第四話 バドミントン
「ふ、良い闘気だ。どうやら修行を積んできたようだな。だがワシに勝とうなどと思うのは500年早いわ」
屋根の上に立ち、一つにまとめた長い白い髭を撫でながら無敗のラスボスを気取るおじいちゃん。
でも何度か負けてるよね? わたしは見た。
対するは
「今日こそ勝たせてもらうぞ無敗の魔王よ。まだ気付かぬのか。貴様の城にもう蜜柑は残っていない!私がひとつ残らず食べたからな!
つまり、今の私は む・て・き!」
屋根の上のおじいちゃ……魔王にラケットを突き出しながら叫ぶ有里菜。
ん? 何度か勝ってるのに、そこは合わせるんだね。大人だなあ。
って、ひとつ残らず?!
つまり?
つまり、わたしの蜜柑もすでに存在しないということ。
まだあまり食べてないのにー!
有里菜よくもー!
「モンブランもう1個追加!それも特大のやつ!
今日作ってもらうまで帰さないからね!」
・・・無視された。
はいはい、いいですよ。
なれてますよ〜。
嵐の前の静けさ。。
風の精霊が珍しく静かにしている。
妖精たちも静かに傍観している。
ジャスミンの子ども妖精がお母さん妖精の膝の上で真剣な眼差しを送っている。
微笑ましい。
もちろん、うちの庭にバドミントンのネットなどない。
ルールは簡単、先にシャトルを落としたほうが負けの一発勝負。
よって相手が返し辛い所に打つとこっちも返し辛いのだ。
相手の返す方向を予測することがかなり大切になってくる。
だけど卑怯な手は彼らは使わない。
全力でぶつかる。ぶつかる。。全力で。。。
わたしの部屋の窓。。掃除大変だった。。
あ、嫌な事を思い出してしまった。
先行は有里菜。
「いざ!世界の蜜柑の為に!」
どんな設定?
バン!
勢いよく放たれたシャトルはおじいちゃん選手に向かって一直線。
「貴様ァァ! ワシの蜜柑をォォ!」
みんなの蜜柑だよ!
おじいちゃん選手、それを野球のスイングで見事に空高くホームラン!
空高く。
ホームラン!
これは野球じゃないのでは?
シャトルを追いかけどこまでも走る有里菜選手。
有里菜選手を後から追いかけるおじいちゃん選手。
なんて競技?
おじいちゃん、いつもながら体と走る速度が合ってないよ。
ああ、高校生を追い越したらだめでしょうにー。
変身魔法の意味は?
おじいちゃん選手、シャトル落下予測地点に余裕で待機。
有里菜選手の次の一手を待つ。
有里菜選手、ギリギリのところで、スライングキック!
ラケットの意味は?
有里菜選手に蹴られたシャトルは左に弱々しく飛ぶ。
「ワシの本気を見るがいい!」
真上めがけて構えるおじいちゃん選手。
「はぁぁぁぁぁあ!」
あれ?おじいちゃん? ラケットに魔力流してない?
おじいちゃん選手、反則でしょうこれ。
おじいちゃんの周りには風の精霊が集まりだしている。
風の精霊さん、こういうイベント好きだもの。
辺り周辺も暴風が吹き荒れる。
すごーく迷惑そうな表情の薔薇の妖精達。
ごめんなさい。
呆然とする有里菜選手。
風の精霊集まりすぎ!
台風か!
「いくぞぉぉぉぉお!」
おじいちゃん選手フルスイング!!・・・しない?
あれ?
・・・構えたまま動かないおじいちゃん選手。
シャトルはいずこへ?
シャトルさんは彼方へ。
暴風の彼方へ。
「えーと・・・おじいちゃん選手がシャトルを見失った為、有里菜選手の勝利ー!」
「やったあ ーーー!!
じゃなかった。見たか魔王よ。私には風の女神の加護があるのだ。これからも私の蜜柑は私のもの、貴様の蜜柑も私のものだ! ふっ」
蜜柑の守護者 有里菜 絶好調。守護者?
「な、なんてこと。風の女神がワシを見捨てるとは!
く、ワシの蜜柑も、これまでか」
あながち間違ってないよおじいちゃん。大人げなかったんだよおじいちゃん。
二人とも。みんなの蜜柑だよ?
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次の日の朝、ポストに昨日のシャトルが入っていた。
風の精霊さん、意外と律儀なのね。