第十一話 スペシャル有里菜モンブラン
クラじゃないけど、眠い。
昨日は色々あって眠れなかったよ。
眠そうに学校の席につくアデル。
昨日はひいおばあちゃんが現れるは、ひいおばあちゃんに何かお腹から抜かれるは、ひいおばあちゃんが太古の魔法使いの一人だは、ひいおばあちゃん説明なしに消えるは、謎が多くて眠れなかったよ。
お母さん達もそのあと心配ないからって何も教えてくれないし。
でもクラが4年ぶりに起きた。わたしのパートナー妖精、雪の下の妖精クラ。今は霊体化して普通の人達には見えないようにしている。例によってわたしの髪の毛に埋もれて爆睡中だけども。
今日は放課後が楽しみ。なぜなら有里菜が入っているスイーツ研究部にお呼ばれされているのだから。有里菜がいうには新作モンブランが完成したとのこと。有里菜の作るモンブランは絶品なのだ。冬休み前に貰ったモンブランもとてもおいしかった。楽しみだなー♪
今日のわたしの運勢は 花の8番 "収穫の時" 、風の10番 "悩みの解消" きっと素晴らしい日になるぞー! 眠いけど。
「アデルー!おはよー! ん? おねむ?」
そこにいつもの調子で有里菜が現れた。
「おはよう有里菜。今日はモンブラン楽しみだよー」笑顔で答えるアデル。
「ふっふっふ。今日のモンブランは今までで最高傑作!スペシャル有里菜モンブランと名付けておこうか」
「ス、スペシャル有里菜モンブラン!?」
驚愕するアデル。
「驚愕するのはまだ早いよアデル。なんと今回のモンブランは………! おっと口を滑らすところだった。見てのお楽しみ!もう席に戻らなくちゃ。また後でー!」
き、気になる……
ーーーーーー
「おい。有里菜。モンブランは?」
蜜柑と莉子と一緒にスイーツ研究部の部室に行きテーブルの上に置いてあるモノを見てアデルの顔からは笑顔が消えていた。
「だからこれだよー!目の前にあるでしょ?」
笑顔の有里菜とその他部員たち。
「え、これモンブラン?」
アデルはテーブルの上に置いてある立派な山脈の模型を指差した。
「違うよ!これはグランドジョラスだよー!モンブランはこっち!」
そこから少し奥の山を指差す有里菜。
「グ、グランドジョラス?!……ああ、うん。そうね」無表情なアデル。
「もう、しっかりしてよー、どうしたの?」
と心配そうな有里菜。
「え、いや、わたしのモンブランは、どうしたの?」
「だからこれだってー」
あははははと笑顔で山脈を指差す有里菜。
「………模型だよ!これ……模型だよ!アルプス山脈だよー!」涙目のアデル。
「これぞスペシャル有里菜モンブラン!とその他多数!」
胸を張り自慢げな有里菜はアデルにスプーンを渡した。
「これでどうしろと?わたしの "収穫の時"はいずこ?」また有里菜のドッキリに引っかかってしまったとスプーンを受け取りながらシュンとするアデル。
「しゅうかく? よくわかないけど早く食べてみてよー!」
アデルが何を言ってるのかよくわからない有里菜。
「食べる? はあ、はいはい〜」
と諦めモードで有里菜に合わせてモンブランの模型にスプーンを持っていくアデル。
「?? え? まさか!」
スプーンはサクッと模型に突き刺さった。
「ふっふっふ。」
誇らしげの有里菜。
「これモンブラン!?」
「さっきから言ってんじゃん!」
アデルにツッコミを入れる有里菜。
「おいしい!ホントにモンブランだ!というか、山脈リアルすぎ!そしておっきい!これ全部モンブラン?!」
驚くアデルにはいつもの笑顔が戻っていた。
「モンブランはモンブランだけだよー。グランドジョラスはまた違う味。食べてみればわかるよ。
でもああ、ダメ、言いたい。言っちゃう!そう、グランドジョラスの中身はなんと、旬な蜜柑をまるごと使用したパウンドケーキ!蜜柑はグランドジョラスのように偉大な存在。蜜柑は神! グランドジョラスに使うのは蜜柑以外考えられない!
これぞ、スペシャル有里菜アルプス山脈!!」
「ス、スペシャル有里菜アルプス山脈?!」
衝撃を受けるアデル。
なんか顔を赤らめている蜜柑。
「そして〜!これのレシピ作りで遅れたけども誕生日おめでとうアデル!!このスペシャル有里菜アルプス山脈は私からのプレゼント!」
『おめでとうー!』
蜜柑、莉子、部員たちがそれに続いた。
クラッカーが部室に鳴り響いた。
「え、え、ありがとう! 覚えていてくれたんだ……今年は華麗にスルーされていたのかと思ってたよ。うぅ、ありがとう!」
アデルは顔を赤らめ少し涙目になりながら喜んでいる。有里菜に抱きつくアデル。
「で、これは私からのプレゼントだよアデ子。開けてみて」
とプレゼントを差し出す莉子。
「ありがとう りーこ姉!」
中から出てきたのはピンク色のロング丈ノーカラーカーディガン。さっそく着てみるアデル。サイズもピッタリのようだった。このカーディガンは莉子と一緒にショッピングに行った時にアデルが欲しがっていたものだった。
「うん。よく似合っているさすがアデ子だ」
「これずっと欲しかったノーカラーのカーディガンだ。。ありがとう」
「アデルちゃん。私からはこれ。気に入ってくれるといいけど…」
と蜜柑がプレゼントを渡す。
蜜柑からのプレゼントは造形美術の天才である蜜柑が石膏粘土で造ったウサギだった。今にも動きそうな躍動のある作品。アデルとアデルの家族もみんな蜜柑のファンだった。特にアデルの母エレオノールは何がなんでも必ず蜜柑の個展に顔を出している。
「かわいい!ありがとう蜜柑ちゃん!」
アデルはみんなからの心のこもったプレゼントでとても幸せな気分になった。
オレンジジュースとジンジャーエールを用意する蜜柑。
有里菜はてきぱきと食器をテーブルに並べている。
今日はアデルにとって素晴らしい日になった。