二回戦 【風水のアクエリヒューチャ】VS【伝説の雷神王】
水属性ジュニア部門トウキョウ大会優勝。
水属性ジュニア部門カントウ大会優勝。
水属性ジュニア部門東ニッポン大会優勝。
そして。
水属性ジュニア部門全国大会準優勝。
まさかあの時の。
あの時の刺客、俺の連覇を打ち破った奴がこんな所でまた逢えるとは——。
俺は嬉しい。
龍川家最強とされた【風水のアクエリヒューチャ】として。
またリベンジしたい。
そんな想いを、またあの時のように打ち破ろうとする別の刺客が現れた。
「やっぱり勝ったのは伊尾屋か。これは俺が思っている以上に強いかもな」
× × ×
「よっ。松添には勝ったのか?」
「そりゃあ、ここにいるってことは、な?それで、お前こそ、水栗に負けなかったんだな」
「いや、押されてたときもあった。やっぱR組入学者は皆強いんだな」
何気ない話をする。
松添に勝った宿は傷一つ無く、体力も見るからに残ってそうだ。
「松添にはどうやって勝った?アイツはジュニア女子体術大会カントウ地区優勝経験がある。それなりの腕はあったはずだ」
「ああ。彼女は確かに体術を軸とした戦法で攻めていた。中々迫力のある動きだったよ。けど、アイツが凄いのは体術だけで、魔術や銃を応用して攻撃することがほとんど出来ていない」
鋭い口調で松添に厳しく評価する。
「……つまり、お前は自信があるってことか」
言葉の意図を読み取り、俺は彼に嫌みたらしく言った。
「……いや別に自信があるっていうより、勝たなきゃいけないからね」
「ほう。その理由聞いていいか?」
すると宿は目の色を変え、どこか遠くを睨みつける。口を歪め、そして銃を持った右手をブラつかせた。
「水野浦真希。エオズ学園第三十期生首席。俺はアイツに全国大会で負けた」
「……だから、リベンジすると」
水野浦に関しては多少は知識がある。
ナゴヤ出身。異名は【水神の暗殺者】。
一瞬にして相手を仕留め、数々の賞を獲り、ここまで無敗である。
「ああ。あれは中三のフチュウで行われた準決勝大会だったか。開始二十秒で仕留められて、盛大に開かれたフィールドは一瞬にして閉幕した。あんな屈辱、リベンジしなくてどうする」
このまま、宿も水野浦も順調に勝てば四回戦目で闘うことになる。
「……宿の熱い想いは伝わった。でもな、俺を倒さなきゃその先にはいけない」
「……ああ、だから最初から本気でいかせてもらう。覚悟はできてるな?」
「……臨むところだ」
宿はさらに目の色を変える。
炎のように熱い目だ。
俺も一回戦目のようなあんな余裕はつくっていられない。
一回戦とはほぼ同じ空間、だが、一つ大きな違いがあるとする。
「……なんだ、このヌメヌメのやつは!?」
「聞いてなかったのか?二回戦目以降、何かしらのトラップがある、と原が言ってたじゃないか」
この透明さ。粘着力。スベスベさ。
恐らくローションと見ていいだろう。
ハッキリ言って気持ち悪い。
「……審判は物理を教える岩取だ。龍川宿。和田伊尾屋。位置につきなさい」
二人は構え、完全に戦闘モードに切り替える。
「Hブロック。二回戦。龍川宿VS和田伊尾屋。開始!!」
× × ×
最初に仕掛けたのは宿。
沈黙はなく、ただ冷酷に攻撃を放つ。
「撃水っ。撃水っ。撃水っ!」
「……初期魔術の無詠唱か。やはり無詠唱は持ってるんだな」
俺は攻撃を避けつつ、相手の行動や攻撃パターンを読み取る。
そんなこんなで俺は壁の後ろに追い込まれる。
宿は攻撃をふと止め、強ばった表情で俺の顔を見上げる。
「少しは攻撃をしてみたらどうだ?」
「水栗にも同じこと言われたよっ」
