三回戦 【豪炎の騎乗王】VS【伝説の雷神王】【後編】
運命を変えるという行為はあり得ない。
その運命を変えた、と錯覚している道はそれすらも運命だから。
だから人々は運命という言葉に囚われ、美化されているのである。
ハッキリ言おう。
運命は産まれた時点で決まっているのだ。
× × ×
審判は三年生の主任伊勢川先生。
バトルフィールドは今までの二倍以上。技の選択肢が増える生徒もいるだろう。
正面向かい側には宇陀野蛇がいる。
冗談抜きで人を二、三人は殺ってそうな目つき。限界寸前まで鍛えたであろう筋肉。
それらが彼のオーラを引き立てる。
両者銃を構え、試合開始まで待機する。
この時間は人生の中で一番長く感じ、緊迫感が溢れる。
この勝負に勝てば準決勝、勝つことを想定することは大事だが、油断は禁物。
だから俺は神経を研ぎ澄ませる――。
「Dブロック。三回戦。宇陀野蛇VS和田伊尾屋。開始――」
「死ねぇぇぇぇぇ!!」
高速で銃弾を放つ。
まるで何も考えていない。
俺は瞬時に右横に反れ、反撃をする、だが――。
「……隙ねぇな」
一度でも油断したらその時点でゲームセット。なおかつ、常に頭を狙っている。
銃はレベル〇だとしてもこの常に飛翔している物体は無詠唱魔術中級の炎を纏っている。
上級ではないにしろ、当たればそこで怯み、宇陀野のことだから死体撃ちをするだろう。
そうなればかなりの致命傷を負うことになる。
だから立ち止まらずに、避けるスピードを変えずに、反撃しなければならない。
「…………雷風ッ」
僅かにできた隙間を利用して攻撃する。コンマ一秒でもを間違えれば俺の敗北だ。
彼はひたすら攻撃を続ける。
(……弾切れないな)
銃を避けることに頭一杯になっていたが、一つの違和感に気付いた。
避けつつ、ふと後ろを振り返る。
ここでこの違和感いや、マジックの謎が解ける。
普通であれば弾は床に転がっている、もしくは壁に突き刺さっている。
だが、振り返れば弾は床にも転がっていないし、壁にも突き刺さっていなかった。
俺は宇陀野が放つ銃弾を真正面から受け止めた。
何も痛みを感じない。熱くない。そう、これは――。
「――幻想」
俺がそう呟いた瞬間、炎の雨あられは止んだ。
宇陀野は顔を豹変させる。通常であればこれに気付かれてしまえば、作戦の八割が崩れる。だが、彼はこれを読まれることが作戦だと思うが如く、口角を全面に上げて、一層不気味な笑みを浮かべた。
「そうだ正解。避けるのが強ければ強いほど気付かない。もしこれが本当の銃弾ならば俺は無駄に乱射せず、一発で仕留め上げる。ここはニッポンイチの学校だということを忘れたか?」そして彼はやはり作戦のためにこれを作り、そして――。
「残念時間切れ。俺様の勝ちだ」
宇陀野の背後から、炎を纏った二輪車が出現する。
そう、これが豪炎の騎乗王と呼ばれる理由。
彼はその二輪車に跨り、こう叫んだ。
「ここからが始まりだ。豪炎の申し子、騎乗王蛇様のなぁぁぁぁ!!」
× × ×
宇陀野は銃弾を挿入し、俺の頭へ狙いを定める。
「さっきみたいな、おもちゃのエアガンじゃない。何せこの銃弾がレベル〇だろうが、俺様の炎さえあれば、どんな守りを固めようとも、全て貫通させる。最悪この部屋を火の海にして殺す」
「…………」
あの銃弾の鬼吹雪が、ダミーであったことに安堵しつつも、彼がどれほどの実力はまだ目に見えていない。だから俺の心中に現れた安堵は一瞬で、気を許してはいけないという緊張感が暗雲となって襲う。
「……喰らエェ!」
銃弾が飛び放つ。しかし、俺に向かって撃った筈の弾は俺に掠りともしない。
そう、これは攻撃をするための銃弾ではない。全国でも数百人しか使えない秘伝の技。
これが、宇陀野蛇が、エオズ学園、しかも最高峰のR組に入学できた理由の一つである。
そう、これは――――。
「――――固有結界」
× × ×
自力で架空の炎製二輪車を創り、さらには固有結界まで創った。
それも無詠唱で。
しかも俺や宿のようなただの固有結界ではない。
街があり、人が歩き、道路があり、バスや車が走り、木があり、水が流れ。
――そして、紅い、紅い熱気で霞んだ空がこのジオラマのような世界を包んでいた。
「これが宇陀野の固有結か――」
「お前の負けだ」
背後をとられた。後頭部を銃で突き付けられ、そしてふと気が付いた時に発砲されていた・・ だが、俺は気が付く前に、身体を避ける。気の緩みが赦されない勝負とはまさにこの事を指すのだろう。
「……」
宇陀野は二輪車を前に突っ立ち、俺を睨む。
「素早しっこいヤツだ――俺の相棒本気にさせるとエネルギーの使用量半端ないからあまり使いたくはないが、まあいい」
宇陀野は二輪車に飛び乗る。すると薄赤だった二輪車のボディが真赤になる。
「これはただのバイクじゃない。そうだな、強いて言うなら『俺様の念力で動く音速の火炎車』」
俺は嫌な予感がした。だから俺は電気の力を利用して、颯爽と街の中へと逃げ込む。
リアリティの高さに感銘を受けつつ、戦略を練る。
