上弦 −xx
まるで咲きかけの薔薇の蕾のように可憐な唇!
全てを見透かすような
その月砂色の瞳!
ボクの心の殻を破ってくれるその美声!
ああ、君こそボクの魂の片割れ!
さあ、ボクと結っこ
「はいそこまでぇ!!」
今まさに結婚の申し出をするところだった金髪ミディアム、容姿端麗、見て爽やか!な青年の言葉を遮ったのは高齢の男だった。
「褒め言葉は受け取っておく。月砂色とは粋なことを言うじゃないか、あんちゃん。だかここまでだ」
「なぜ止めるのですか お父さん!僕は本気です!」
青年は自分がなぜ止められたのか理解できない。
高齢の男は残念なものを見るような目で青年を見てため息をついた。
片膝を床に付け結婚指輪を差し出したままの姿勢の青年に信じられないものを見るかのように見つめられている高齢の男は言う。
「この子も産まれたその日に見ず知らずの変人からプロポーズされそうになるとは夢にも思ってなかっただろうよ、メテオールのあんちゃん。本気なのなら医者に脳を見てもらうんだな。
あとおまえには殻などないわい。少しは殻に閉じ籠ることをおすすめする。
それと、勝手に家に入ってくるんじゃない。 以上」
高齢の男は泣いている赤ん坊を自分であやすことを諦め娘を呼んだ。「おーい。ちょっときておくれ」
「待ってくださいお父さん!まだこの子から返事を貰っていません!」
「聞こえんのか?さっきからこの子が泣いているだろう。
答えはNOだとさ。あとお父さんと呼ぶのをやめんか。そもそもワシはこの子の祖父だ。知っているだろう。
ワシより先にボケたのか?頭を使え。頭を使わんと早くボケがくるぞ。
そんなに結婚したいならおまえならすぐにできるだろうに。
おまえが引き起こしたあの前代未聞の騒動以降、ほぼいなくなったと思うが、今だにおまえと結婚したがってる若い子も町におるだろう?
だかまあ、おまえの奇行はたくさん見てきたが、さすがに今回は・・・引いたわい」
「答えがNOなのなら、しかたありませんね。メテオール家の名に泥を塗る気はありません。潔く答えを受け取りましょう。では!」
爽やかな笑顔を浮かべ青年は駆け足で帰っていった。
「・・・もうすでに泥まみれだと思うが?」
しばらくして、青年が帰っていったのを見て娘が部屋に入り言った。
「父様、あの人この前、猫に求婚していたわ」
ーーーーー
青年は自室の机に向かい、掟の書かれた洋紙を眺めていた。
机には魔法の本が何冊も無造作に広げられている。
「うーん、なぜだ
穢れ指数0の存在を見つけても振られてしまう。
赤ん坊というのはとてもいい線をいっていたとおもったんだけど。
いったいこの掟は自分にどこを目指せと言っているのだろう。
結婚なんてするなと言いたいのだろうか?
この前は猫で0の存在を見つけたからとりあえず求婚したけど猫パンチをくらう結果になったし。
うーーん、穢れ指数0以外の存在と結婚したときはどんな罰則が発動するんだろう?
どうおもう? クラ?」
問いかけられた青年の数少ない友、雪ノ下の妖精クラは器用に自分の透き通った大きな羽で小さな体を包み、白く長い髪を自分の首に巻き付け机の隅でまどろんでいる。
「べつに けっこんしなくて いいんじゃない ? だって けっこんしても あいては いつか だし。 けっこんって なにが たのしいの ?
のんびり いきれば いいじゃない ? きっと おきてを やぶったら いやなことに なる だめ ぜったい。 ねむい おやすみ」
「うーん確かに、別に結婚しないと死ぬってことはないんだろうけど、クラも町で楽しそうに笑いながら歩くカップル達を見たことあるだろう?
今日行ったエルマンじいの家族だってとても楽しそうだ。家族ができるって幸せなことなんだよ、きっと。
にもかかわらずだ、メテオール家の掟その10はそれを阻止しようとしているとしかおもえないんだよねー。
まだこの王国を離れたことないし、いっそのこと外に出てみるとか?
そもそもこの掟を作った始祖はどこでなにをしてるんだかねー。そもそも生きてるのかなあ?
自分の掟で死んじゃったりしてたりしてー。
まてよ、始祖には掟は適用されてたのかなあ?
まさか子孫への嫌がらせじゃないよねぇ?
そもそも人を穢れ指数だけで見るってどうなのって思うよね。
穢れっていっても生きてればみんな持ってるものだし。
それが味になることもあるんじゃないかなあ?
どんなに高潔な人でも生きていれば色々あるわけでしょう?
なに、始祖って人間嫌いだったのかなあ。人間に嫌な思い出があるとか?
今までボクと同じ年齢で0の人見たことないよ?
そもそも人間で0なんて産まれてすぐの赤ん坊くらいだよ?
ボク自身も0ではないよ?
クラー起きてよー、友達だろう? 掟についてかたろうじゃないかー おーい」
「 ふられる よんねが わるい。 おやすみ」