入学の花 【前編】
3号館から華やかな音楽が聞こえた。
入場の合図で、行進開始の合図とでも言えるだろう。建物の中からは拍手がわっ、と盛り上がる。
「では行進だ。肩の力抜いて。周りの人には迷惑にならないように」
原が正面を向きながら、建物の中には聞こえない程度の声量で俺たちに伝える。
先頭が動き出す。俺たちは前にに合わせてゆっくりと進む。
入口に差し掛かる。外とは比べ物にはならない明るい発光色の光が俺たちを照らす。
俺たちR組の集団は一番奥だ。席は三○cm程間隔が空いており、約百二十人の生徒+その保護者が入っても余白があるくらいの広さを持ち合わせている。
そういえば天空兄弟に『母は仕事』と嘘っぽく伝えたが、あれは事実だ。チバの工場で働いており、今は戦艦を造る仕事に就いているらしい。朝は早く休みも取れないので、入学式には参列できない。
またニッポン一の学校というのもあり、入学式はアーカイブとして残る。だから入学式自体は見れるのだ。
五列ごとに刻まれたR組の椅子の集団、前から見て一番後ろの左が俺の椅子の位置だそうだ。
まずは座るのではなく、椅子の前に立つというのは暗黙の了解。
S組の最後まで入りきった後、音楽は鳴り止む。もちろんその音楽は、在校生によるものだ。
「…………只今より、西暦二○一四年。第三十期生。エオズ学園高等部。入学式を行います。一同礼」
生徒、先生、来賓そして保護者が正面に向かって礼をする。正面には校章をプリントしたものとニッポン国旗がデカデカと壁に掛かっている。
「本入学者R組三十五人。H組四○人。S組四五人。うちR組一般三十名。推薦四名。海外特選入試一名。H組一般三十九名。推薦一名。S組一般四十名、推薦五名といった入学方式での入学です。なお海外特選入試は導入後二人目の合格者で五年ぶりの入学です。しかし、現在内部紛争が起こっており、日本へ入国できない状況になっている為、本日は欠席です。なお通学は半年後を予定しています」
入学形式は一般、推薦、海外特選があり、説明は割愛するが、とにかく難しい。いつかこの物語を語る上で説明が必要な時に語らせてもらうことにしよう。
「海外特選入試合格者ユア=カーチンに代わりまして、一般入試首席一年R組水野浦真希に挨拶していただきます」
すると俺の席の前、教室では左隣のあのショートヘアの子が「はい!」と元気な声で返事をしてから教壇を目指して歩き始める。周りからは小さい声で「おぉ…」「あの娘が……」といったような歓声が上がる。
彼女は教壇の前に立ち、マイクを彼女の背丈に合うように調節する。そして首席の記憶力を活かしたのか読む文章は完全に憶えた様子でカンペを取り出さず、胸を張る。
「春の息吹が感じられる今日、私たちはエオズ学園に入学いたします。本日は私たちのために、このような盛大な式を挙行していただき誠にありがとうございます。新入生を代表してお礼申し上げます」
一言一句丁寧に話し、その言葉の厚みは俺が思っているよりも薄いようで厚いものだ。
「そして私、いえ私たちは共に競い合いながら成長しあうことをここに誓います。エオズ学園一年R組水野浦真希」
そう締めくくり、俺たちや保護者に向けて礼をした。一瞬の沈黙の後、盛大な拍手が起こった。
「続いてはーー」
その後国歌、校歌を歌い、着席。そして簡単な学校説明が行われた。
学校は単位式で〇単位スタート。テストごとに一から十までの単位がつくが、遅刻や問題行動を起こして減点されることもある。
各クラスごとに単位基準があり、一年の間にそれを満たさなければ次の学年からクラス転落だ。なおS組でその単位基準を満たさなければ退学らしい。R組やH組に比べたらレベルが低いクラスな上、それなりのハンデがある。歴代S組の生徒はそれを『退学ライン』と呼んでいるらしい。逆にR組に入ってしまえば強制退学などの措置が取られない限り、退学することはまず無い。
