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一年生の抱負

 原は寮でのルールを説明した後、入室の許可を出した。

 建物は五階建て。横に長く、なんと入口が5つもある。

 一階がラウンジで、二、三階が男子寮。四、五階が女子寮だ。夜の八時に三階から四階は上るための階段にある踊り場が封鎖されて、八時三十分までに部屋に設置されている指紋認証付きの赤いボタンを押さないと、単位を一単位減らされる。特に封鎖後、異性の部屋に行った者はさらに単位が減らされるらしい。


 2101から2201号室、3101から3103号室までがR組男子寮。4101から4201号室、5101から5200号室がR組女子寮だ。


 察しの良い人は分かると思うが、俺はR組の生徒がたった三人しかいない三階、3103号室へ入ることになった。後に『隔離施設』という酷いあだ名がつけられることも知らず……。

 ドアを開けると、そこには段ボールの山があった。山といえど段ボールの数は少なく、いわゆる生活必需品のみを実家から取り寄せた感じだ。

 鍵は指紋認証で認証後、チューブラ錠のドアノブで扉が開く、という仕組みだ。

 

「まったく酷いよな」


 俺が段ボールの中身を開けようとして屈んだ瞬間、ドアの方向から声が聞こえる。

「ええと、確か前の席の……」

「そう。龍川宿りゅうかわやどるだ。よろしく。和田」

 背は俺より少しだけ高く、髪は黄土色で顔もイケている。ここまで俺のクラスに高身長らしい人物がいれば和田伊緒屋は身長が低い、と思われるかもしれないが、決して低い訳ではなく、その身長は一七○cmだ。高一にしては全然上出来な方だろう。

「伊尾屋でいいよ。よろしく宿」

「おう、よろしく。伊尾屋」

 簡単な自己紹介を済ませた後、俺はさっき宿が言った言葉にのしかかるように「確かに酷いよな」と言葉を続ける。

「そうそう。二階でのクラス情報網、というか。それがここまで来るか分かんないし、例え来たとしてもリアルタイムじゃないし」

「ああ、だからフリータイムの行動範囲は三階じゃなく、二階になることは間違いない」


「おっ、情報収集係決めますか?」


 また客が増えた。

 宿の俺とは逆側の隣人だ。


「そうしよう!じゃあ言い出しっぺの水栗で」 

「え?知り合いなの?」

 俺が反射的に聞いてしまう。


「ん?ああこいつは水栗一平みずくりいっぺいって言って中学の同級生でな。チビ眼鏡だけど、解析技術の能力スゴくてさ。それでその能力生かしてエオズに入学。要は推薦だな」


 推薦入学者。そのワードは、世間的には悪い風潮がある。勉強をしないだの。頭が悪いだの。しかしエオズ学園に限っては違う。むしろ一般入試より頭が良い生徒なんてゴロゴロおり、『真』の特技を持ち合わせた者だけが受かる至難の入試形式だ。 


「じゃあ、という訳でよろしくお願いします。伊尾屋」

「……お、おう」

「情報収集係」

「そっち!?」

 意外にも中々に面白いヤツだ。

 しかし、『解析技術』というものはどんなものなのだろうか。一括りに言っても種類は沢山ある。

戦艦、スパイ、覆面強盗。

ま、いずれ解き明かされることだ。果報は寝て待つのが一番だろう。


「じゃあ、俺荷物整理するから」

「あ、僕も」

 二人は俺に荷物を整理しなければならない旨を伝えて、この場を去る。

「おう、じゃあまた」



さて、1時間程経ったからだろうか、荷物は全て整理が終わり、段ボールも綺麗にまとめて指定されたゴミ置き場に置きに行く。糸で結ばれた潰れた段ボールが悲鳴を上げながら、俺に担がれる。


さっさと置き、すぐさま帰ろうとると、背後から俺を呼ぶ声と共に手を振っている少女がいた。

「和田ー!二十日ぶり!」

すぐさま分かった。

俺の出身中学でもう一人のR組入学者。


江頭純恋えとうすみれ


 髪は紅髪のポニーテール。目がぱっちり開いていて、スタイルもそれなりにバランスは取れている。 魔術は一等級。そして勤勉な姿勢とは裏腹に明るく健気な所が特徴的だ。あだ名は名前がすみれなので皆からは『すみ』と呼ばれている。

「……なんだすみか。トイレならあっちだぞ」


「だーれがドジっ子女ですか!まぁ否定はしませんが。段ボール片付けに来たんだけですぅ」


 俺のおちょくりに素早いツッコミをいれる。

「そうか。悪いな。じゃ」


「ちょちょちょ!和田!待って待って!ストップ!ちょっとあんたに聞きたいことがあるんだけど」

 俺は首を傾げる。


「……なんで入学式に伊予さん来てたんですか!?」


「……いや俺も知らん。ま、でも俺朝道場行ったら入学式楽しみにしとけよー、とか言ってたし。なんかあるんだろうな、とは思ってたけど」


 事実をありのままに何も隠すことなく、すみに伝える。後付け感は半端ないが、これもトークスキルの一つ。サンカクはマルにする。これはコミュニケーションの基本。曖昧なまま話をすると嫌われてしまうことは実験済みだ。


「じ、じゃぁ、和田はそれ以外何も知らないワケね?」


「ん、ああ。お前あの三人の中に入れて良かったな」

 『あの三人』とは伊予さんが言う知っている人のことだ。

 中学生の頃、俺たちが通っていた中学校の魔学特別授業で伊予さんが講師になった時、実技において一人の少女に目をつけていた。

 

 それが彼女だ。


「和田は『道場の一人』でしょ!当たり前だけどその三人の中に入ってるし」

「つまり俺は道場の仲間がこの学校にいないということ。あんなに大きい道場なのにもね。つまり俺は実質ぼっちだ」

「あんたくらいのコミュ力があれば、ぼっちなんてなるワケないでしょ!むしろウチの方が心配だわ!たしかに今年のエオズ入学生に私が通っていた道場の子はいるけど、皆SかHなのよ?R組には誰一人としていないのよ?」

 流石シンジュクの大手道場には、エオズ入学者は沢山いるか。素直に感心をした後、俺は唇を綻ばせる。


「……安心しろ。中には中学の同級生も道場の仲間にもいない者もいる」


その上、俺とすみは小学生からの幼馴染だ。


するとすみは眉間にシワを寄せた顔を元通りに直す。


「そうだね。そうだった。…………いや、ありがとう。うっかりお前の存在を忘れていた」


「……じゃあ、お前は今誰と喋っているんだ」


 そう言いながら、俺は苦笑いをした後、ポケットに手を突っ込む。


「じゃあ、俺そろそろ行くわ。じゃあな。ドジっ子娘」

 俺は駆け足で部屋に戻ろうとする。


「………………………って、誰がドジっ子娘だ!?」

 彼女は手をメガホンにして、俺の耳へとそのツッコミを届ける。

 

 俺は部屋に戻り、整えたベッドの上で寝転がる。

 

 さて、俺はこの学校に入学した理由、それは魔術の能力を上げるためだ。それを達成するには、『小さな目標』が必要である。


 では何処で刻むか。


 いやぶっちゃけ、何処でもいいのだが。


 ではキリがいい、一年単位としよう。


 しかし『小さな目標』では日本語が長い。


 それを言い換えた言葉。それを『抱負』と置こう。


 エオズ学園高等部。一年R組の抱負。

 

 それは言わずとも分かるだろう。


 それは。 


 それはこのクラスで一番の『リア充』になることだ。






 


 



 

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