三回戦 【豪炎の騎乗王】VS【伝説の雷神王】【前編】
俺様の名は宇陀野蛇。
キタセンジュにある『宇陀野組』組長の息子。
『蛇』なんて、組長がいかにもつけそうなTHE DQNネームだ。
小学校に入学して間もない頃、早々にクラスメイトにハブられた。ヤクザの息子と聞けば当たり前と言えば当たり前だ。
親からの扱いは酷く、学校が終われば万引きや放火、盗撮や喧嘩の取っ組み合い、日替わりで犯罪や暴力のメニューを毎日こなした。サツの補導も数え切れない程受け、完全な問題児だった。
中学の時、自分自身の能力に気づいた。
人よりも少しだけ。少しだけ、強いということに。
だから、というのもオカシイが。
俺様は中学に通わず、ひたすら家の大広間で魔術や体術の特訓をした。魔力を回復するババアを金で雇い、ただひたすらに血が滲み出るまで、特訓をした。
周りの奴らは道場に入門したり、大会に出たり、と如何にも中学生らしい生活を送っている中、俺様はそれらを断ち切り、本当に卒業するまで独学で修行した。
何を目的としているのかも判らずに。
ただひたすらと——。
あの決意した日からニ年。
俺はニッポントップレベルで強くなった。
タイマンを張るってなら、高校生だろうが、軍人だろうが、いつも流血するのは相手側。
三年の夏に高校の進学を決意。
唯一俺に対して優しかった母親に進学の意を伝えた。
ただ勉強が出来れば、サクラ高やメグロ高くらいであれば楽々入れたが、もちろん中学に通ってないので勉強は出来ない。過去問とやらを見てみても何書いてあるかさっぱりだった記憶がある。そこで推薦入試を母親に勧められた。
現代ニッポンである高校の推薦制度は、三種類あり、海外特選、無属性特選、そして総合推薦。
海外特選は海外からのニッポン高校進学希望者が受ける試験。ただ世界中で戦争が多発しているため、別枠で厳正な試験形式だ。
無属性特選は無属性生徒を入れる為の入試。殆どの学校が取り入れている、一番大きな枠だ。
そして総合推薦とは、勉強の能力は問われず、それに対して魔術のみの実力で問われる試験だ。ただし、他の教科を受けない代わりと言ってはなんだが、ただ強力な技を撃てればいいのではなく、多彩な芸当要素ができる者、例えば水魔法で噴水を造ったり、菜属性であればフラワー庭園を創造したりと、こんな感じで芸が必要なのだ。
しかし、上位校は総合推薦の制度をほぼ設けず、唯一設けているのは、ニッポン一の国立高校エオズだけだ。
で、俺様は結局エオズに受かったワケだが、試験の時にどんな芸を披露したか。
それは——。
「……ったく、【豪炎の騎乗王】舐めんなよっ」
× × ×
試合を見て気づいたことはないだろうか。
そう。
試合の最後にこのレベル〇の銃で相手を撃つ。
これが公式戦だろうが非公式戦だろうが、暗黙の了解で決まりごと。
実弾といえば実弾なのだが、空砲に近い、そして威力も弱い、子供相手に撃ってもかすり傷の様なモノがつくだけ。
魔力を込めたら〜とか、威力倍増の魔術を持っていたら〜とか、そんな説明が長くなるような話は今は割愛する。
とにかく試合のラストにはレベル〇の銃を撃つ、ということを覚えてくれたら良い。
「さて、確か相手は——」
宇陀野蛇。
炎属性の持ち主で入学式や食堂で暴れた人間。
白いペンキでピッチリと塗られたような、真っ白に染まった廊下は所々黒い引っ掻き傷の様なものが付いていた。
「部屋は四階四S教室か。今までとは違う大部屋だから、技の範囲も広がるな」
四階以降は大部屋。そして五階は屋上で丸々一面バトルフィールドになっている、とは説明を受けていた。