熱気が増す。
ポケットからハンカチを取り出し、汗を拭う。
だが、そんな余裕などを与えない視線――気迫、振動。
そう、彼の言う音速は、本当の音速だった。
「ヒャッッッハァァァ!!!!!」
一瞬で俺に追いつく。
この二輪車の走る姿は煌びやかで逞しい。騎乗王は銃の乱れ撃ち――乱射だ。
だが、この乱射は狙って撃っていない、隙だらけだ。
本場戦のあの素早い銃撃でもない。
「雷風ッ、、、狙いがイマイチか」
当然向こうは暴れ馬状態、狙いを定めるも何もない。相手側は確かに乱れ撃ち、しかしそれが仇になり、彼が発する銃弾は規則性がない自由型。相手の行動が予測できないことはどれほど恐ろしいことか。人間生きていれば理解できる話だ。
「…………ッ」
どんな固有結界でも必ず隅はある。宇陀野の場合は底面四角形の直方体なので四つ。
現在地は北北西、最寄りの隅は北西の隅。
俺は銃弾を跳ね除けつつ、隅に駆け寄る。
「……これが」
これが宇陀野蛇の固有結界北西の隅。
真っ赤な壁がこの世界を包み、そしてうっすらとその壁の内壁に黒曜石のような岩石が埋まっていた。
「…………ッ!」
また、同じあの気迫が俺の勘を押し殺す。
「待てぇぇぇぇやァァァァアアア!!あン!?」
俺は逃げる。北東へ、南東へ、南西へ。
逃げることが勝ちな時もある。
宇陀野蛇は暴走中。火に油を注いではならない。
正直こんな戦法で勝てるとは思っていない。
なぜならこれはただ逃げているだけで宇陀野に対しては何も攻撃していないからだ。
俺は何のために逃げている?
男なら正々堂々と正面から闘うのが普通ではないか?
「……………………違う」
俺は姑息な手段を使って相手を沈ませようなんて思ったことが無い。
産まれてから、一度もだ。
ただ、正面から戦えない時若しくは勝率がうんと低いとき。
俺は質問した。父にも、伊予さんにも。
こんな場面のとき、どうすればいいか、って。
そしたら二人とも口を揃えてこういった。
『知力の糸を張り巡らせろ』
建物を倒壊させる。人々は悲鳴を上げ、クラクションや緊急音が鳴り響く。
これは逃げでも時間稼ぎでもない。
「……見つけたアァァァァァ!!!!」
後を追うこのベルセルクはもはや自我があるのかも危うい。
そう、これが俺が彼に向ける刃であり、王手。
「……隙は与えないッ!雷風ッ」彼の銃を正確に狙う。失敗は許されない。「雷の門よ開け、爆雷」
発砲は止めない。至近距離でも焦らず。二輪車のハンドルを掴み。銃の持ち手を振りほどかせようとするが、鉄のように固い。相手の発砲で右腰を狙撃されるが、微出血。なんてことはない。
「……」
一旦距離をとる。互いに弾交換、だが双方腐ってもニッポン最高峰の学校に通う者。コンマ一秒も掛からない。
ここで大きく深呼吸。発砲弾を避けつつ、狙いを定める。持ち手と素手が交わう箇所。
「……そこだァァァァアア!!」
ヒット。最低限の電力を込め、無詠唱で放った。
宇陀野の手から銃が零れ落ち、地面へ、からんからん、と音を立てる。
「ウァァァァァァァアアアアアア!!!!」
暴走は止まない。だから俺はこの不細工に奏でられた旋律に終止符を打とうと、そう決意する。
「――雷蜘蛛の王女よ。今こそ目覚めの刻。貴女の時雨色に彩られた何万という糸は静寂の餌となるだろう」
「天 上 万 刻〈スパイダー・タイム・クォーター〉」
四方から青白の糸が高速で流れ、宇陀野と二輪車を包む。
これが、四隅に移動した理由。この糸の源を地面に張り巡らさせたのだ。
ただ、これはあくまでも相手の動きを封じるに過ぎない。
だけど、この複雑な糸を解く頭脳がない彼にはこの技が効いた。
宇陀野は糸で絡まった状態でも暴れ回る。二輪車は完全に鎮静していて、覇気を感じない灰色と化していた。
ここで彼に猶予を与えてしまえば、魔術を使って糸を燃やそうとするかもしれない。だから、俺は早いうちに、王手、いや『最後の王手』を打つのだ。
「告ぐ。雷神よ。集え。満悦の力を発揮し、満悦の力を納めよ。許されずとも生命に生を与え、生命を殺す。許しを和らげ、死を幸福とし、人々の生を害する。その不幸は天秤では量り知れない重さだった——」
「䢮 上 䢮 神〈ライトニング・デストロイ・ゴッド〉」
光が包む。
辺りが見えなくなるほど眩しく、白霧に襲われたような感覚になる。
固有結界は崩れ、元の場所へと戻る。
宇陀野は仰向けになって倒れている。
俺は直立で立っていたが、右腰の痛みが急に襲い掛かり、床に倒れ込んでしまった。
「第三回戦Dブロック勝者、和田伊緒屋」
双方緊急隊員らしい人に囲まれ、手当てを受ける。
無詠唱で魔術を使い、無詠唱で二輪車を出現させ、無詠唱で固有結界を発動させた。
推薦入試でR組に入学出来た理由。
その宇陀野蛇という人間に勝ち、準決勝へと駒を進めた。
それがどんな偉大なことか、考える頭も無かった。
だけど、きっと、これがまだ通過点の入り口なのであれば――。
優勝は、少し遠いモノなのかもしれない。