そして単位が通称『アップライン』を満たせば、上のクラスに上がることができる。もちろんだが、H.S組限定で毎年上位一名から三名がそれぞれ上がるらしい。下のクラスほど人数を多くとっているのはそれが理由だ。真の鉄砲玉を見極める為に学校が用意したシステムなのである。
「次に校長名森幸平代理副校長名森茂よりご挨拶です」
そして司会の教員から一段とオーラが出ている若い男へマイクが行き渡る。
「えー、まずは皆さん入学おめでとうございます。この倍率の高い入学試験を突破できたのは誇りに持っていいでしょう。しかし入学はゴールではなくスタートです。ここからさらなる高いレベルの人との勝負です。前後左右にいる人は味方でありライバル。その意識をしっかり持ってもらって頑張って欲しい」
そう言い切った後、皆拍手の構えをした、が。そこで副校長は息を吸ってからゆっくりとした口調で一言放つ。
「……………本校校長名森幸平はキュウシュウの戦争で戦死した」
重圧な空気になる。
「よって本校の校長は二代目として私が受け継ぐことになった。また始業式で全校生徒に伝える予定だ。だからこの知らせを二回聞かなければならないことになるが。許して欲しい。……私からは以上だ」
拍手は起きなかった。
突然の発表により、周りの雰囲気は『動揺』。
現在日本軍は九州とくに福岡が戦場となり、大陸軍と戦火を交わし合っている最中だ。それに名森幸平は軍に属し、日本軍として戦っていたのだが。どういう死に方をしたのかは分からないが、俺もそのことに対して驚きを隠せなかった。
「……………え、あ、あ、ありがとうございました。
つ、続きまして副じゃなくて校長先生、名森茂先生から新一年生の担任の紹介をしてもらいます」
副校長いや校長はマイクをまた渡し、咳払いをした後、
「……えぇ、まずは一年R組。原航先生。一年から三年までの体学を教えている。エオズ学園第十期生の体学首席でR組卒業生だ」
原は礼をして、拍手を浴びる。周りはその厳つい身体に魅了されている者もいれば威圧を感じている者もいる。そして何よりエオズ卒業生ということに驚きを隠せない。
「次に一年H組。寝川森菜先生。一年生と二年S組、三年H.S組の魔学を教えることになった」
あの美人赤眼鏡教師、いや寝川先生は浅く礼をする。また拍手か起こり、先程までの重い空気が嘘のように明るくなる。
「最後に一年S組。ミュー=キューオ先生。第二十五期生初代海外特選入試合格者。一年生の外国語、数学を教えることになった。君たちとは五歳しか変わらない。何か悩みがあったら一番相談しやすい相手だろう」
まさかの二十歳、で薄々勘づいていたが、初代海外特選入試合格者だった。寝川先生とは違い、深くお辞儀をしてみせる。保護者は彼女の若さに対して、期待や不安が入り混じった拍手が起こる。
「ーー以上で一年生担任紹介を終わります。
最後に来賓挨拶です。代表してチョウフにあります、雷鳴堂の師範雷鳴伊予さんにお話を頂きます」
すると、来賓席……ではなく窓からジャンプをして教壇の真上に着地する。彼は「正装」という文字を知らないらしく、朝のダラシない髪はそのまま。真っ白の服に稲妻の絵がプリントされている服に、似合わない白のラインが入った黒色のサイクリングパンツを履いていた。この季節には似合わない半袖半ズボンでピアスも何個穴を開けているか分からない。
そして司会から左手でマイクを受け取り、「よっ」と言って、教壇から降りた。
さらに追い討ちをかけるように右手をポケットに入れて、容姿とは似合わない落ち着いた声で話し始めた。
「はじめましての方ははじめまして。雷鳴伊予です」