「宇陀野蛇か。ただのチンピラではないことは十分承知だが、総合推薦一枠合格者だからな。まったく油断は出来ない」
普段はしない分析をボソボソと呟きながら軽く足音を立てて階段で上る。
「あと、宿は水野浦との勝負は決勝だなんだ言ってたけど、準決勝じゃねえか。デマ流すんじゃねぇデマを」
ほんの少しだけ口角を上げて、トーナメント表を振り返る。仮に宇多野を倒すことが出来れば、俺は水野浦と闘うことになる。
俺らとは一味も二味も違う桁違いの強さを見せ、東ニッポンチャンピオンの宿を僅か数秒で試合に決着をつけた最強の水属性の使い手。
「……っ」
一瞬だけ感じた悪寒を投げ払い、階段の最上段をパチッ、と音を立てて踏む。
「……………」
四Sと書かれた文字の下に大扉だからか、『三回戦Dブロック』と丁寧に大きな明朝体で書かれた貼り紙があった。
軽く唾を飲み、ドアノブを握った瞬間——。
「おい」
威圧的な声と共に俺の肩に重圧的でゴツゴツとした手が被さる。
「……なにか」
「お前が和田か?」
「……そうだけど」
正体は案の定——というか、宇陀野蛇だった。
「そうかそうか。お前が和田か」
不気味な笑みを浮かべるも、その笑顔は一瞬にしてゴツゴツとしている岩石のような険しい顔に変色する。
「なぁ和田、俺と一つ契約をしないか」
「断る」
一刀両断。
何の躊躇いもなく、断りの意を告げる。どうせ天秤に釣り合わない、訳の分からない契約だろう。
「まぁまぁそう言うな。これは一回戦目も二回戦目の相手も受け入れたモノだ。それ位、良契約ってことだ」
「…………聞くだけ聞いてやる」
口調と言葉のスピードからこれ以上文句を言ったら面倒臭いことになりそうな事くらい分かる。
「契約は簡単。不戦勝で負けろ。もし受け入れなければ不慮の事故としてお前を殺す」
「……」
やはり、だ。
天秤に合わなさすぎる。頭のネジ外れてるのかコイツは。
「どうだ。悪くない契約だろ?俺と闘って生きている、っていう称号貰えるんだぜ?」
「断る。何も天秤に釣り合ってないし、そんな称号貰っても生涯一度も使わない。第一、その一回戦目と二回戦目の相手は誰なんだ」
「ああ、たしか、うえ何とかっていう女とあざ何とかっていう男だったな」
うえ何とか、っていうのは植澤……で、あざ何とか、っていうのは無属性魔術使いの麻布凪乙だろう。
「……とにかく、その契約には飲み込めないな。絶対」
「ほう、殺されてもいいと」
「勘違いするな。ここはニッポン最上位の学校で最上位の魔術を扱うことができる奴らが集う場所だ。で、お前は運良く攻撃メインの奴じゃないからその契約を受け入れただけだ。けど俺はそいつらとは違って攻撃しかできない野郎だ。だからお前を倒し、優勝を掴む。これが俺がお前の契約を受け入れることができない理由だ」
沈黙が生まれ、時の流れる速さがゆっくりとなる。
三階より下の古汚い蛍光灯ではない、最新式のLEDライトが俺たちを照らす。
「…………ほぅ。俺と殺る気か?」
「殺る、なんて怖いこと言うな。これは試合であって戦争ではない。いいから中に入るぞ」
ドアノブを回し、扉を開ける。
俺の肩を握る強さが強くなり、宇陀野の鼻息や口息が混じった雑音が俺の耳を駆け巡る。
「殺るのか?そうか殺るのか。じゃあいい。お前をブッ殺すっ!!」
化けの皮が剥がれた蛇。
あの凶暴で有名な宇陀野へ顔、動作、口調はカメレオンのように変色する。静かな廊下に彼の雄叫びが響き渡る。
「ああ。殺せるもんなら殺してみろ」




