中間成績I
一階の最奥。
魔術大講義室。魔術Aの座学を受ける場所だ。
その行く道——。
「……やっぱ全国制覇者は違うな」
——龍川宿。
風水のアクエリヒューチャと呼ばれるが、全国制覇を逃した男。
「……馬鹿野郎、自分を下げるな」
——和田伊尾屋。
伝説の雷神王と呼ばれ、全国制覇をした男。
「……で、どこだっけ、大講義室」
「……奥の階段を降りたすぐだろ」
戦闘に疲れたせいか、会話は途切れ途切れ。
俺は魔力が切れ、宿は全身ボロボロだ。
満身創痍の男二人がフラフラと歩き、そしてようやく階段前まで辿り着いた。
「イテテテ……」
そう呟いたのは負けた宿ではなく、勝った俺だった。宿が撃水を連発した際に一度だけ肩に直撃したのが段々と痛みとして現れてきた。
「大丈夫か?休憩終わったらすぐ三回戦だぞ」
「……ああ、まぁ治るだろ」
そんなこんなで宿に支えられながらも大講義室前に到着した。
× × ×
「お!伊尾屋じゃん!お疲れ!」
「宿もお疲れさん!」
「和田くんカッコ良かったよー!」
「宿も凄かったぜ!」
クラスメイトが出迎えてくれた。
部屋には大量のモニターがついていて、各フィールドの部屋全体が映し出されていた。
「……あ、ありがとう」
宿に身体を支えて貰われながらの入場。空いている背もたれ椅子に座り、ひと息つく。
「和田君!大丈夫ですか?あ、これ。水です」
「……ああ」
——水栗一平。
水髪で背が低い。宿曰く、解析技術がスゴいらしいが、未だその能力は明かされていない。
憂わしげな表情をした水栗がボトル水を渡す。
蓋を開け、喉を潤し、生命力を復活させる。
「いやぁ、生き返るな。ありがとう」
「いえいえ。『全員に配っておけ』という先生の指示がありましたから。当然のことです」
「怪我は大丈夫なのか?」
「はい!もう完全回復です!傷を治すのは得意ですから!」
傷があったところが塞がり、もうほぼ完治というか、完全に完治している。
「嘘だな。誰かにやってもらっただろ」
「…………流石、ですね」
水栗がそう言った瞬間、眼鏡をかけたクラスメイトが手を振りながら駆け寄ってくる。
「和田くーん!龍川くんとの試合見てましたよ!あ、水栗くんも!私の治癒魔法効きましたか?」
さて、これがアンサーというわけか。
「よ、植澤。お前が水栗の傷治したのか?こんな短時間で?」
——植澤揚子。
深緑髪の三つ編み、そして青フレームの眼鏡をかけている。入学以来、彼女の能力を微塵も知らなかったが、ようやく【治癒魔術】の所持者であることが判った。
「はい。これは治癒魔法の上級魔術。数秒で傷を治すことができるのが特徴なんです」
治癒魔術持っているということは、これが使える唯一無二の属性。【菜属性】だろう。
「……でも上級魔術だったら結構魔力消費するんじゃ——」
「えっと……いえ、その、治癒魔術を自分自身に使えば、その心配はないん……です」
思い出した。
周りに菜属性のヤツが居ないからか、そんな基礎的なことすらも忘れてしまっていた。
菜属性というのは、主に二種類に分類され、一つ目は草木を利用した攻撃。二つ目は自然の癒しを使った治癒魔術。
一つ目は説明しなくてもいいだろう。
その内エオズにいれば、大技をぶっ放してくれるヤツがいるはずだ。
さて二つ目、そして植澤の能力である治癒魔法について、少し補足したい。
回復量は初級・中級そして上級という順で増える。傷を治したり、魔力を回復させるのが、主な役目であり、使命である。
ただ、それと同時に回復量なりの対価として自分の魔力を削るのだ。つまり、上級魔術を使えば、魔力の減りは大きいし、初期魔術を使えば、魔力の減りは少ない。
そして自分の魔力が削られば、誰が回復するのか。
それはもちろん自分自身で回復。
つまり、自分の魔力を削りながら、自分の魔力を回復するのだ。
一見変に思うかもしれないが、その思う点は安心して欲しい。
絶対に魔力を削られる量より、魔力を回復する量の方が多いのだ。
技を使えない代償という意味か、魔力の扱いを一番効率よく使える属性だろう。
「まぁ仕方ないですよね。菜属性の人少ないですし……」
彼女は肩を落とし、床を見つめる。
「ごめん。なんか、そのあれで——」
「和田ー!やっほー!」
そんな若干シリアスな空気を学園モノ風に作り上げようとした瞬間、それをブチ壊そうとする者が現れた。
「あ、揚子ちゃんも!やっほー!」
——江頭純恋。
紅赤髪のポニテをブンブンと揺らす天然少女。俺とは幼馴染で、美人というよりかは可愛い系だ。一回戦目で敗退したらしい。
「あれれ?邪魔しちゃイケナイ雰囲気だった?」
「あー、オケオケ邪魔じゃない邪魔じゃない」
早口で虚言を吐き、彼女の天然ぶりに呆れる。
……イヤ、別に。シリアスの深掘りを防いでくれたことに関してはナイスかもしれないが。
「あ、龍川もいる!おーい!」
近くのベンチに前屈みの態勢で座っている、いや優勝の道を阻まれて落ち込んでいる宿にムチを打つような感じで手を振りながら応答を求める。
「……え……あぁ。すみちゃん、やっほー」
宿は振り絞った力で手を振り返す。