俺は銃弾で宿を遠ざけ、少し距離をとる。
間合いを取り、戦闘態勢に入る。
「……今度は銃撃か。面白くないよ伊尾屋」
俺はさらに宿を遠ざけ、そしてまた彼も銃撃で対抗する。
「魔術がお望みなら。……電撃始動。それは、雷のごとく、そしてそれは、嵐の静けさのように——」
俺は銃を左手で持ち、右手を前にかざす。
「霧 前 雷 王〈フラッシュ・ライト・ビカーズ・エレクトリック・キング〉」
俺の掌から生成されたチップが転がる。
そして光が覆い尽くす。
周りは何も見えず。
「……なんだ?目眩しか!?こんな魔術見たことないぞ」
「当たり前だ。俺が通ってた道場でしか生み出すことができない秘伝の技だ」
「そうんなものがあるん——。くっ……!」
俺はアイツが目を擦っている間に「雷風」と呟き、攻撃する。
「……なんてね。全然効かねーよ」
「俺もこんなので倒せるとは思ってねーよっ!」
ここで魔術の撃ち合いになる。
お互い一進一退の戦闘で激しいぶつかり合いとなった。
「雷風ゥ!」
「くっ……」
丁度良い間合いが取れるのを確認したあと、銃を投げ捨てる。
俺は左手で右腕を掴む。
「……告げる。雷神とはなにか。王とはなにか。人々が辿り着けない領域を踏み入れることを許したまえ。如何なる嵐を乗り越え、竜巻を乗り越えた先には、その暁として祝福を捧げることを誓おう」
光が纏う。
黄金色の魔法陣が形成され、そしてその大きさは段々と大きくなっていく。
「上級魔術だ。耐えられるか?」
すると、宿はふっ、と笑い、俺と同じポーズをとる。
目を赤色に転換し、眉を顰める。
「……告げる。我が下僕よ。海を越え、嵐を越え、そして新大陸を目指そうじゃないか!出港の準備を手配し、あらゆる人々にその旨を伝えよ。ああ、神よ。己と己を闘わせることを誓おう」
それに対抗するようにまた彼も上級魔術の詠唱を唱える。
「雷 神 之 遣〈エレクトリック・ゴッド・スペンディング〉」
「海 血 大 船〈ブラド・ビック・シップ〉」
固有結界の衝突。
雷が鳴る陸と大波が揺らぐ海とが見事に重なり合う。
陸には荒れ果ててた大地が遠くまで広がっているのに対し、海には魔術で生み出した海賊を数人乗せた大船が佇んでいた。
「上級魔術、いや固有結界がぶつかるとこうなるんだな」
宿は船の先端に仁王立ちし、そして俺は一番船に近い大陸の端で佇んだ。
————固有結界。
上級魔法を使うと発動し、個々の空間で相手を閉じ込めることができる。
「……もう一度聞くが、覚悟はできてるか伊尾也。
……いくぞお前ら!狙いはあの人影のみ!打てぇぇ!!」
「ようやく本気か。最初から本気って言ったのは誰なんだっ!!」
的を俺に定め、大砲がこちらを向く。
それと同時に俺はその大砲を目掛けて雷を撃つ。
「なっ……!?大砲が折れない!?」
「そんなところ潰そうとしたって意味ねぇーよ!」
大砲による一斉攻撃。
俺はその四方八方に撃たれた弾を避け、見事に陸に直撃する。
「なんて威力だ……!こんなのアリかよ!?」
大陸が丸々穴が空き、虚無空間が誕生する。
華麗に避わした後、足で順番にステップを踏む。
そして雷を轟かせ、船に攻撃するが、宿本人はバリアを張っている状態だった。
「隙はできないか……」
俺はひたすらに雷を撃ち続け、そしてまた宿もひたすら大砲を撃つ。
「……チッ。雷風っ」
「またそれか。そんなもの効かないに決まってるだろ。お前がどんな魔力の持ち主でも無駄遣いはやめた方がい——おっと!?」
すると雷風が大船を揺らがせ、横転させる。
波が荒れ狂い、薄い白い雲は一気に厚い黒い雲へ色を変える。
