異質な教室、異質な生徒 【後編】
そこには巨体が立っていた。
新品とは思えないほど破けた制服、ボロボロの鞄や靴を身に付け、首には炎色の 刺青を入れている。身長は前に立っている【巨人】よりは大きくないが、それでも180は確実に越している。
皆の視線はドアの方向に集まる。
【巨体】はあたりを見渡し、そして「ハッ」と言い捨て、教卓の前を通りつつ、歩みを進める。
「生意気なヤツだ」
どこからか声が聞こえた。
発信地は教卓前の一番前に座る男生徒だ。
「あ?てめぇなんつった」
【巨体】が目指していた列の一番端の手前、つまりは教卓側から見て二番目の列辺りで歩みを止め、その発信源の方向へと視線を向ける。
その【発信源】は何も言わず、彼のことを睨んでいた。
「…………そうか。そうなのかよぉ!」
【巨体】は【発信源】に殴りかかる。ただの殴りではない。彼の拳から一瞬で炎を生成し、そのエネルギーを加速、威力増大へ変換させた。威力は並の兵隊が使う「上級術」よりも上だ、がしかし、その【発信源】は殴られると同時に水色のベールを生成する。
「いてぇ!?」
このセリフを言い放ったのは【発信源】ではなく、【巨体】だ。
「反射シールドも警戒しないなんて、やっぱりヤクザの息子は脳筋なんだな」
【発信源】は席をゆっくりと立ち、反動で膝をついた【巨体】を見下した。
「……………てめぇ、よくも……やってくれたなぁ!」
【巨体】は体制を整え直して、【発信源】へと拳を向ける。
「無駄だ」
【発信源】は拳を握り、これまた同じ一瞬で氷を生成し、【巨体】の顔へと向ける。
「……貴様ぁ!」
「ふっ……」
二人とも拳を振り被り、盛大に炎と氷が交わろうとする。しかしその瞬間___。
「「いたぁ!?」」
【巨体】そして【発信源】共に脳天へ殴りが入る。
双方が発動していたシールドを難なく破り、そのダメージに対する反動の影響で二人は腰が抜けた。
「……お前ら、誰が喋って良いと言った」
二人は視線を上げる。目線は下でも真っ直ぐでもない。上にあげた。
日焼けした熱苦しい彼の顔は眉間に何本もしわが入っており、そして噴火寸前の火山のような目だった。
「………………誰が良いと言ったか言ってみろぉぉぉぉ!!!」
【巨人】は叫んだ。
それはもう鼓膜が破れそうなほどに。
二人は黙ったまま、【巨人】の顔をぽかんと見上げるだけだった。
「……お前らはまだ入学式を終わらしていないから、この辺にしておくが、この式が終わった後あのような行為があれば指導の対象だ。いいか。校内で俺らが良いというまで魔術と体術は使うな」
声のボリュームを倍以上落とし、静かな声でゆっくりと説教をする。
二人は黙ったまま頷いた後、ゆっくりと立ち、席へとつく。
「………時間だ。まずは入学おめでとう。R組担任の原航はらわたるだ。一年から三年の体学を教えている」
するとその【巨人】いや原先生は明るい口調で話し出す。
「R組は35人だが、しばらくは34人学級となる。一人は海外留学で半年程帰ってこない。帰ってきたら優しく出迎えてあげてくれ」
辺りを見渡すと隣の列の一番後ろ以外全て席が埋っている。あの空席はその留学生の席なのだろう。
「まもなく入場だ。出席番号順に廊下に出て一列で並べ」
原先生がドアを開け、左右確認した後、俺たちの方へと振り返る。
「ついて来い」