すみ。苦し紛れな笑顔を見るとなんか辛いから今すぐ止めろ。
「……えぇと、すみさん。宿は今アレだから。そっとしといてあげて、ね?」
「え?なんで?」
なんで?じゃなくて。いいから俺の言うことは聞け。この天然ドジっ子娘が。
「ま、いいや!先生来たし!それじゃあね!」
「……え、ああ」
結局、あの中学時代と変わらず、一時の嵐を巻き起こし、そしてすぐさま去って行く。
そしてすみの言った通り、寝川先生が来た。
辺りを見渡すとほとんど、いや全生徒が揃っていた。
寝川先生は、教壇らしき机の前に立ち、モニターを用意する。
「適当でいいから座れ。今から中間結果の発表を行う」
× × ×
大学のような大講義室。
椅子や机は焦茶色をした木製で、相当使っているせいか、所々粗い部分がある。
教師が立つ教壇を円の中心と考えると、生徒が座る椅子群は半円状に形作られており、そして教師のすぐ裏側には大きな黒板が一つ掛かっていた。
「……全員揃っているな。では早速結果発表を行う」
寝川先生は手に持っていたリモコンを押すと、黒板の前にモニターがゆっくりとおりてきた。電源を即座につけ、タブレットを弄り、モニターと連動させる。
画面には簡易なトーナメント表が浮かび上がり、三十四人のクラスメイトの名前がずらっと並ぶ。
「……人数の都合上、調整が必要だったこの試合だが、無敗の者は二回闘っているだろう」
三十四を二で割ると十七。
寝川先生が『調整が必要』と言った理由は、トーナメント表は奇数が出るとズレが生じてしまうから。単純な話だ。
「……さて、コレから名前を呼ぶ者はこの激しい争いを勝ち抜いた、R組、いやニッポン最上位の猛者だ。そして紹介と同時に三回戦以降の対戦相手も発表する」
勝ち抜いたのは八名。
一回戦目で半分が脱落し、二回戦目でまた半分が脱落する。相当残酷なモノだ。
「……三回戦Aブロック、金草朝秀と庄司麻弥。Bブロック、谷輝夜と牧野癒音——」
——金草朝秀。
入学式の日に【巨体】と争ったあの【発信機】だ。
——庄司麻耶。
彼女に対してあまり詳しくはないが、とにかく強いらしい。土属性の持ち主。
——谷輝夜。
第三十期生副首席。氷属性の持ち主。異名は【輝く月の女王姫】。
——牧野癒音。
すみではない方の天然娘。意外にも炎属性。
「……Cブロック、水野浦真希と天保信吾——そしてDブロック、宇部野蛇と和田伊尾屋」
——水野浦真希。
第三十期生首席。水属性の持ち主。異名は【水神の暗殺者】。
——天保信吾。
氷属性で上級魔法を無詠唱で唱えることができる凄腕者。
——宇部野蛇。
入学式に教室や食堂で暴れた不良。
そして今回の対戦相手。
——最後に、俺、和田伊尾屋。
今気がついたのだが、このクラスに雷属性を持つ者は俺一人らしい。すんなりと言ったが、数種類しか属性がないと考えると、中々な確率だ。
「……以上だ。この休憩後、直ぐに勝負を始める。敗者はこの部屋で待機するように」
モニターを消し、荷物を纏めて、教壇から離れる。
この部屋から退出したのを確認した後、沈黙から騒然に変わる。
「この中で勝ったの伊尾屋だけか。やるなぁ」
宿がそう呟いた後、プライドが高い天才集団の威圧的な視線が俺に集まる。
「……和田くん。魔力キレてません?回復してあげましょうか?」
見える筈もない魔力の量を何故か植澤さんは見抜く。
「……え?ああ。何故お前が魔力の量を透視できるのかは言及しないが、よろしく頼む」
しかし、そんなことを考える時間は残っておらず、もう五分もしないうちに三回戦。
「……ではいきます。癒 上 回 復〈ヒールバケット〉」
すると一瞬にして魔力が溜まり、そして傷も塞がった。
「……癒上回復って、確か、上級魔法——」
そう。この回復量。ただでさえ少ない『菜属性』の回復系。そしてその中でもほんのひと握りしか使えない上級魔法だ。
「はい。その通りです。ただ私、戦闘ができなくて、一回戦の開始十秒でリタイアを選択しました」
回復系菜属性は唯一無二のヒーラー。
だが、戦闘ができない。
このエオズ学園において無属性以外で攻撃の一つもできないとまず試験は突破できない。
だが、彼女がこの試験を突破し、しかもR組に配属された理由——。それは——。
「……無詠唱」
上級魔法を無詠唱で発動できるのは、全属性合わせても〇.一%未満。それがどれだけスゴいことなのかは省くが、猛烈にレアでチート級であることだけは伝えておこう。
『……えー、2号館マイクテスト確認。一年R組に連絡します。三回戦出場の生徒は今すぐ各部屋の配置につくこと。以上』
ゆっくり歓談する隙も与えず、放送のお呼びが掛かる。俺は席を立ち、戦闘道具の確認をする。
「和田。頑張ってね!」
「そうだ。宇部野なんかに負けるなよ!」
「応援してるね!」
チームメイトの歓声。
数少ないがらも、その真心掛かった声を耳に収め、自信のエネルギーへと変換させる。
八人の猛者が歩みを進める。
いよいよ、この争いの頂点を決めるのだ。
最後に終止符の弾丸は誰が撃つのか。
頂点の中の頂点は誰になるのか。
後半戦が、今、始まる。