「……雷風が効いたか。初歩の初歩のことを言っておくが、固有結界内でも魔術を使えるから。ま、魔術を二重で使うから魔力の消費は激しいが」
そう。
固有結界内で魔術を使用することはできる。
ただ上級魔術と単なる一般魔術を二重で使うと、膨大な魔力を使うのであまりその戦法を取るヤツがいないからか、忘れがちだ。
「‥‥確かにお前の大砲があれば人を瞬殺できるし、相当な戦力になるだろう。俺があの時威力を想定せず受け止めていたら、間違いなく俺の負けだった」
【雷嵐の海】というフィールドを創り、宿は生成した小型船で身体を構える。
「……そういった意味ではお前は長期戦向けだ。対して水野浦は短期戦向け。だからお前は短期戦勝負の訓練をした方がいい。そうすればお前はアイツに勝てるだろう」
実力は相応だ。
俺が創り上げた努力の結晶、〈大陸〉を難なく破壊した暴力の才能。
一発でも当たれば勝ちだ。
「……バリヤーオフ」
俺が一言そう呟くと、固有結界はすぐ様に消え、元のバトルフィールドに戻る。
「……船ごとひっくり返すとは、大胆だな」
距離が近くなり、宿の顔がハッキリと見える。
彼は俯いたまま、腰から銃を取り出す。
「だがよ、これで終わりじゃねーんだよ!」
銃の引き金を引き、肩を透かした後、本命の撃水で俺の脳を目掛けて撃つ。
「……ふ、チェックメイト」
そう呟いたのは宿ではない。
俺だ。
「……なっ!?」
爆発する。
火花を散らしながら、電撃と共に。
いくつもの個体が悲鳴を上げ、爆発と共に宿が吹っ飛ぶ。
パチパチと燃焼し、そこら中で紅いゆらゆらとした炎が漂う。
「お前が鼻で笑った〈霧 前 雷 王〉だ。物質を魔術化した時に出る煙を目眩しとして発動した後、その本来の役目『時間差爆弾』で相手を仕留める。強いだろ?」
俺は苦笑をし、口角を上げる。
「……だが、俺は。…………はっ!?」
宿は、寝転がっている状態から立ち上がろうとしたが、ローションのせいで上手く立てない。
「俺の勘だと、今立てていたら、魔力を使い切った俺を狙って何かしらの魔術を撃っていただろう」
けど。
「けど、運は俺に味方した。お前の負けだ。宿」
ベトベトになった銃を拾い、一発宿に放つ。
「第二回戦Hブロック勝者。和田伊尾屋」
宿はくっ、と声を漏らし、床にへばりつく。
俺はすぐ側まで歩き寄り、身体を屈ませ、手を差し出す。
「いい勝負だった。ありがとう。宿」
宿は俺の手を掴み、ゆっくり起き上がる。
少しだけ溢れた涙を腕でぬぐい、改めて俺の手を握る。
「……ああ。俺の負けだ。伊尾屋」
彼はエオズに入学してからの初めての友達。
しかし、リベンジをさせてあげるどころか、その権利を奪ってしまった。
けど、だからと言って手を抜けるワケではない。
何事にも全力で立ち向かうことは、魔術体術問わず、大切であり、それこそがスポーツマンシップというモノだ。
「……もしトーナメントで水野浦に当たったら勝てよ。絶対に」
どうやら俺はその復讐とやらを背負わされたらしい。
「……ああ。もちろん」
もちろん。
勝つ、ということが目標なら、そんなことは通過点に過ぎない。
水野浦がどんなに強敵であっても、だ。
「……これより休憩に入る。勝敗問わず、全員一階の大講義室に行くこと。以上だ」
俺、いや俺たちは部屋を退出した後、階段を下り、大講義室を目指す。
ここから始まる戦闘は皆、真の猛者だけが集まった誰も予想が付かないモノだ。
最強の中の最強を決める闘い。
優勝は誰かなんて誰も知らない。
しかし、彩られる文章を制作するのは自分自身だ。
だから、俺は——。
「俺は、自分自身の力で優勝を掴み取る」




