある燃え盛る御堂が鬼を取り囲むように複数見える!

重力レンズか!?


俺の魔法はそこまで強いのか!!


そんな魔法を食らっては要も無事ではすまないぞ!


俺は魔法をキャンセルしようとした瞬間、俺の隣にいた大塚さんがガクリと膝を地につけた。


「尊さん・・・そのまま・・・そのままで・・・要さんは大丈夫ですから・・・」


眉間に皺を寄せ苦し気な表情を見せながら、大塚さんは片手の拳を突き出し指輪から光を放ち続けている。


支援・・・を、しているのか?


グキッ・・・グキッ・・・


鬼なのか・・・それとも・・・要からなのか、骨のきしむ嫌な音が聞こえてくる。


「千・・・年・・・早く・・・」


聖加の姿をした要がかすかにこちらを向き、矢を射ることを促す。

その口元からは つーっと鮮血が流れる・・・


千年はガクガク震えながら矢を構えるが・・・肩が震えて一向に方向が定まらない。


「千年さんっ・・・駄目ですっ・・・」


ニコルちゃんが涙を流し千年の前に両手を広げ立ちはだかる。


「ニコルさん!そこをどきなさい!もうこのチャンスを逃すと・・・!」


大塚さんがニコルちゃんに大声を上げる。


「そうだ・・・もう・・・終わりにしてやろう・・・」


一番苦しいであろう・・・要はニコルちゃんにそう声をかけニッコリ笑うと顔を鬼の顔へと向けた。だが、そこからは聖加の顔は見えないはずだ・・・それでも要は一目聖加の顔を見たかったのだろう、鬼を見続けた。


「うっ・・・ふうっ・・・」


ガクガク震えながら涙を流し、千年はゆらゆらと弓を構え続ける。


「苦しかろう・・・そして今までも苦しかったろう・・・邪気と言っても、その本質は人間の怨念、恐怖、妬みだからな・・・ああ・・・全部負の感情だ・・・」


要は鬼と化した聖加にだろう、語り続ける。


「それを、お前は全部今まで一人で背負ってきた・・・何も言わずに・・・」


そうだ・・・な


聖加はこの世のすべての負の感情を受け入れて来たんだ・・・


鬼にもなる・・・



「尊っ!」


要が背中で俺に大声で語り掛ける。



「この決着!お前が決めろ!!」



「 お前しか いないんだ!!!」 




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