第八話 底無しの黒(前編 3 )
電車をおり学校に向かうアデル。
あの別れ際に言った言葉、わたしの推測が正しければおじいちゃんの飴の効果を解除したのはあのお姉さんだ。
もしあのゴスロリお姉さんが魔女なら相当強い力を持った魔女に違いない。おじいちゃんの飴は強力だもの。それを解除するなんて一体何者。
「おはよう! て・ん・し・さん!」
そこへ有里菜が現れた。
満面の笑みで現れた。
「・・・まさか、見てた?」
顔を真っ赤にするアデル。
「みーちゃんかわいかったよねー、そうそう、天使さん。私にもお菓子ちょーだい?」
このままでは今日一日わたしはずっと天使と呼ばれることだろう。。
考えなしに抵抗するとムダに体力を使うことになる。わたしは知っている。以前も同じようなことがあって有里菜に抵抗していたら逆に広まって大変だったのだ。ここは賢くならなくては。
「その前にタロットしてあげるよ。ふむ、うーむ、なになに?
有里菜は今日一日、"た行"、つまり、"たちつてと"を使ったらなんかリスになる?」
「な、なんかリスになる?!」
とショックを受ける有里菜。
わたしのタロットは当たると有名なのだ。
「これはせめてもの気休めだ。受け取りなさい」
とお菓子コレクション袋から小さなチョコを有里菜に渡すアデル。
"た"行を言わないようにコクリコクリと無言で頷きチョコを受け取る有里菜。
か・・・勝った・・・。有里菜の封印成功ー!!と心の中で歓喜するアデル。
これで有里菜は天使と言葉にできない。さすがわたし。
「ペ、ペンペンやマルも?」
と慎重に"た行"を使わないように話す有里菜。
長い付きあいだとだいだい何言いたいのかわかる。
テンテンと言いたいのだろう。つまり濁点。
「濁点は大丈夫だよ。あくまで"たちつてと"だけ」
さすがに制限を付けすぎると生活に支障が出るだろうと答えるアデル。
「わか……そう、なのね。リスになんないようにする! ありが…サンキュー。エ・ン・ジェ・ルさん!」
満面の笑みの有里菜。
「?!」
天使よりも恥ずかしいよ!?
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例により一日中、有里菜がエンジェルさんと呼んできたからか、クラスメイトも真似して呼んできた。なれてるとはいえ、さすがに今回のは恥ずかしかった。天使さんのほうがまだましだったよ。有里菜は無事リスにならずに乗り越えていた。こういうところ器用なのだ。
まあ今日の占いは有里菜を封印するために考えたものだけど。失敗に終わったけどね。。
今日は晴の海の中心、言い伝えに出てくる底無しの黒が輝き始める日。早く帰宅して庭のお気に入りの樹の上で月を見上げよう。